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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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八十四話 人を殺す覚悟

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「ほっほ」「あぁもう! シンタウ流でもないってのに器用な避け方しやがって! こっちの攻撃が掠りもしない!」


 本気のクラマ・クラマ殿との修行が始まって早くも3日目。

 初日は軽く剣戟が起きる程度には斬り合ってくれたが、2日目からは実力が足りないとばかりに刀も抜かず俺の攻撃をクラマ流の基礎となる運足歩法だけで躱されている。


 雷珠を用いた不意打ちも効果が薄く、眼球や瞼、首筋や鼻孔など常人であれば顔を背けたり、怯んだりなど何かしらの反射反応があって然るべき攻撃なのだが、瞬きなどはするもののまるで人形かの如き無反応具合だ。

 まあそもそもクラマ・クラマ殿は生物ではなく式神なのだが。


 クラマ流の運足歩法は簡潔に言えば6通りなので動く先を予想するまでは上手くいくのだが、その後に刀で捉えることが出来ない。

 まるで俺の剣では斬られることなどないと確信しているかのような動きで、信じられないことに刀が触れたと思ってもまるで手応えが無いのだ。


 もしかして幻術なのか?


 今一度、雷神眼でクラマ殿を確認する。

 だが狒々と同じように体内の神経の筋というか電気信号的なものと連動しているのが見える。

 しかし更に深く観察すると違和感に気付いた。

 雷珠を当てた際にほんの僅かにだがその近くの部位の神経的なものが揺らめくのだ。

 

「?」


 思い切って目に見える体表ではなく、雷神眼で捉えている神経の箇所に雷珠を当てられないかと試みた。


「!」

「ほ?」


 その瞬間、クラマ殿の雷珠を当てた部位がピクリと反応を示した。

 やはり目に見えている体表は幻術か何かだ。

 どんなカラクリなのかは分からないが、雷神眼で捉えられている細い神経を束ねたようなもので出来た人型を本体と考えて戦うべきだろう。

 つまり身体の表層を斬るような掠らせる程度の攻撃では意味が無い。

 身体の芯を両断するかの如き斬撃を浴びせる必要があるのだ。


 俺は一旦クラマ殿から距離を取ると瞼を閉じて雷神眼の力を全開にする。

 この手法は視界が閉じられて視力に頼れなくなる代わりに、自分を中心に半径20m、360度の生物の動き、動物だけでなく辺りの草木に至るまで全ての電気信号の流れを感じ取って視れる。


 数年前に初めて全開にしてしまった時は脳の処理が追い付かず激しい頭痛に苛まれたが、年齢による脳機能の発達と何度か死に掛けた体験から意識すれば脳のリミッターを一時的に解放することが出来るようになった。

 おかげで爆発的に情報処理能力が強化されており、今では1分間程度であれば副作用や後遺症無く能力を使う事が出来る。

 更に視る対象を絞る事で普段の雷神眼よりも精緻に電気の流れを感じ取り、より詳細な先の動きを読むことが出来るのだ。


 雷神眼の力を全開にした俺は再びクラマ殿に肉薄する。

 この状態で視たクラマ殿は神経が丸出しになった紐人形のようなものだ。

 急接近した俺から距離を取ろうとするが、両脚の足首辺りの神経に雷珠を当てると足が止まる。

 逃げ切れないことを悟ったのか抜刀しようと動いた右腕の付け根と二の腕、手首に当たる部分に雷珠をぶつけて妨害する。


「ほっ?」


 抜刀しようとした右腕の自由が利かないことに驚いたのかクラマ殿に一瞬の隙が生まれた。


 今が好機だ!


「疾ッ!」


 肉薄した距離から横薙ぎに一閃。紐人形の胴体を上下に両断した。

 

 ......はずだった。


「ほっ」

「なっ!? ぐはっ!」


 両断したはずのクラマ殿から強烈な蹴りが繰り出され、目の前の出来事を理解できずに隙を晒ていた俺はまともに腹に受けてしまい真後ろへと吹き飛ばされる。


「くっ......」


 身体を丸めて地面を転がり少しでも肉体への衝撃を殺す。

 強烈な蹴りを貰ったせいで雷神眼は解除されてしまったが、止まったところですぐに立ち上がり刀を正眼に構えて乱れた呼吸を整える。

 俺は気を落ち着けながら状況を整理した。


 確かにクラマ殿の芯を捉えていたはずだ。

 なのに斬れなかった。

 神経の束は見えているだけで斬れる訳では無いのか?

 だが、雷珠には反応を示している。

 師匠の修行なのだから刀で斬れないということはありえないはずだ。


 ......何か重要な事を見逃している気がする。

 

 何だ? 何が足りない?


 こういう時は原点に立ち返るのが重要か。


 これは何のための修行だ?

 恐らく俺が実際に人を斬れるようにする為のものだ。

 ということはクラマ殿が紐人形の様に見えてしまう雷神眼で視ることは師匠の意図からは外れるはず。


 俺の攻撃に足りないものは何だ。


 刀を構えたまま思考が纏まらずに暫し悩んでいると、2日目以降は回避に専念していたクラマ殿から俺の方へと一気に距離を詰めて来た。


「ほっほ!」

「うおっ!」


 正面からクラマ殿の上段振り下ろしが迫る。

 相手の刀に勢いが乗り切る前にこちらから少し刀を前に突き出してぶつけることで威力を殺そうとする。

 しかしその動きはクラマ殿の想定通りだったようでこちらの刀がぶつかる前に円の歩法で背後を取られた。


 背筋に殺気が刺さりゾッとするような悪寒を感じる。

 咄嗟の対応しか出来なかったが、突き出した刀に体重を掛けて重心を前に傾け前転することで背を斬られる前になんとか躱す。 

 背後に迫った刀が空を切った音を聞き安堵するも、転がり様にすぐ飛び起きて刀を構え直した。


 今のはヤバかった。

 クラマ殿は完全に俺を斬るつもりで刀を振るっていた。

 

 冷や汗が身体中から噴き出し、ドッドッと煩い位に早くなった心臓の拍動が聞こえる。

 次の出方を伺う間も無くクラマ殿はまた此方に迫り間合いに入ると同時に斬り掛かってくる。


 以前行ったクラマ流の修行の様に壱~陸の型に対応する型で応戦するが、以前とは刀の重さが明確に違うことが分かる。

 一刀一刀に此方を斬るという強烈な殺意のようなものが込められているのだ。

 

 そういうことか。

 俺の剣に足りないのは相手を殺すという意思なのだろう。


 ネン流やキョウ流の修行で殺意を自在に扱う術は学んだが、本気で相手を殺すつもりで斬ってはいなかった。

 俺が暴走した時やイゼイで戦場に出た時など1~2度はそれが出来ていた事があったかもしれないが、未だにしっかりとは身に付けられていないものだ。


  ——殺らなければ殺られる——


 激しい攻防の中で自分の剣に足りなかったものを少しずつ馴染ませていく。

 絶え間ない剣戟が、鍛えられた鉄と鉄がぶつかる音が、クラマの山中に響き渡る。

 いつの間にか俺の身体には無数の切り傷が出来ており、ボロボロになった服もところどころ血で染まっている。

 それと比例するかのように俺の中の殺意は徐々に研ぎ澄まされていく。


  ——殺す——


 身体に馴染んだその感覚は刃となってクラマ殿を切り裂いた。

 雷神眼を以てしても傷つける事が能わなかったその身体を、研ぎ澄まされた殺意を込めた刃は容易く傷を付けた。


 その事実に驚きはするものの、手を休めることなく技を繰り出し続ける。

 これがどんな術なのかはこの際無視して良い。

 突破口を見つけた俺は体内の電流を細かく調整して更に剣閃を速める。

 クラマ流で合わせるだけでなく皇京八流全ての技を適所に用いて相手を殺す為だけに刀を振るった。


 切り結んでいくうちにお互いの身体の傷が増えていく。

 普段の修行であれば一旦師匠から止めが入るような状態だが今はそれが無い。


 既に相当な量の血を失っているはずなのに思考は寧ろ鮮明になっていく。

 いつの間にか雷神眼も発動していたようで相手の体内に流れる電気信号を感じて動きの先読みができ、更に相手の動きや落下する木葉などがスローモーションのように感じられることで普段ならば避けられないような斬撃を躱す事が出来ている。


 ——殺る——


 クラマ殿の袈裟斬りを敢えて懐に飛び込むことで刃を避け鍔を左肩で受けることで止める。

 ゴキッという骨が折れるような鈍い音がしたが構わずに左切り上げでクラマ殿の胴体を斬った。


「ほっ!......ほ」


 身体が斜めに泣き別れとなったクラマ殿は驚いた表情と共にボンという音と僅かな煙と共に形代へと戻った。


「殺った......」

「お見事ですぞ。今の殺意であれば実際に人も斬れるでしょうな」


 真後ろの師匠の声を聞いた俺は微かに笑みを浮かべると視界が真っ暗になった。



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