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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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七十八話 カゲ流は何でもアリ

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 バンドーでの謀反計画の報告から1カ月が経過した。

 案の定、マサード殿からの御教書(みぎょうしょ)への返答は「謀反などとんでもない。良からぬ襲撃を仕掛けたというのに無様に敗走したネモト殿がこちらを貶めるために嘘を言っているのだろう」と来たようだった。


 太政大臣のダヒラ殿はこの返信を全面的に信用した体裁を取ったため、逆にネモト殿が悪意を持って主上へ嘘の上奏を行ったかどうかを盟神探湯(くがたち)にて神判されることとなった。


 盟神探湯とは神に潔白を誓わせた後、探湯瓮(くかへ)という特殊な釜で沸かした熱湯へと手を入れさせて火傷するかしないかで正邪を決める呪術的な裁判である。

 正しい者は火傷せず、罪ある者ならば大火傷をするという、普通に考えるとほぼ確実に火傷して有罪になってしまうとんでもない裁判方法だ。


 しかも探湯瓮の中に入れた手は魔法的な効果が打ち消されるため不正のしようがない......ように思われていた。


 だが今回これを執り行ったのはルアキラ殿だ。

 湯の温度を見た目以上に低くしてあったことでネモト殿は火傷をせずに済み、謀反自体は勘違いであったが悪意はなく、主上の為に忠義を貫いただけだと証明されたことになった。

 これには有罪確定だと思っていた傍聴者たちも驚いたらしい。


 タネはバラしてしまうと簡単で、あたかも湯が沸いているように見せかけていたのは発泡剤を入れていたからだ。

 ルアキラ殿は傍聴者たちを魔法ではなく科学的手法で欺いたということになる。

 つまり俺が眠っている3年の内に自室の『アイデアノート』から作り方を調べて、バスボムや重曹を作れるようになっていたのだ。


 炭酸ガスは蒸留酒の醸造過程でアルコールが生み出すモノを採集したのだと予想はついたが、塩分濃度を高めた水から水酸化ナトリウムを電気分解で抽出したりと手間や危険な工程があるにも関わらずよく俺の資料だけで作り上げたものだ......。

 この国の先端科学である造船技術や汞和金(こうわきん)(アマルガム)法鍍金(めっき)とはレベルが違うのに。


 無患子(むくろじ)ではない石鹸っぽいものがルアキラ殿の所にあるわけだよ。

 これを教えてもらったときにルアキラ殿は「炭酸水という飲み物や、ばすぼむとかいう入浴剤? も作れるようになりましたよ。入浴の文化自体はまだ浸透しておりませんが」と笑いながら言っていた。


 この世界の研究者たちの熱量には驚愕だわ......。

 聞いていた時の俺の顔は驚き過ぎてかなりの間抜け面を晒していたことだろう。


 あと今後は『アイデアノート』に危ないことを書くのはやめておこう。

 ただの理想の備忘録とはいえ下手に実践されたら危険すぎる。


 背筋に冷ややかなものを感じながら、完成した香り付きバスボム入浴剤と石鹸を貰ってサイカへのお土産にした。

 風呂文化が根付けば香り付きのバスボムは女性陣への誕生日プレゼント等にも使えるだろうから、トールの屋敷にも早く入浴型の風呂を作って欲しいものだ。

 うちの風呂は未だにサウナタイプだからな。

 一応御教書で釘を刺した為、今のところは表面上静かなものだがマサードの謀反の疑い自体が無くなったわけではない。ルアキラ殿や爺ちゃん達は東正(とうせい)鎮守府(ちんじゅふ)に依頼して監視や警戒を続けているようだ。


 俺自身は皇京八流(おうはちりゅう)剣術の回避特化の流派でまるで酔拳のように捉えどころのなかったシンタウ流を2週間かけてやっと攻略し、招き鳥と死掛けという囮の攻撃技とそれに掛かった相手を攻撃するカウンター返しの流派キョウ流、一対多を想定したテン流、極めて低く構えて足元などへの攻撃に特化したチ流、様々な魔獣と戦う事を想定した流派ジン流を残りの2週間で攻略した。


 多人数を相手取る想定をしたテン流と対魔獣を想定したジン流は同流派同士の一対一勝負では本領が発揮出来ない為、いまいち手応えに欠ける戦いではあったが。


 今は8つ目であるカゲ流の狒々(ヒヒ)と戦うところだ。

 カゲ狒々は真っ黒な装束を身に着けたまるで前世で言う忍者のような姿で、木漏れ日の当たる森の中でもかなり目立っている。

 そう。真っ黒な服装というのは案外目立つのだ。

 夜の闇の中でも意外に目立ってしまうらしい。


 カゲ流はかなり俺の戦い方と相性が良い流派だ。

 闇討ち、奇襲、暗器、急所攻撃と相手を仕留められれば何をしても構わないという、それはもう剣術なのか? と疑いたくなるような流派だが、今までの俺の戦い方はまさにカゲ流と言っても過言ではないようなものだ。


 さて、どんな戦いになるやら。


「それでは、はじめぇい!」


 師匠の合図と共に黒衣の狒々に走り寄って斬り掛かると身じろぎ一つせずに黒衣の狒々斬り捨てられて形代へと戻った。


「え......? ッ!?」


 呆気にとられていると背後から突然気配が現れた。

 慌てて前転し背後を確認すると、身体中に落ち葉や泥を付けた狒々がさっきまで俺が居た場所の虚空を斬っていた。


「くそっ! 式神が式神を囮に使うのかよ!」

「キ......」


 ニヤっと笑みを浮かべるとカゲ狒々は地面に何かを投げつけた。

 それは瞬く間に煙を吹き出して周囲を煙で包んでいく。

 視界を奪うための煙幕玉だ。


 ッく! 目に沁みる!

 殺す程では無いだろうけれど、まともに吸ったらヤバイ煙かもしれない。

 一度煙の中から脱出しないと!


 俺はそのまま真っ直ぐに背後に飛び退って煙の範囲から逃れた。

 ほとんど煙を吸わずに済んだが、目は無事では無かったようで沁みて涙が止まらない。

 視覚情報が遮断されるのは厄介だが、木を背に目を閉じて雷神眼で周囲の電気反応を探ることにした。


 ヒュッ!


 不意に電気反応が現れそこから風切り音が聞こえたので真横に転がると、さっき背にしていた木の方から硬い物が刺さったような音がした。


「飛び道具まで! マジで剣術の流派なのかコレ!」


 危険ではあるが何が飛んできたのかは確認しておきたい。

 立ち上がって薄目を開けて木に刺さった物を確認する。


「鉄の棒? 棒手裏剣か!」


 俺は把握するとそれを引き抜いた。

 先の部分は粘性のある液体で濡れているように見える。


「毒か......」


 調べたりしていないので実際に何が塗布されているかは定かではないが、そう思い込んでしまうとゾッとした。

 仮にもこの前まで毒で3年も眠らされていただけに、毒に対しての恐怖心というものが未だに抜けきっていない。


「殺す気で来てる......」


 冷静に考えれば万が一があっても師匠が助けてくれるかもしれないが、そんな確証の持てないことを命を掛けて試す気はない。


 死ぬかもしれない。


 そう考えると急に頭が冴えて冷静になれた。

 今まで数度死に掛ける経験をしたからなのか、死に対しての恐怖が毒に対しての恐怖よりも低くなっているのかもしれない。

 おかしな感覚だが、この状況で至って冷静な思考を保てるのは良い事だ。


 俺は目を瞑ったまま刀を抜いて正眼に構えた。


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