六十七話 探偵気取り
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「えぇっ!!?」
「しーっ! 声が大きい!」
「ご、ごめんなさい」
まさか内宴で人死にが起きたなんて......。
俺がつい大声をあげてしまったのも無理はないだろう。
なにせ内宴というのは神皇が自身の呼びたい者だけを集めて開かれる節会だ。
無論、そこでは神皇に親しく心許せる者しか居ないはずだから、そんな場で人死にが起きるなんてとんでもないことなのだ。
「死んだのは出席者の右大弁ミナ・クジョウの息子で右少史ナガ・クジョウ。母親と同じく品行方正で黒い噂など聞いたこともない男じゃった......。クジョウ家は主上の厩番を任されておるから、そこで白い角馬の世話をしておった」
「あぁ、前に爺ちゃんに着いてこっそり覗いた白馬節会の時の白い角馬か。覚えてる。あの馬を曳いていた人か......」
一昨年だったか、俺なんかじゃ本当は参加できない白馬節会に爺ちゃんがこっそりと連れて行ってくれて、端の方から覗いたことがある。
立派な白い角馬は前世で言う架空の生物、ユニコーンのような姿で主上の馬なだけあってとても気品に満ちていたし、素人目で見ても曳き手と馬の信頼関係もかなりのものだろうと感じていた。
よく知っているわけではない人物だが、惜しい人を亡くしたものだ。
「それで死因は?」
「それが妙なんじゃ。宴席中に突然ウっと声をあげたかと思ったら、胸と首を押さえてそのまま全身が石のように硬くなっておったわ。すぐ傍におった陽属性の使い手が治癒や浄化を掛ける頃には既に死んでおった。死体も石のようになったままじゃ」
「それじゃもしかして暗さ————」
「滅多なことを申すでない! あの場でそんな芸当を行える者は居らぬ。酒や料理も全て再度毒見をさせたが係の者はなんともなかったわい......」
俺が暗殺の可能性を示唆しようとすると爺ちゃんが強めに否定した。
あの場に集まった人々の結束が崩れることを考慮しているのだろう。
突然の心臓病による自然死として片付ければ不幸な事故となるからな......。
だが、親であるミナ・クジョウ殿の心は晴れぬだろうしそれで逆恨みということも起こりうる。
厩番が信頼できないと神皇も怖くて外出できないだろうしな。
誰がやったのか。何故やったのか。よりも今は、どうやったのか。を解明するのが先決だろう。
喉と心臓を押さえてたってことは、心臓の痛みだけじゃなく呼吸も出来なかったってことかな? それに全身の硬直。
なによりも症状が出てから死亡までが早過ぎる。ほぼ即死だ。
警備が厳重な中でわざわざナガ・クジョウ殿一人を狙って毒で暗殺か。
そんな芸当が出来る犯人は恐ろし過ぎるな。
誰にもバレないまま内宴で神皇陛下の暗殺すら出来たかもしれないのだ。
前世の推理系創作物の知識で推測するなら、遅効性の毒を飲まされたとか、速攻性の毒針なんかで毒を注入されたとみるべきだろうか。
「死体に傷なんかはあった? 脱がせて身体中を見た?」
「いや、そこまでは……。」
「今から確認に行こう!」
「い、今からじゃと!?」
こういうのは善は急げと相場が決まっている。
犯行の痕跡は時間が経つほどに失われてしまうのだ。
俺は推理系のお約束を踏襲して、未だ亡骸が安置されている内裏の庭端へと爺ちゃんと共に向かった。
日も落ちて松明に照らされた内裏の片隅、地面に布を敷き、その上に横たわる亡骸があった。
その傍で亡骸の胸に手を置き蹲っている一人の女性、その周囲には二人の見張り番の衛士が居た。
「これは権参議殿!? どうしてかような時間にこんな所へ?」
「うむ。見張り番ご苦労。うちの孫のツナが是非にミナ殿にお話を聞きたいと申してな。こんな時に申し訳ないのだが少し時間をもらえんだろうか?」
見張り番の衛士はお互いに顔を見合わせたが、まだ6歳の俺に気を許したのか、取るに足らないことだと思ったのか、道を開けてくれた。
「右大弁ミナ・クジョウ殿ですね。私はツナ・トールと申します。この度は誠に惜しい方を亡くしました。一昨年の白馬節会でお見かけした時はとても白い角馬と信頼関係のある曳き手だと感動しておりましたのに。大変残念です」
「このような時に其方のような童と話す事などありません。......と言いたいところですが、わざわざ権参議殿まで御足労頂いたという事は何か大切なお話ですね?」
ミナ殿は息子を亡くしたばかりだというのに、俺のような不躾な子供に憤慨する事もなく目尻の涙を拭って気丈に振る舞った。強い人だ。
俺も真摯な態度を見せるために姿勢を正し、頭を下げて願いを告げる。
「はい。大変失礼で罰当たりなことを承知で申しますが、私にご子息の亡骸を隅々まで見分させて頂きたいのです」
「なっ......! 死者を辱めるなど——」
「あの場での毒殺であるならば亡骸に傷があると思うのでそれを探したいのです」
怒るのは尤もだ。
死んでなおこんな得体の知れない子供に息子の肌を晒すなど、死者への冒涜もいい所だと感じただろう。
だが、俺が毒殺という言葉を用いて理由を説明すると、思うところはあるようだが理性で怒りを鎮めてくれた。
「分かりました......。其方に任せます」




