七十一話 目覚め、光陰矢の如し
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目を開けるとそこには爺ちゃん、ヨリツ父上、サキ母様、キント兄? サダ姉? エタケ? それにルアキラ殿とサイカの顔があった。
疑問形なのは顔立ちと背格好が俺の知っている兄姉妹たちとは異なるからだ。
「みん、な? おはよ......う、ござい......ます?」
声が上手く出せずに掠れたような音しか出なくて驚いた。
それに手が、首が、いや身体中が動かせない。
「よかった......本当によかった......」
「あぁ......さすが私たちの子だ」
「もう目ェ覚まさねえのかと思ったぜ! ビビらせんなよな!」
「ヅナ˝ァァア!!!! よがっぁ、ぼんどにじんじゃうの˝がどおも˝っだんだがぁぁあ!!!!」
「兄さま。おはようございます。お目覚めになられて本当に良かったです。エタケは信じておりましたよ」
「ツナ殿。七歩蛇の毒からの生還おめでとうございます。まだ身体が動かせないかと思いますがどうぞ快癒するまで我が屋敷でお休みください」
「ツナ坊ちゃん......。ホンマに待っとったで......」
どうやら俺を咬んだ蜥蜴のような魔獣は七歩蛇という名らしい。
七歩蛇と聞いて思い出したが爺ちゃんの蔵書の中に載っていたから見覚えがあったのか。
相変わらず直ぐに詳細を思い出せないのはダメだな。もっと覚えないと。
皆には多大な心配を掛けたようだ。
悔しいな。
「もう大丈夫だよ」とキント兄に笑い返せないのが。
俺の身体に頭を埋めて泣いているサダ姉の頭を優しく撫でる為に手が動かせないのが。
冷静なようでいて、よく見ると身体が震えているエタケを抱きしめて安心させてあげられないのが。
「みん、な......ごめ......ね。あり、がと......」
そう言葉にして、全員の手に雷珠を当てていく。
今の俺にできる精一杯の返事だ。
「わはははは!!!! よう還って来たなツナ! これでお主が現世に戻って来たのは転生した時と今回で2度目じゃな!」
「!?」
爺ちゃん!? なんで転生者だって事を皆が居る前で言っちゃったの?
目尻に涙を浮かべたまま黙っていた爺ちゃんが突然大声をあげた。
何を考えているのかと俺が驚愕しつつも周囲の反応を見ていると、特に誰も驚いた様子がない。
「ああ。お主が眠っておる間になワシが皆に話したんじゃ」
「な、んで?」
それから爺ちゃんは俺が七歩蛇の毒に倒れてからの事をゆっくりと説明してくれた。
なんと今は人時代821年の卯月の14日らしい。
俺が倒れてから3年も経過しているそうだ。
その間ずっと寝ていたということか。通りで身体が自由に動かせない訳だよ。
暗殺計画の主犯であったクスベ家はお家の取り潰しこそ無かったものの、当主とその息子、あの時俺たちを囲んでいた実行犯らはミナ・クジョウ殿とヨリツ父上たちに捕らえられ罪を暴かれた後に流罪となった。
首謀者である当主のポワゾ・クスベと息子のトキシ・クスベは流刑地に連れて行かれる前に獄中で死んでいた。その死体は凄絶な表情をしていたらしい。
おそらく更に裏で手を貸していた存在が口封じのために暗殺したと見ているそうだ。
ポワゾ家は事件とは無関係だったまだ幼い次男に跡を継がせ、元服までは隠居していた先代を戻して代行させるらしい。
七歩蛇の毒を解毒するのは内裏の薬師や医者でも不可能だったそうで、ニオノ海の竜王センシャ様から頂いた竜血の小鐘を用いたと爺ちゃんが言っていた。
センシャ様は出会った当初に俺の記憶を前世も今世も丸写ししているようで、その中から血清の作り方を爺ちゃんに伝えてそれが完成するまで俺が死なぬように自分の血を甘理汰と呼ばれる神々の飲み物を模倣した霊薬を与えてくれたらしい。
血清の作り方を知ったことなんて俺自身はさっぱり記憶になかったが、雷に所縁がある者が生み出したらしいぞ。と言われて、血清と雷からドンネル先生と呼ばれていた北里柴三郎を思い出した。
うん。血清療法を実現した偉人だわ。
ぼんやりと北里の手法を模した研究者が馬に蛇毒を投与して蛇の抗毒素を作ったとか教科書に載っていた事を思い出してきた。
その馬は強くなくてはいけないということで、帝の白い角馬を用いたらしい。
なんでもミナ殿が息子が世話していた白い角馬を引き継ぐ者が育つまで自分の所で預かったという体裁をとってくれたという話だ。
下手をしたら神皇陛下の御馬を死なせていた可能性もあるというのに、ミナ殿にも頭が上がらないな。
白角馬の血から血清が出来るまで半年。
馬の血の加工はセンシャ殿が血清と注射の形に魔力で何とかしてくれたそうだ。
その辺はもう俺の知識では理屈が分からんな。
蛟の中には毒を持つものも居るようだしそれらを統べる竜王の知識だろうか。
そして血清を投与してから目覚めるまでに更に2年半も掛かったということだ。
まあ、血清は咬まれてなるべく早く打つものだしな。
身体中を毒に侵されてたからそれが回復しきるまでに時間を要したのだろう。
そして肝心の転生者だとバラした件だが、アムリタを俺に飲ませたときに、俺の身体に刻まれている雷に打たれた火傷のような形の聖痕が青白く光ってしまったのだそう。
その光は消えることなくこの3年間光りっぱなしだったらしい。
そりゃ身体が光を発していれば見舞いに来た人はこれは一体なんなのかと説明を求めるだろうしな。
一番の理由は俺が転生者だと家族に打ち明ける機会をずっと尻込みしていたのに爺ちゃんは気付いていたからだそうだ。
はぁ。まいったね。
お見通しだったのもそうだし、打ち明けられたのもそうだけど、みんな俺が転生者であることをすんなりと受け入れているんだもの。
今世の俺はつくづく良い人の縁に恵まれているらしい。
この人達の笑顔を守るために今まで以上に頑張るしかない。




