六十五話 妖魔大蜈蚣討伐を終えて
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竜王からの報酬を受け取った後、爺ちゃんとデサート殿は皇京へ帰ろうとしたが荷物の量が量なので(主にデサート殿の)オロシに大烏の助っ人を連れて来てもらうよう頼んだ。
オロシが連れて来たのは双子の大烏ヴァーユとヴァ―タだ。
双子の大烏がそれぞれ葛篭を掴んで背にはデサート殿を乗せて飛んだ。
雷上動を背負った爺ちゃんがコゲツで先導して皇京へ向かって行った。
「俺たちも帰ろうか」
「ツナ坊ちゃん......。ウチの頼みを聞いてもらったばっかりに危ない目に遭わせてごめんな」
自分が頼んだことがキッカケで俺が命を落としかけたことを気にしていたのか。
でも危ない場面で助けてくれたのはサイカだしな。
俺からすれば寧ろ命の恩人だ。
「気にすんなって。俺もサイカに助けてもらったし、結果的にはニオノ海も今までより平和になってお宝のご褒美まで貰えたんだから」
「うん......。せやな! おおきに!」
結果良ければすべて良しというのは極論過ぎるが、今のサイカには効果的だったのだろう。
いつも通りの明るい笑顔を返してくれた。
クラマに戻りキイチ師匠に報告と矢のお礼を伝えると、疲れていたこともあり早めの夕餉を食べてさっさと眠った。
それからいつもの日常に戻って1週間が経過し、デサート殿に依頼されていた大蜈蚣を討った矢で作られた刀を渡す事になった。
クラマ山の麓までやってきたデサート殿を俺とサイカで出迎える。
「年の瀬の忙しい時期にすまんな。本当は完成したと報せを受けた日にでもすぐに取りに来たかったのだが、妖魔退治の祝宴やら殿上人が是非自分の屋敷で英雄譚を聞かせてくれなどと煩くてな。毎日毎日あちらこちらで同じ話をし過ぎて説教をする僧にでもなった気分だ」
そうやって苦笑するデサート殿は1週間前よりも少々くたびれたように見えた。
刀自体は竜牙の槌を得て気合の入ったサイカが頑張ったことで、2日前には打ち上がっており、サイカ自身もおかげで会心の作が出来たと言っていた。
「これがウチの打った刀。蜈蚣切蜈蚣切や」
「おお! これは見事だ! やはり拙者の見立てに狂いはなかった。サイカ殿に頼んで正解だったな。ちなみにこれは刀匠の銘はなんとする?」
ノブナガの暗殺に失敗し、魔族領から逃げて来たサイカもサイカも俺と同じように名前を世に知られるのはよろしくない。
デサート殿は色々と察して配慮してくれるようだが、この刀で手柄をあげた際や、他人に聞かれた場合などに名刀の刀匠の銘が分らぬでは困るのだろう。
ちなみに前回ヨリツ父上の髭切を打ち直し、鬼切丸とした時の名はヤスツナだ。
世を刀で安らかにしたいという思いと何故か俺の名を合わせたらしい。
「数本打ったら銘を変えるなんてどう? 同じ人物じゃないと思わせておけばいいよ」
「せやな! 有名になっても困るし。じゃあ今回は神さんの息が掛かった槌で作ったから神息......シンソクにしよか!」
正確には霊獣だが、この辺はぼかして誇張表現しておけば信じる者も居ないだろうしな。
神の息か......。前世の英語では「幸運を祈る」とかそういう意味があるんだったか。
思いついた本人は知る由もないだろうが縁起の良い名だ。
サイカはデサート殿から刀を受け取ると手早く茎にシンソクと銘を打って返した。
「相分かった。シンソク殿の蜈蚣切。我が家の家宝と致す。ツナ殿、サイカ殿。この度は大変世話になった! またいずれ会おう! ではな!」
「デサートはんも御達者で!」
「お気をつけて! またいずれ!」
刀を受け取ったデサート殿は再び皇京へと戻った。
正月いっぱいまでは予定がぎっしりと詰められてしまっているそうだ。
あまりにも遅くなったことに対して国許の奥方から怒りの文が届いたので、先に褒賞やらなんやらを纏めて送ったらしい。
早く帰ってきてほしいと言われるくらいに夫婦仲が良いのは微笑ましいな。
俺はデサート殿がなるべく早く国許へ帰れることを祈った。




