六十三話 決着、妖魔大蜈蚣討伐
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「ギェェエエエエエエエエ!!!!」
「よしっ!!」
大蜈蚣の毒牙は回避できたが、まだ安全圏ではない。
俺は鉄棍に電流を流し、先ほどとは反対側に仕込んであるギミックを起動した。
ジャラジャラと音を立てて射出されるのは細かな鎖。
天才鍛冶師のサイカを以てして二度と作りたくないと言わしめた細く長い鎖分銅だ。
3m程の長さのそれを逆から迫っていた毒牙の先端に絡ませて、暴れる蜈蚣の頭に振り回される勢いを利用し機会を見て手を放して飛んで逃げる算段だ。
大蜈蚣が毒腺に突き刺さった特製矢に悶え、俺の身体もそれに伴って思い切り振り上げられる。
その時、スルッという想定していない感覚に襲われた。
あまりの勢いに毒牙に引っ掛けていた鎖が抜けてしまったようだ。
「うわ!? うわわわわわわわわわわ!!!!」
想定していなかった事態の為、焦ってしまい超感覚が解けてしまった。
自分で跳んだ時よりも高い空中に投げ出され、そこから落下していく感覚に間抜けな声が漏れる。
万事休すか。
以前爺ちゃんがヤスケに蹴り飛ばされたときは雷網で衝撃を和らげたとか言ってたけれど、真似しようにもビー玉くらいの魔石は先ほどの身体強化で使い切って粉々だ。
周りも平地で鎖を引っ掛けられるような木がない。
うん。打つ手なし。
使えそうな知識で残ってるのは前世の自衛隊とか漫画で見た5点着地。
正確には5接地転回着地?だったかは素人が一朝一夕にマネ出来るものじゃなさそうだしな......。
って、そんなこと言ってる場合じゃない! 万が一でも確率があるなら試すしかない!
南無三! と、落下していく中で覚悟を決めて鉄棍を真横に投げ放って両手で頭を抱えて身を丸め————.
「ツナ坊っちゃあぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
地面スレスレで大烏のオロシに乗ったサイカに抱きとめられた。
「はぁはぁ。本気でまた死ぬかと思った。助かったよサイカ」
「あんまり遅いから様子見に来たら大蜈蚣と戦ってるんやもん! しかもツナ坊ちゃんが空飛んだと思ったら、落ちていくねんからビックリしたわ!」
今のはサイカが間に合わず5点着地をやってたとしても上手く行く保証が無かった。
本気で九死に一生を得たな。
サイカの腕に抱えられながら大蜈蚣の方を見ると、デサート殿の最後の陽属性の特製矢が大蜈蚣の眉間を穿った所だった。
大蜈蚣の身体全体から溢れていた穢れが徐々に霧散していく。
目の色も青に戻ったようで今度こそ本当に眉間を射抜いてくれたんだな。流石だ。
オロシに目の色が青に戻ったヒャク様の近くへ降ろしてもらうと、駆け寄ってきた爺ちゃんから脳天に思い切り拳骨を喰らった。
「ぃってて。ごめんなさい」
「言いたいことは今の一発に全て込めたわ。バカもん」
「うん......」
「よくやった」
「うん!」
爺ちゃんは先ほど拳骨を喰らわせた俺の頭に右掌を置くとワシワシと撫でてくれた。
こうして叱ったり褒めてくれる存在は本当に得難い。
そこに甘え過ぎるつもりは無いがずっと大事にしたいと思う。
そのためにももっと強くならないとな。
毎回死に掛けてるようじゃダメだ。
『どうやらわっちを止めてくれたようでありんすね。礼を申すでありんす』
ヒャク様はちゃんと正気を取り戻せたようだな。
だが、その肉体は段々と光の粒子となって消えかけている。
「正直、妖魔化していなければお主を仕留めるのは不可能じゃったよ」
『ふっ。当然でありんす。毘沙門天様も重傷を負うような敵が相手じゃなければわっちが負ける訳がありんせん』
ん? その言い草だと毘沙門天も負傷した事にならないか?
俺と同じことを思ったのか、デサート殿が焦りを浮かべた顔で尋ねた。
「ヒャク様! もしや悪神との戦いで毘沙門天様も負傷なされたのですか?」
『信仰心が力の源である神々の沽券に関わる事ゆえ広めないで欲しいでありんすが、我が主は負傷なされてその力の一端を奪われんした。悪神にも相当な手傷を負わせたのでしばらく休眠しているはずでありんすが。忌々しいことにアスラまでもが攻めてきて.....っと、わっちとしたことが喋り過ぎたでありんすね』
本物の四天王である毘沙門天を負傷させて力を奪えるなんて悪神はトンデモなく強いぞ。
そんな存在に人間が太刀打ちできるとは思えない。
「悪神は今どちらに居るのでしょう? 我ら人間に出来ることはあるのでしょうか?」
『ほう? そこな神気を纏う者よ。其方、悪神をなんとかしたいのかえ?』
「ワシのことじゃな。無論。この世界に害なす存在であればお帰り頂きたいと考えておる」
今の言葉は俺に対して言われたと思ったが、やや食い気味に爺ちゃんが割り入って答えた。
なんだ神気って。
加護や聖痕の事かな?
『ほほほほほほほ!!!! 仮にも神に対してお帰り頂くと吠えるでありんすか! その無謀、わっちは好むでありんすよ。そうでありんす! わっちを止めた褒美を与えんしょう。ココにもう暫く残って喋っているよりも其方らの役に立ちんしょう』
ヒャク様が毒牙をカチカチと鳴らすと、ミカミ山の方角から白い大きな塊が飛んできた。
これは妖魔の時に脱皮した抜け殻か。
それにフーっと息を吹きかけると抜け殻は見る見るうちに縮んでいき、鳶色を基調に黒が入った美しい大鎧一式になった。
「これは見事な大鎧だ......」
「こんなん鍛冶師が廃業してまうで……」
『ふふっ。我が主である毘沙門天様のモノを模倣したこの大鎧”鳶頭蜈蚣”を託すでありんす。使いこなせる者に渡しなんし。さぁてこれで全ての力を使い切ったでありんす。もう二度と会うことは無いと思いんすが精々あの憎き悪神をぶっ飛ばして欲しいでありんす』
最後に『毘沙門天様、やっとそちらに還れます』そう言い残してヒャク様は粒子となって消えた。
妖魔化させられて正気を失っていたとはいえ、多くの命を奪った存在ではある。
関わった者たちに緘口令を敷き霊獣であったことやヒャク様の話した内容は帝と一部の者以外には伏せておくのが良いと爺ちゃんたちは判断するだろうな。
簡単な戦場の処理を済ませ、本陣が焼けたことで物資も無い討伐隊の隊員は、隊長のデサート殿を残して先にヒャク様の託した大鎧と共に皇京へと帰還していった。




