六十九話 永い眠り
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3対6+多数の未知の獣と人質一人か。
戦況は圧倒的不利だな。
そりゃそうか。
ミナ殿をここで消す気だったのだから見張りにも仲間を紛れ込ませるわな。
囲まれた段階で見張り二人の初動に注意しておくんだった。
後悔先に立たずだが、生き延びたら今後の教訓にしよう。
「其方らは私の命が狙いなのだろう? ならばあとの三人は無関係だ。解放してくれ」
「はははっ。残念だがそれは無理だな~。気付かれちまったからには全員消すしかねぇよ」
ミナ殿の自己犠牲を共犯の衛士が嘲笑う。
さっきは同僚は殺したくないなんてほざいた癖に、やっぱり人質も最初から殺す気じゃねぇか。
馬鹿なヤツ。今の言葉で爺ちゃんたちにとっては人質に価値が無くなった。
結局従っても殺されるなら、諸共吹き飛ばすだけだからな。
でも俺としては出来る事なら捕まってる衛士は助けてあげたい。
頭が悪い相手ならちょっと挑発してみるか。
「ってことは、俺たちの推理が正しかったってことだな。犯人はクスベ家で献上品を利用して暗殺用魔獣を皇京に入れたことや、これだけの人数を揃えたってことは家ぐるみの犯行ってことだ。お前が単純な馬鹿で助かったよ」
「あぁ!? テメェからブッ殺すぞクソガキぃ!」
裏切り者が挑発に掛かった。
怒りに任せて人質の首に当てていた槍の穂先を俺に向けたのだ。
何も示し合わせていないが、今が逃げ出すチャンスだと雷珠を人質の頬に当てて合図を出す。
「ふんっ!!」
「ぎゃっ!」
人質だった衛士が自らの短刀を使って、片手で首を締めるだけになった敵性衛士の首を切り裂いた。
「爺ちゃん! 今!」
「まかせい! ≪裂天吼獣≫ -雷音-」
爺ちゃんが術を唱えると一筋の細い雷が天から地面へと落ち、大音量の雷鳴が響いた。
音に特化した雷だ。
その爆音に獣も人間も激しく混乱しているのが見て取れた。
ミナ殿はどんな術なのか知っていたようで、術名が聞こえた瞬間に両耳を塞いでいた。
そりゃ二人とも内宴に呼ばれる仲だものな。
爺ちゃんもミナ殿に知られている技を選んだのかもしれない。
耳を塞ぎつつ仰向けに倒れていた人質だった衛士に駆け寄って脈を確認するが大丈夫そうだ。
よく気付いて行動してくれた。
俯せの共犯の衛士は両手で切られた喉を押さえて呼吸を確保しようとしているようだ。
運が良ければ生きているうちに捕まって治療を受ける事が出来るだろう。
周囲の五人の反応は消えていた。
爆音に混乱した獣を制御できないと判断して撤退を選んだのかもしれない。
今一度、雷神眼で周囲を索敵する。
あれ? 建物の壁に張り付いてるのが居る。蜥蜴かな。
あんなの最初に居たっけ?
その動きを追うとミナ殿の頭上に位置取った。
......まさかアイツが毒を!?
俺は走り出す前に一瞬、俯せの敵性衛士を見るとこちらへ向かって口を動かしていたのが見えた。
「ザ、マ、ミ、ロ」
背後でドサッと倒れた音が聞こえたことなど構わず雷身で強化して全速力でミナ殿に駆け寄る。
白竜の指輪のお陰で身体機能が体感で1.2~1.3倍くらいになっている気がする。
息子の亡骸に寄り添うミナ殿へと口を開けて飛び掛かる蜥蜴。
爺ちゃんも周囲の獣を麻痺させて無力化している最中で気付いていない。
もう少しでミナ殿を抱えて避けれると思った時、揺れる松明の灯りの中で落下する蜥蜴と目が合った。
体長12㎝程の金色で竜のような見た目。
その特徴は何かの書物で見た覚えがある。
そして真っ赤な目。
その目を見たとき、直感的にコイツはここで殺さないとヤバイと思った。
術者が死んで自由になったからか元々危険過ぎるのかは分からないが、見られただけでヒデヨシに並ぶほどの殺気が突き刺さった。
師匠との修行が無ければ竦んで止まっていたかもしれない。
俺はしゃがんでいるミナ殿に急接近すると頭上スレスレを横蹴りで蹴り抜いて降ってくる蜥蜴を壁に叩きつける。
蜥蜴は速度と威力の乗った蹴りによって壁に直撃して潰れた果実のようになっていた。
「ふぅ。ミナ殿ご無礼申し訳ありません」
「い、いえ……。ツナ殿に助けられたようですね。この恩義にはいつかきっと報います」
「いえいえ、俺は出来ることをやっただけですか————ら?」
視界がクラクラとする。足先が熱い。
チラッと視線を下げると足先に血が滲んでいる。
あの一瞬で咬まれた......?
クソッ! 一本歯下駄を履いていればよかったか......。
「ツナ殿!!?」
「ツナ!!?」
胸が苦しい。呼吸が出来ない。
体内に電流を流して麻痺した神経を無理やり動かす。
最低限、脳ト心肺機能ヲ、イジ......。
ダメダ。シコウヲ、マワ、サ、ナイ、ト......。
そこで俺の意識は暗闇の底に沈んだ。




