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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~毒と影編~

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閑話 眠れる石のツナ 後編

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「ミナ殿。協力に感謝する。だが白角馬に万が一があった場合はタダでは済まんじゃろうに。本当に良いのか?」

「ミチザ殿。私の命は昨夜ツナ殿に救われたのです。例え万が一が起きたとしても、あの時に失うはずだったものが先に延びたに過ぎません。おかげできちんと息子の弔いをしてやれるのですから感謝しかありませんよ」


 朝議を終えてトール家の牛車(ぎっしゃ)の中でミナとミチザが今後について話し合った。

 やがてミナをクジョウの屋敷まで送るとミチザはその足でツチミカド邸へと戻った。


「やはり光ったままか......。これは見舞いに来る者には誤魔化しが効かんな。従者達には本格的な修行としてクラマに篭らせたことにしておけば問題無いじゃろうが......」

「このまま我が屋敷で預かるのは構いません。ですが、ご家族に内密にしておくのは心苦しいですね......。皇京に来れないキイチはまぁ良いとして、サイカ殿にもバレてしまうでしょう」


 秘密を知る者は最低限である方が良い。

 それに目覚めた後のツナが知られてしまったことを後悔したり、余計なことをしてくれたと憤慨したり、家を飛び出す可能性もある。

 また家族側がツナを不気味に思って関係に亀裂や溝が出来てしまう可能性はある。


 しかし、ミチザは知っていた。

 ツナはずっと自分が転生して来たことを家族に打ち明けようとして踏み出せないでいたことを。


 悩んだ末にミチザは全てを打ち明ける道を選んだ。 


「「「「ツナ!」」」」

「にいさま!」

「ツナ坊ちゃん!」


 ツチミカド邸にトール家の家族とサイカが呼ばれた。

 ミチザから事のあらましや最短でも半年は目覚めないということを聞いた皆はその目に涙を浮かべてツナの名を呼んだり身体を揺すったりしてなんとか目を覚まさせようとしている。


 そして皆がツナの身体にある聖痕から溢れ出る光に気付いた頃にミチザはツナが神成りの儀で転生して来た異世界人である事、ツナ自身が前世でどのようなことがあったかを語った時の事を告げた。


「そうであったか......。ツナが死した我が子に成り替わっていたということか? 命尽きた我が子の御霊は安らかであって欲しいが、しかし本人はそれを知らぬまま我が子として生まれたと思っているとは不憫な......。いや、もう知らせる必要もあるまい」


「どこか私とヨリツ様に余所余所しい感じがあると思っていましたが、前世のご家庭が理由だったのですね......。ようやく納得が出来ました。ですがもう既にツナは私の子です」


「難しい話は分かんねーけどよ。オレ様が会ったことがあるのはもう全部その、転生? とかいうのをした後のツナなんだろ? じゃあ別に何も変わらねーじゃん」


「そうね! 妾の大切な大切な弟に変わりないわ! これからもずっと!」


「いつもすごいにいさまは、じつはイセカイのこともいっぱいしっていてもっとすごいということですね!」


「どうりでウチには考えつかんような面白い発想したりするわけや! 起きたらもっと色んな話聞かせてもらうで! それまでに今まで頼まれてたもんいっぱい作っといたるわ!」


「お主ら......」


 そこに集った全員がツナが異世界人の転生者であると知ったうえで変わらぬ、寧ろどこか腑に落ちたようなスッキリとした顔をしていた。


 それから半年後。

 ミチザはニオノ海の竜王センシャに七歩蛇の毒を耐えきった白角馬の血を渡した。

 センシャは硝子瓶に入った血を受け取ると魔力を込めながら掌の上で高速回転させている。

 回転が止まると硝子瓶の蓋が開き中の血液が浮かび上がる。

 血液は2色に分離していた。

 その分離していた片方から3分の1程の量が氷の筒のようなもので包まれる。

 筒の先端には細い針が付いていた。

 出来上がった筒状の物を小さな氷の箱に収めるとセンシャはそれをミチザに手渡した。


「こちらが七歩蛇(シチホダ)の解毒剤......血清です。この道具は腕にある太い血管に沿うように刺して後ろの突起をゆっくりと押し込むことで血管内に薬を入れる事が出来ます」

「血清......。血管に入れる薬なのですな。このような知識......もしやセンシャ様はツナと同じ転生者? もしくはこの場からツナの記憶を覗けるのですかな?」

「流石にバレてしまいましたね。正確には出会ったときにツナ殿の記憶を写させて頂きました。薬について詳しくは分かりませんがそれを作った方も雷に所縁のある方だったようでツナ殿の記憶の片隅に結びついておりました」


 センシャは最初に出会った時点でツナの記憶を写していた。

 ツナが纏う神気に気付いたからである。

 その際にツナがどういった人物なのかを理解するために記憶を写したとのことだった。

 記憶を丸写しされるなど人間としては気分の良い話ではないが、霊獣は人間と異なる理で生きているのだとミチザは改めて実感した。


「血清作成に感謝申し上げる。これはどのくらいで効果が出るものなのですかな?」

「妾にも分かりかねます。本当は毒に侵されるとなるべく早く打つものらしいのですが、作るのにそもそも半年の時間が掛かったので既に体内に回り切った毒を抗毒するまでは目覚めぬでしょう......」

「なっ……!!」


 血清を打てばすぐにでもツナが目を覚ますと思っていたミチザは言葉を失った。

 しかし誰を責めることも出来ないもどかしさを噛み殺し、センシャに伏して頭を下げた。


「もう一度! 神々の飲み物をまた作っては頂けないじゃろうか!? おそらく今の不死効果が切れるまでの残り半年で目覚めぬ気がするのじゃ......。ツナが目覚めるまでの効能で構わぬ」

「......仕方ありませんね。肩入れし過ぎるのはあまり良くないですが、小鐘をお渡しした際に出来得る限り手伝うと約束しましたし、妾としてもツナ殿には助かって頂きたいと願っておりますので。作って差し上げましょう。-(オン) 枳哩枳哩(キリキリ) 嚩日羅(バサラ) (ウン) 泮咤(バッタ)-」


 ミチザの懇願をセンシャは受諾する。

 そして詠唱すると前回と同じように自分の血から神々の飲み物の紛い物を作り出した。


「これをどうぞ。妾も半年眠っていたおかげで前よりも似せて作る事が出来ました。神々はこれを甘理汰(アムリタ)と呼んでおります。効能はツナ殿が目覚めるまで続くように調整しました」

「あむりた......。忝い。このご恩は何かの形で必ずや!」


 ミチザは伏したまま両腕でアムリタを受け取ると、額を地面に付けて礼を言った。


「ふふ......。ではミチザ殿が命尽きた際にはその亡骸をニオノ海に沈めてください。命素量の特別多い人間は死ぬと山などに埋葬して命素を自然へと還すのでしょう?」

「よくご存じ......ツナの記憶を写しておるのであったな。こちらの人の世についてもある程度知っていて当然か......。承知した。ワシが死んだ時にはそうするようにと遺言を認めておこう。それでは世話になった。次ぎに会う時はワシは亡骸かもしれぬがよろしくして頂けると幸いじゃ」

「ええ。それまでお元気にお過ごしください」


 センシャは前回と同じようにニオノ海の沖合いへと消えていった。

 それと同時に懐の中に入れていた竜血の小鐘が砕けて消えたのを見届けたミチザは皇京のツナの元へと戻り、見舞いに集まっている家族たちの前でアムリタを飲ませ、血清を注射する。


 注入後数日は表情に苦痛の色が見えていたが徐々に顔色がいつもの色へと戻った。

 未だ筋肉は硬く目が覚めない状態ではあるが、その姿は穏やかに寝ているだけのように見える。

 身舞いに来る者たちは時に穏やかな笑顔で、時には涙を流して見舞っていた。


 それでも時は流れ続ける。

 秋も過ぎ、冬が過ぎて新しい年を迎え、また春、夏、秋、冬と季節が移り変わって新しい年を向かえ、さらにもう一巡りした頃、ツナの様子に異変が起きた。


「聖痕の光が消えかけておる......? これはもしや!?」

「アムリタによって聖痕が反応していたとすれば、アムリタの効果が切れそうだということなのではないでしょうか? そして効果が切れるのはツナ殿が目覚めた時と仰っておりましたね」


 もうすぐツナが目覚めるかも知れないという話を聞いた家族たちはすぐさまツチミカド邸へと集まり、ツナの身体に刻まれている聖痕の光が薄れていることを確認した。

 そして2時間程経った頃、聖痕から放たれていた青白い光は完全に消えた。


「「「「ツナ!」」」」

「にいさま!」

「ツナ殿!」

「ツナ坊ちゃん!」

「ツナ!!!!」


「みん、な? おはよ......う、ござい......ます?」



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