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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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七十七話 魔神の噂

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「それでこの三人での話ってなんなの?」

「昨日の謀反の訴えに関しての話じゃよ。今朝ルアキラ殿の所にバンドーに放っておった耳目(じもく)から連絡が届いての。どうやら訴えたムサシ権守(ごんのかみ)ネモト・ミナモにも問題があったようじゃ」

「ネモト殿は同じムサシ守のオキヨ殿と一緒にアダチ郡司(ぐんじ)のケシバ殿の屋敷を襲ったそうなんです」

「なんですって!?」


 訴えに来た人物が騒乱の元凶でもあるのか? と驚いていると爺ちゃんがバンドーに放っていた間者から聞いたという情報を教えてくれた。


 まずムサシ守であるオキヨ様が同じくムサシ権守であるネモト殿を誘ってアダチ郡で略奪をするために郡司であるケシバ殿の屋敷を襲撃したが、その際に偶然ケシバ殿の下へ来ていたマサード殿が間に立って武力で争いを止めたのだという。


 するとオキヨ様はネモト殿が主犯だとして裏切り、マサード殿に庇護を求めた。

 当然怒ったネモト殿が血縁のタク、ゲル、タカのミナモ三兄弟と共に攻め込むも三兄弟が返り討ちに合い命からがら一人で逃げ出したそうだ。

 それでもなんとか復讐の機会を伺っているとオキヨ様が謎の人物を連れてマサード殿に面会させていた。

 それが魔神だったそうで、マサード殿に力を与える代わりに皇になれと言ったというのだ。


「そしてネモト殿はなんとか皇京まで謀反を訴えに来たと。ところで魔神ってどんな存在なの? これまで見たことも聞いたこともないのだけど、魔族や妖魔とも違うの?」

「魔神とは名の通り神の如き力を持った存在で、神時代(しんじだい)天空大神(アマソラノオオカミ)様たちと敵対していた悪神の眷属とされておる。ほとんど伝承の中だけの存在じゃし、その情報については貴族の中でも殿上人(でんじょうびと)や各地の長などごく一部の者にしか知らされておらぬ」

「特徴として鬼族に似た角、背には羽と尾があり、その身からは禍々しい程の穢れた魔力が常に漏れ出ているとされていますね。世が乱れる事を好み、望んだ者には妖魔のような邪悪な力を与えると言われています」


 なんだろう。前世で言う悪魔みたいな存在かな?

 容姿の特徴なんかはピッタリだし、危険な力を与える所も似ている。

 そういえば毘沙門天様に仕える霊獣大蜈蚣のヒャク様を妖魔化させたのも悪神だって言ってたな。

 今回の魔神とも何か繋がりがあるのかも......?


「でもそんな伝承の中でしか居ないような存在なのに、ネモト殿や耳目の人達はよく魔神だと分かったね」

「うむ。これは極秘じゃが、今から44年前、人時代(じんじだい)777年の魔族によるジワラ陥落の際もその姿が目撃されておったんじゃよ」

「え!?」


 つまり魔神はノブナガたちと繋がっている可能性が高いということか。

 そして今回はバンドーで何か事を起こすかもしれないと......。


「まあ、ネモトはしばらく皇京にあるミナモ家のどこかの屋敷で軟禁じゃろうな。貴重な情報を知らせたとはいえ、オキヨに焚きつけられて争いを起こしたことは明白じゃ」

「でもバンドーから貴重な情報を持って来たんだし、出来るだけ丁重に扱うべきだと思うな。どこのミナモ家でも今は腫物扱いされちゃうだろうし、爺ちゃんの名前で布団一式でも送ってあげようよ」

「ツナ殿はお優しいのですね。本当に魔神が関わっているのだとしたら朝廷にその事を報せた第一功はネモト殿になりますものね」


 爺ちゃんは余計なことをしてミナモ家に目を付けられるのが嫌なようだったが、悪事を働いたのはともかく、評価されるべき者が評価されないのは可哀想だと俺が訴えると、やや思うところがあったのか渋々だが頷いてくれた。


「まったく。本人は何とも思っておらんのにこちらの罪悪感を突きおって。卑怯じゃぞ。ツナはいつの間にそんなズルい手を覚えたんじゃ」

「エー。ナンノコトダカサッパリワカラナイナー? ってイテテテテ! ごめんごめん! もう使わないから拳で頭グリグリしないで!」


 俺が色々な知識を提供している事を自分の名で公表出来ないのは仕方ない事なので大して気にしていないのだが、爺ちゃんはそのことに多少の申し訳なさを感じているらしい。

 ちょっとだけその罪悪感につけ込んだら脳天に中指の第二関節を立てた拳を当ててグリグリされた。とても痛い。


「ふふっ。お二人はとても仲がよろしいんですね」

「まあ、これでも可愛い孫じゃしな」

「まあ、これでもカッコいい爺ちゃんですからね」


 ミナ殿の言葉に爺ちゃんが返し、俺がそれを真似て茶化すと三人で笑い合った。


「魔神が出たのであれば武の御三家である我らトール家とシナノのテミス家で当たるのがよいじゃろうな。今は皇京にムラマルが居ることじゃし、ノブナガ軍が動かぬよう抑えとして残ってもらうのが良いじゃろう。前回のイ族の征伐のための遠征で何か思うことがあったようじゃしな」

「そうですね。クジョウ家からは騎獣を提供しましょう。少人数で向かうなら足の速さがモノを言うでしょう」


 その日の話し合いはここで終わり、爺ちゃんたちは明日の朝議で上奏するということになった。


 翌日の夕刻過ぎ、クラマに戻っていた俺の下に怒りの表情を浮かべた爺ちゃんが訪ねて来た。


「まだマサードから御教書(みぎょうしょ)の返事が無いので今すぐに動くことは不可能じゃと! また征討が決まった場合はトール家の参戦は認めるがワシは防衛の要として皇京に残れとまで言われたわい!」

「そんな悠長な! 本当に謀反を企んでいた場合はマサード殿が御教書に真面目な返信をするはずがないし、送ってこない可能性だってあるのに! それに爺ちゃんが参戦出来ないとなると徒に死者が増えちゃうじゃないか!」


 今の太政大臣であるダヒラ・ジワラ殿にとってマサード殿は元部下だから、仮に謀反等という一大不祥事があった場合に自分へ累が及ぶことを恐れて日和ったのかもしれない。

 しかしその判断は誤りだろう。

 元主人ならばきっちりと裁くことで自身の潔白を証明する方が主上の憶えも良いだろうに。

 ダヒラ殿は太政大臣としての地位に固執しているようだ。


 爺ちゃんの参戦を許さなかった点も同じだ。

 来年には俺が生まれたときに交わされた10年間の昇格不要が解ける。

 きっと元太政大臣である爺ちゃんが戦場で功績を上げて返り咲いてくることを怖がっているに違いない。


 今回の戦闘は魔神が絡んでいるとはいえ人族と人族の争いになる可能性が極めて高い。

 爺ちゃんの雷網で大多数の動きを止められればそれだけ両者の人的資源を浪費せずに戦えるのだ。

 魔王ノブナガ軍や魔神などの脅威があるのに人同士で無駄な血を流している場合じゃないだろうに。


 俺と爺ちゃんは二人して盛大な溜息を吐き、憶測も交えてこれからの推測や予想を話し合った。


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