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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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八十話 零と虚空

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「結界魔法について学びたい。ですか?」

「はい。ルアキラ殿や陰陽道に通ずる方々の秘技であるということは承知しているのですが、もしもの時に結界を使えれば俺でも誰かを守れたり出来ないかと思いまして......」


 石清水(イハシミズ)祭のあった週の土曜日。

 俺は結界魔法について教えを乞う為にツチミカド邸のルアキラ殿を訪ねていた。


「以前、形代などの御札についてはお教えしましたよね。多すぎず少なすぎず、決められた魔力量を流す必要があると」

「はい。もしや結界も御札でしか使えないものなのですか?」

「正確には魔術具に頼らず使えるのは叡瑠風(エルフ)であった我が師の血筋の方々のみですな。陰陽道を学んだ者には御札などの魔術具を用いた場合のみ使う事が出来ます。逆に言えば感覚に頼らず魔法陣の調整で大きさや形状、その他にも融通を利かせられているのですよ。結界農法で栽培に使っているものなどが分かりやすいかと思います」


 なるほど。他の魔術具と同じで術式によるプログラミング的なことをしているのか。

 それにしても結界は御札のような魔術具を用いることでしか使えないというのはどういう理屈なのだろう?

 例えば各属性の壁を作る魔法なんかは魔術具を必要としないものだ。

 無属性は魔法さえ使えれば属性因子を必要としないので無属性の壁魔法として結界を使えないのだろうか?


 そう思って試しに指先に小さなガラス片を出すイメージで無属性のまま魔法を使おうとすると上手くできなかった。

 正確に言えば命素が魔力に変換されはしたがそのまま霧散したという感じだろうか。


「お気づきになられましたか? 無属性とは魔力そのものなのです。属性を付与しなければ魔力のままぶつけたとしても痛みも衝撃もありません。キイチが人を驚かす為によく使っている転移も無属性魔法ですが膨大な魔力と専用の魔術具が必要になるのですよ」

「理屈は分かりますがまだ納得が出来ません。その......キイチ師匠との修行のおかげで魔法の”起こり”を知覚できるようになって、そこに干渉して発動を打ち消すことが出来るようになりました。これには魔術具が必要ないのですが無属性の魔法ではないのでしょうか?」


 俺が”起こり”を知覚しそれを打ち消せると知ったルアキラ殿は目を見開いて驚いていた。

 これは師匠以外には話していない事だったが、師匠から聞かされていなかったのだろうか?

 

「まさか......。それは真ですか......? 俄かには信じ難いのですが、今この場で打ち消して見せて頂けますでしょうか?」

「ええ。構いません」


 俺の返答を聞くや否やルアキラ殿の右掌の上に”起こり”を感じたので無属性の魔力でそれを打ち消した。


「!!? どうやら本当のようですね。驚きました。まさかそんなことが可能とは。これはキイチが私たちにも秘匿していたのは正解でしょうね。万が一にでも外に情報が洩れては今まで以上にツナ殿の命が狙われる可能性がありますので」

「そこまで危険なことなのですか!?」

 

 俺の驚きにルアキラ殿が神妙な顔で頷く。

 自分では切り札の一つくらいの感覚で居たのだが、この反応を見るにどうやら人前で使ってよい技では無いようだ。

 今まで身内にも何が起きたかは誤魔化していたが、下手にひけらかさなくて良かった。

 ただでさえ転移ではなく転生していたり前世の知識があったり、命素量が僅かだったり、聖痕があったりと面倒な存在であることは自覚しているのだ。

 何が狙われるキッカケになるか分かったものじゃない。


「おそらく魔力の操作に長けた我が師ですら出来なかったことかと。魔力の知覚自体は溜めの大きな魔法などであれば感じ取ることが可能ですが、それを”起こり”の段階で打ち消せるとなると聞いたことがありませんね」

「そうなのですか!? ちなみに体表に纏うような魔法であれば内功型であっても打ち消すことが出来ました。発動の際には心臓の手前辺りに”起こり”があるのでそれを搔き乱す感じです」


 これは以前、キント兄と対峙した際に分かったことだ。

 咄嗟に誤魔化したお陰で未だに俺が打ち消したのだと気付かれた様子はない。

 ちなみに体内でのみ行われる肉体強化などは打ち消すことが出来ないだろうと思う。

 エタケの鍛錬を見学していた時に”起こり”を感じられなかったからだ。


「たしかに今さっきの感覚は火球を形作ろうとした瞬間に魔力が乱れて霧散したという印象でした。ツナ殿の持つ雷神眼と精緻な魔力操作が為せる業ということでしょうか......。ちなみにどの程度の規模、そして一度に幾つまで打ち消すことが出来ますか?」

「規模は対屋一つが吹き飛ぶくらいの大魔法を阻止したことがあります。数は試したことがないので分かりません」


 対屋が吹き飛ぶ程と聞いたルアキラ殿がまた大きく目を見開いたが、サダ姉が暴走したとは絶対に言えない。

 ルアキラ殿も深くは聞いて来なかったのでその出来事自体に興味はないのだろう。


 一度に打ち消せる数は気になっていたが試す機会が無かったので今回試させてもらえると有り難いと伝えるとすぐさま屋内実験場へと移った。

 テニスコート一面ほどの石蔵でルアキラ殿と対峙する。


「では参ります。まずは2つ。-火球(カキュウ)-」


 ルアキラ殿の周囲に2つの”起こり”を感じ、1つは打ち消せたが、もう1つは既に火の球へと変わっていた。


「1つが限界みたいですね。”起こり”を感じたときにそれを細い筆で滅茶苦茶に散らすのを想像しているのですが、1つ対応している間にもう1つが間に合いませんでした」

「ふむ。ツナ殿が申すところの()()()とやらではいけないのですか?」


 あれ? ルアキラ殿がどうしてコピペなんて言葉を知ってるんだ?

 なるべく使わないように心掛けていたはずなんだけど、無意識のうちに前世の言葉を使ってたのかな?


「ああ、すいません。今の言葉は『あいであのーと』に記載されていたものです。転写複製と解釈していますが間違っていましたか?」

「い、いえ。全く持ってその通りの意味です。まさか単語から意味を理解されるとは思っていなかったので驚きました」

「ふふ。同じ頁に記載してあった絵図と文脈から読み取ったのですよ」


 まさかそれっぽっちの情報からちゃんとした意味を紐解かれるとは思わなかった。

 『アイデアノート』にはコピー&ペーストではなく、略称のコピペとしか書いていなかったのに。

 研究者凄い。というか怖い......。


 それはさておき、確かに”起こり”を搔き乱すだけならばコピペの要領で同じ軌道を使い回せれば半自動化が出来るかもしれない。

 頭の中で単純な動きを想像するだけなら、陰陽術の秘技である式神のように正確に元の生物の動きを模したり、複雑な動きを命令するわけではないので難易度も低いだろう。


 ルアキラ殿の助言を基にして打消しの魔法の改良を試みた。

 パッと思い付くものが無かったので、とりあえず陰陽術によく用いられる一筆書きの五芒星を想像することにした。


 その後の実験の成果は上々だったと言える。

 ”起こり”を感じた瞬間に五芒星を思い浮かべるだけで霧散させることが出来るようになったのだ。

 流石に無意識化してしまうと使ってはいけない場面でも発動してしまう危険性があったのであくまで使用は任意起動に留め、俺が五芒星を思い浮かべた時にだけ使えるようにしている。


 そして五芒星を思い浮かべるだけでなくこの魔法に-(ゼロ)-という名前を付けることで発動の鍵とした。

 これは発動の際に術名を唱える魔法と同じ原理で安定した威力を出すための措置だ。

 尤も俺の使う雷珠のように魔力の消費が殆ど無い魔法なので声に出さなくても念じるだけで使えるのはとても便利ではある。


 この半自動化のおかげで3つまでなら同時に打ち消せるようになった。

 ただし、大きな”起こり”であれば同時に打ち消す事が出来るのは1つが限界のようだ。

 これは俺の命素量が少ないので扱える魔力が微小の為だろう。

 逆に言えば微小の魔力でも大魔法を打ち消せるのはとんでもないことだ。

 これが知られてはいけない危険な技であることは十分に理解できた。


 ちなみに大魔法を打ち消す際の魔法は-虚空(コクウ)-と名付け、咄嗟の使い分けを出来るようにしてある。


「打ち消しの魔法を使う時は周りの者全員に気付かれない確証の持てた場合や、その場にいる者を全て殺められる時だけにしたほうが良いでしょう」

「分かりました......」

「ふふ。ツナ殿のその魔法は知られていなければ最強の切り札であることは間違いありません。ご自身の身を守る為にも今まで以上に秘匿して居ればいいのです」


 俺は微笑むルアキラ殿の言葉に大きく頷いた。

 その場の者を皆殺しにしないでも、少なくとも気付かれぬように立ち回れば使っても良いのだから気は楽だ。


「まあキイチにはこんな面白......いえ、危険な魔法を私に黙っていたことについて抗議の文を送りますけれどね......ふふふふふ」


 怖っ! 今絶対面白いって言ったよこの人......。

 やはり研究者の知的好奇心は恐ろしいものがあるな。


 改めてルアキラ殿も常識人の皮を被ったマッドサイエンティストの類だと感じたのだった。



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