八十一話 魔石を用いた魔法
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-零-と-虚空-を会得してから当初の予定通り結界魔法について教わったが、そちらの結果は芳しくなかった。
拳大の魔石を借りて魔術具に魔力を流したのだが、自分の命素量を越えた魔力を使おうとすると途端に雷属性が乗ってしまい、無属性である結界の術式を発動出来ないのだ。
こうなると俺の使える無属性魔法というのは零と虚空だけということになる。
十分に切り札と呼べるほど強力ではあるのだが、誰にもバレてはいけないという制約がある為に使える場面が限られる。
雷属性の壁魔法などであれば魔石を用いれば俺にも発動出来る。
手札を増やすために今後は魔石を使った魔法の訓練もしていくつもりだ。
ちなみにたかが訓練のために貴重な魔石を使わせてくれるのには理由がある。
俺が寝ている3年の間に姑獲鳥の卵を2つほど入手することが出来たのだそうだ。
ルアキラ殿が手勢を使って全国を探索したにも関わらず、3年で六体しか発見出来なかったというから本当に珍しい魔獣なのだろう。
そして生け捕りには全て失敗しており、そのうち卵を割らずに確保出来たのが3つ。
2つはルアキラ殿たちが研究しており、残る1つはミナ・クジョウ殿の所で孵化させて騎獣、もしくは卵を入手するための家畜として育てられないかを試みているそうだ。
そんなわけで卵殻を用いた魔力の補充が可能になったのだという。
ただし運用は難易度が高いと言わざるを得ない。
魔石は魔力を使い切れば砕け散ってしまうし、貴重な姑獲鳥の卵殻も中に入れた魔石の魔力が満ちてしまうと砂になるので、魔力残量を切らさず満たさずと非常に慎重に扱わなければならないのだ。
それでもルアキラ殿は嬉しそうにしている。
貴族たちが見栄の為に手放せないでいた残量が心許ない大きめの魔石を相場よりもやや高めの金子で譲り受け、卵殻である程度補充したものを所蔵出来ているからだ。
ルアキラ殿の息のかかった商人の所には死蔵していた場所を取るだけの邪魔な残量の少ない魔石を相場より高く買い取ってくれると貴族たちが挙って売りに来たらしい。
中には稀に卵殻よりも大きな魔石を持って来た者も居るようだが、そういったものも今後の研究で補充できるようになる可能性があるため買い取ったそうだ。
これらは様々な実験に使えるとツチミカド邸に居る他の研究者と共にホクホクしていた。
俺が使わせてもらえるのはそのお礼だそうだ。
俺の不確かな理論から実用段階に持っていったルアキラ殿たちが凄いだけなのだが、大きな魔石を気兼ねなく使える機会は貴重なので厚意に甘えることにする。
「ツナ! 雷壁を出す時は厚みを均一にすることを意識するんじゃ! 薄いと破られ、厚過ぎると無駄な魔力を消耗するぞ!」
「分かった!」
拳大の魔石を左手に握り、右手の掌を前方に。
この掌の先に雷の壁が現れると想像し術の名を唱える。
「-雷壁-」
俺の掌の前に俺の背丈ほどの長方形の雷の壁が現れる。
厚みを意識して細部を調整すると爺ちゃんのいつも使う雷の玉を1度防ぐくらいの強度になった。
「うむうむ。見事じゃ。やはりツナは器用じゃわい。細部の調整の速さはワシらと肩を並べられるほどじゃ!」
「へへっ! そうだと嬉しいな。でも大量の魔力を自由に扱うのって難しいね。改めてみんなの凄さが分かったよ」
爺ちゃんの様に慣れた者は手を翳さずとも自分の周囲であれば即座に状況に対応した壁を出せるようになる。
そこまで出来るようになるには何度も繰り返し修練が必要だろう。
もしコピペ出来るようになれば一定の大きさと強度を持った壁を一瞬で複数展開出来るようになるかもしれない。
流石に魔石を使っていては熟達するまでに途方もない時間が掛かりそうだ。
なので俺は一回一回に全力で集中して質で補うしかない。
微細な魔力を扱うのとはまた違った難しさがある。
例えるならば微細な魔力は針先に糸を通したりするような難しさだが、大量の魔力は暴れ牛を自分の望んだ方向へ走らせるような難しさがある。
普段と違う疲労感のせいで今の壁の魔法を発動しただけでヘトヘトだ。
だがおかげで面白い発見があった。
大量の魔力を一気に使わずに、俺の雷珠のように微細な魔力を引き出し続けると、いつもは途切れてしまう雷珠を糸の様に扱うことが出来たのだ。
強度もなく威力も雷珠と変わらないので使いどころはさっぱり分からないが、この-雷糸-は太さや威力を変えられるようになれば相手の拘束などに使えるかもしれない。
どういったものでも手札が増えるのは良いことだ。
俺は休憩を終えると別の拳大の魔石を掴んで再び修練に励むのだった。




