七十話 泡沫夢幻
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あれ? どこだろうここは?
住宅街の一角にある小さな公園。
なんだかすごい懐かしさを感じる。
「アッつん。今日は何してあそぶ―?」
「そーし。あつる君はおべんきょがんばるんだからジャマしちゃダメよ!」
「ちぇー。いさりんはおこりんぼだ。アッつんはボクとあそぶほうがたのしいよ」
これは確かまだ小学校に入るより前の記憶。
この時は近所に住む1個上のいさみちゃんと1個下のそうし君という友達が居た。
すぐお姉さんぶりたがるけどいつもどこか抜けてしまういさりん。
基本的に面倒臭がりだけど遊ぶことは大好きなそーし。
二人の間に挟まって喧嘩しないように折衷案を出したり、一緒に新しい遊びを考えたりしたっけな。
思えばこの二人が俺の生涯で唯一の友達と呼べた存在だったかもしれない。
この後すぐに俺の両親が起業するからと都会に引っ越して疎遠になったんだったな......。
「最優秀賞は3年2組の皆本充くん」
「わぁ~! またあつる君が最優秀賞だ! すごーい!」
「何でもできちゃうのかっこいい! 天才!」
小学校の頃か。本当にこの頃は何でも出来て持て囃されてたな。
そのせいで天狗になって高慢な性格が染み付いてしまったのだが。
「学年テスト1位。6年3組の皆本充君」
「キャー! 皆本君これで6年連続で1位じゃん! 凄すぎ!」
「ほんとどんな頭してんだよ! やべぇー!」
「バカ! 頭だけじゃなくてスポーツも天才でしょ! ほんと将来どうなっちゃうんだろ?」
「あれだろ! 超難関で中高一貫のなんたらって学園受かったんだよなー!」
ここまでが俺の持て囃された時期のピークか。
学園に入ってからは本当に酷かったもんな。
「充! なんだこの成績は!! 学園で何を勉強しているんだ!?」
「うるせぇ! お前らが入れって言うから入った学園じゃねぇか! その後の事なんか知るかよ!」
「あっちゃん! 親に向かってお前らなんて言っちゃいけませんよ!」
父さん......。母さん......。
この時期の俺はテストで1位が取れなくなったことに動転して、周りのレベルの高さに委縮したせいで何も頭に入らなくなってたんだ......。
「皆本君ってさ、良いとこまで行くのに惜しいよねー」
「そうそう。あとちょっとの努力の差みたいな?」
「わかるー。そこを怠ってきたから上に上がれないみたいなオーラ出てるわー」
努力の差? その通りだよ。
これまでは何もしなくても何でも出来てたんだ。
努力の仕方なんて知らなかったんだよ。
「皆本。お前またクラスで最低点だぞ。勉強についていけないなら留年してじっくり学ぶなり、転校するなりしたほうが将来のお前の為だぞ?」
「ぷっ。教師から転校薦められてるとかヤバ」
「ダッセ」
「こないだまだ中3の教科書を読んでたの見たわ。留年じゃなくて入学しなおした方が良いんじゃね」
この時の担任の言葉通りレベルの合った高校に転校でもすればまだマシだったかもしれない。
だけど両親は息子が有名な学園に通っているというステータスが欲しかった。
なまじその事が理解出来ていただけに辞めるという選択肢を取ることも相談することも出来なかった。
「卒業したらウチの会社の下請けに話を通しておくから」
「いらねーよ! 就職先ぐらい自分で選ぶわ!」
「あっちゃん......」
怖かったんだよな。
紹介された先でやっていけなくて親に迷惑掛かると思うとそこには行けないと思っちゃったんだよな。
「不採用」
「誠に残念ではございますが、今回は採用を見送らせて頂くことになりました」
「皆本様のより一層のご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げます」
新卒だと書類が通らないことはあまり無かった。
卒業した学園が有名だったからというのが大きいだろうが。
「弊社を志望された理由を......」
「学生時代に打ち込んでいたことは?」
「部活動などは……」
あるわけねえだろ。授業に喰らい付くのすら必死だったんだから。
そんな学生上がりを雇う会社などあるわけもなく。
「不採用」
「誠に残念ではございますが、今回は採用を見送らせて頂くことになりました」
「皆本様のより一層のご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げます」
全ての面接でこうなった。
幼稚園以来これまで友達も居なくて対人コミュニケーションにも難があったのだから当然だろう。
1年頑張ったが無理だった。
でも2年目にはなんとかなるだろう。
漠然とまったく根拠のない自信が湧いていた。
「不採用」
「誠に残念ではございますが、今回は採用を見送らせて頂くことになりました」
「皆本様のより一層のご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げます」
ほとんど書類で落ちるようになっていた。
3カ月続けて書類が一切通らなくなって、5カ月目にとうとう諦めた。
見てられなくなった両親の勧めでいつぞやの下請けにコネ入社して働くも、2か月で戦力外を言い渡されてそこを辞めた。
アルバイトもいくつか申し込んで働いてみたが、作業が合わない、パワハラ、過酷な肉体労働、人間関係、クレーマーetcetc......。
脆弱になっていた心には耐えられなかった。
そして完全に心の折れた俺は20歳で引き籠るようになった。
最初は社会復帰させようと必死だった両親も2年経つ頃には諦めるようになり、ただ腫物のようにお互いに触れないで暮らしていた。
そして引き籠り始めて10年目に差し掛かる頃、あの事件が起きた。
「あんなに凄い人から誘われるなんて、運が向いてきたかな?」
「そうよ! きっと今までの苦労が報われて、これで会社をもっと大きく出来るわ!」
父さん! 母さん! それは詐欺だ! そんなウマイ話なんて無いから! 乗っちゃダメだって!
俺はこの言葉が言えていればとずっと後悔していた。
当時の俺は何も考えず、親が騒いでいて煩いな。なんか面白い動画無いかな。とかそういうことしか頭になかった。
2カ月後にリビングで二人揃って机に突っ伏して死んでるんだもんな。
最初は騙されたせいでヤケ酒でもやって酔いつぶれてんのかと思ったよ。
よくもまあ複数の睡眠薬を同時に過剰摂取するくらいで二人一緒に死ねたもんだよ。
検索したらかなり死ににくい自殺方法だったじゃん。
夫婦仲が良かったし、最期までお互いが苦しむ様を見るのが嫌だったんだろうな......。
せめて一言相談してくれたら良かったのにさ。
そうしたら止めていたかもしれないし、もしかしたら一緒に死んでいたかもしれないのに......。
あはははは。ダメだな。
もう両親のことは割り切ったつもりだったのに......。
あれ? なんで割り切れるようになったんだっけ?
葬式を済ませて、諸々を整理して、山に登って......。
山に登ってどうなったんだっけ......?
頂上に辿り着いたのは覚えている。
「ツ......」
めちゃくちゃ光ったのと衝撃を受けたのも覚えてる。
「......ナ」
その後は浮遊感があって、痛いとか感じ無かったような......。
「......ナ」
「ツ......」
「に......さま」
あぁ。あれって雷に打たれたのか。
今更だけど自分の最期に何が起きたのか理解できた。
「ツ......殿」
「......殿」
「......坊ちゃ......」
最期?
雷? なんだろう。雷には妙に親近感がある。
「「「ツナ!!!!」」」
そうだ! 転生! 魔法がある平安時代みたいな世界に転生したんだよ!
それで新しい家族が出来たんだ!
爺ちゃん、ヨリツ父上、サキ母様、キント兄、サダ姉、エタケ!
それにルアキラ殿、キイチ師匠、サイカ!
他にも貴族だったり、従者だったり、職人だったり、色んな人と知り合った!
全てを思い出した俺の眼前に1本の光る綱が垂れ下がってきた。
「帰らなきゃ......」
俺はそう呟いて光る綱を両手でしっかりと掴むと周囲がまばゆい光に包まれた。




