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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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八十七話 トール家として

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「おじい様たちがヒノ国全体の事を思ってお話されているのは分かるのですが、それは朝廷でも偉い方々がなさる議論では無いですか? エタケはこの局面でトール家としてどう動くべきかを話す方が大事なのではないかと愚考します」


 不意のエタケからの提案に熱を帯びていた話し合いが一気に平静を取り戻す。

 確かに俺たちは次々と齎された急報によっていつの間にか国全体の話をするようになってしまっていた。

 トール家としてどう動くかを考えるべきだと言ったエタケの指摘は尤もだ。


「エタケの申す通りじゃな。今はワシらはワシらのことを考える事が先決じゃわい。エタケ! よくぞ申してくれたな!」

「っ! ありがとうございます。おじい様達のお話に水を差してしまい申し訳ありませんでした」

「構わん。エタケが言わねば私たちは未だに大局の話を続けていたことだろう。無論それも大事なことではあるが、トール家としてどうするのか話し合うことを優先すべきだった。よくやった」


 爺ちゃんと父上から褒められてエタケは顔を朱に染めて喜んでいた。

 俺と母様は微笑ましく見守り、キント兄とサダ姉はエタケが大人の話合いに口出しをして褒められたことにポカンとしていた。


「ではトール家としての話をしよう。ワシは以前言った通り大臣共が煩いので皇京から出ることは出来ん。これは決定事項じゃ。破れば政敵共に叩かれて最悪トール家が潰される可能性すらある」

「承知した。サキも近衛として宮中の警護に付くだろう。残る我ら五人だが全員でシナノを目指す。これは決定だ」


 父上の発言に爺ちゃん以外の皆に動揺が広がった。


「そんな! ヨリツ様。万が一を考えてお家断絶を避けるためにもツナとエタケを残すべきではありませんか!?」


 母様が悲痛な声で訴える。

 全く持ってその通りなのだが俺は激戦になると分っている所に父上やキント兄とサダ姉だけを行かせる気はない。

 エタケには残って母様や爺ちゃんと一緒に居て欲しいと思うが......。


「かか様、いえ母上。エタケは既に実戦に出たこともあります。魔獣だけでなく人の命を奪う経験をしたことも母上はご存じでしょう? 決して父上たちの足手纏いにはなりませぬ」

「エタケ......」


 スッと立ち上がり母様の前に移動したエタケが真剣な眼差しで告げた。

 その言葉に母様は二の句を飲み込んだようだ。

 しかし、今のエタケの言葉は俺にとっても衝撃だった。


 !? 待て! 待って!

 エタケは既に実戦経験があるの!?

 しかも人の命まで奪ったって!? 何時だよ! どういうことだよ!


 俺は自分よりも2つ下のもうすぐ8歳になる幼い妹の手が既に血で染まってしまっていたことに激しく動揺した。

 呼吸が乱れ、身体の震えが止まらない。


「ツナよ落ち着け。お前には話していなかったが眠っていた3年の内にエタケだけでなくキントもサダも同じような経験を積んでいる。相手は盗賊の一団や山賊で全員が咎人だ。捕縛に逆らい手向かった者をその場で斬っただけに過ぎん」

「でも!!」


 俺を落ち着かせるために父上が何があったかを簡潔に教えてくれたが、エタケだけでなく俺以外の兄姉も既に人の命を奪った経験があると聞いた俺は更に激しく狼狽した。


「武門で名を馳せるトール家の者がその程度で狼狽えるな!!」

「!!」


 普段は厳格だが今まで怒鳴る事など無かった父上が初めて俺に怒鳴った。

 その怒声は雷が落ちたかの如き迫力で俺は身体の震えだけでなく呼吸すらも止まっていた。


「兄様。エタケのことが怖いですか?」


 動きの止まった俺の頬にエタケの手がそっと触れる。

 自己流の武術を完成させようと日々様々な武器を扱っているために手には幾つも小さな傷やマメが出来ているが、柔らかく温かいいつものエタケの手だった。

 俺を優しく見つめる空色のつぶらな瞳も俺の知っているエタケのものだ。


「いいや。怖くなんか無いよ......。エタケが変わった訳じゃない」

「じゃあ妾は?」


 いつの間にか背後からギュッと俺の頭を抱き締めて耳元で問い掛けるサダ姉。

 頭を撫でる手の優しさもいつもの彼女と何の変わりもない。


「怖くないよ。サダ姉も変わらない」

「じゃあオレ様もだな?」

「勿論。キント兄を怖いと思ったことなんてないよ」


 俺の近くで握りしめた右拳をこちらに向けてニッと笑うキント兄に俺は自分の右拳を軽くぶつけてそう答えた。


 皆が変わってしまった訳じゃない。

 

 そう思うと不思議とさっきまでの狼狽がもう起きる事は無かった。


「ありがとう。みんな。みっともない姿を見せて申し訳ありませんでした」

「うむ。もう大丈夫のようだな。しかしサダよ。お前はもう少し慎みを持たんか」

「え!? 妾!? いや、こ、これはその、ツナを落ち着かせるためよっ!!」


 急に父上から指摘され、俺に抱き着いていたサダ姉がバッと離れて慌てて釈明した。

 その姿を見て皆が笑う。


 この世界に転生してもうすぐ10年経つというのに未だに前世の倫理観に引っ張られているが、前世では久しく感じられなくなっていた家族の優しさや温かさなど前世と変わらないものもあるのだと安心した。



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