六十六話 新年早々の凶事
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また1つ歳をとった。
そう。新年を迎え人時代818年になったのである。
今年の新年の贈り物という名の誕生日プレゼントは、父上と母様には揃いの香水と精油を二人が一緒に居る時に渡した。ちなみに香りは薔薇だ。
花を横から見たときに芯が高くなっているように見える剣弁高芯咲きの薔薇がコウボウ様が探し求めた故郷の花に見た目は一番近いと知らされていたのでルアキラ殿と頑張って2年で栽培を成功させた。
多大な恩恵を与えてくれた今は亡き先人に対してのちょっとした恩返しのつもりだ。
その副産物として作ったものだが、まだあまり量は取れないので市場に回さずに俺が譲ってもらった。
俺は表舞台には出るつもりはないのでこれらはルアキラ殿から頂いたものですがと枕詩を付けてあるが、貴人達と関わりの有る父上と母様に揃いで使ってもらおうと思ったのだ。
「夫婦で揃いの香を付けるのはまるで恋絵巻のようで雅趣ではありませんか? お互いが離れている間も同じ香りを嗅いでいるのだなと想い合えるのは素敵だと思います」
と、贈る際に伝えてみると、母様は喜びに目を潤ませながら、父上はちょっと恥ずかしそうにゴホンゴホンとわざとらしく咳込んで、どちらも顔を朱に染めていた。
まだまだお熱い二人には効果が抜群のようだ。
もしかしたらそのうちにまた弟妹が増えるかもしれないな。
キント兄には去年渡した桜木の香水箱を帯や胴に巻いて携帯し易いようにした調節可能な革帯と追加のラベンダーの精油を。
サダ姉には茉莉花(ジャスミン)の精油と漆を塗った桜木の先に金を巻きつけた携帯可能な手作りの短杖を渡した。
サダ姉からは「精油はまだ分かるけれど、なんで杖なの?」と睨まれたが、姑獲鳥に襲撃されたときに姑獲鳥だけを狙い撃てなかったことずっとを悔やんでいて、毎日練習をしているがあまり上手くいってないことを侍女頭のヤチヨさんから聞いていた。
そこで獲物を狙う時に杖先に集中させて撃ってみるのはどうかと思って作ったのがこの短杖だ。
杖先にある金は電気伝導率が高いので電気を集中させるには良いだろう。
それとなく伝導率云々は誤魔化してどうして短杖なのかを伝えると、練習していたことがバレて恥ずかしそうにしつつも「そこまで妾のことを考えてくれていたのね......」と喜んで貰えた。
早速庭で試し撃ちをすると、思惑通りかなり命中精度と圧縮率が上がっているようだ。
飛び跳ねて喜ぶサダ姉の姿はとても微笑ましかった。
ヤチヨさんも目尻に涙を浮かべつつも「はしたないですよ」と嗜めていたのが印象的だった。
案の定、金の価格が高く、今年も一番お財布に優しくない贈り物となったので効果が出てくれて嬉しい。
サダ姉が成長したら杖ではなく鉄扇にして拡散と収縮を切り替えつつ接近戦での盾にもなるようにするのは面白いかもな。
流石にそこまでの鉄物を作るにはサイカに教え乞う必要があるだろうけれど。
エタケには約束通り髪飾りを贈った。
記憶を頼りに前世のヘアピンをなんとか黒鉄で模した留め具を作り、そこにサイカから彫金を教わりつつ作った黒揚羽蝶の飾りを付けた物だ。
彫金技術で小さな黒鉄に揚羽蝶の羽の模様を入れるのはとても苦労した。
今年もエタケへの贈り物が一番時間を掛けた気がする。
受け取ったエタケは最初にその出来に喜んだが、ヘアピンの付け方が分からないようだったので、俺が前髪を右側に寄せて留めてやるととても驚きつつも喜んでくれた。
これなら内功型であるエタケが戦う時にある程度激しく動いても外れることは無いだろう。
この1年はムラマル殿に師事してもらって色々と戦い方を模索して悩んでいるようだし、気晴らしになったのなら嬉しい。
お礼の言葉と共に抱き着かれると製作に掛けた苦労なんてものは軽く吹き飛んだ。
爺ちゃんへはこの世界ではオーバーテクノロジーである挟み焼き鉄板器……所謂ホットサンドメーカーを渡した。
鍛冶用の玉箸や平箸などの火箸の形を見て、前世で登山動画を漁っている時に見たキャンプ系動画の中にあったのを思い出したからだ。
構造を紙にまとめてルアキラ殿に頼んで鍛冶道具職人に特注で作ってもらった。
鉄の蝶番を作るのに手間が掛かったらしい。
カツゾウが齎した建築技術にも同じものがあったようだが、そちらは既に職人が亡くなっており失伝してしまっていたようだ。
これは他の所にも流用できる技術だと喜ばれたようなので感謝だけしておこう。
これでミンチ肉があればいつでもハンバーグを食べれるよと伝えると、爺ちゃんが跳び上がって喜んだのを見て姉を想起し、家族なんだなぁとしみじみと感じた。
ちなみにホントのオーバーテクノロジーはルアキラ殿が作り上げ挽肉製造の魔術具で、鉄の筒に魔法陣が書いてあるだけの単純な物だが、風の魔力を込めると筒の中で小さな風刃がいくつも巻き起こり、中の肉をズタズタの挽肉にしてしまう代物だった。
そのうち貴族層に売り出すらしいので、広まる頃にはうちの厨にも1つ用意してもらおう。
今年は更にルアキラ殿にはある料理のレシピを。
キイチ師匠には皇京で流行っているセイ・アレス少納言の『魂蔵草子』の写本を。
サイカには使い古してボロボロになっていた髪結い紐を修繕してあげた。
亡くなった旦那さんが作ってくれたものらしく、他の物を付ける気にはなれないそうだ。
刀の鍔や鞘への彫り物は得意としているのに裁縫は苦手だというのには驚いたが俺で役に立てることがあって良かった。
そんなこんなで正月も過ぎた子日。
仁寿殿で開かれた内宴に呼ばれた爺ちゃんが、帰って来ると酷く苦々しい表情をしていた。
「爺ちゃんおかえりなさい。顔色悪いけど内宴で何かあった?」
「お、おお、ツナか。うーむ。お主には話しても構わんか。よし! ワシの部屋で話そう」
爺ちゃんは少しだけ悩んだ様子だったが異世界の知識がある俺なら良い案があるかも知れないと思ったのだろう。
部屋へ招くと内宴で起きたことを教えてくれた。
「これは絶対に外部に漏らしてはいけないのじゃが、内宴中に人死にが出たんじゃ」




