六十二話 霊獣大蜈蚣ヒャク
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「ギェエエエエ!!!!」
必殺の矢を受けた大蜈蚣は大きな叫び声をあげた。
「やったか!」
明らかに矢は眉間を穿ったように見えていたが、矢の光が消えるとそこには矢に貫かれた大蜈蚣の尾節があった。
「陰属性の魔法で尾を頭に見せかけていたのか......!?」
『今のは惜しかっでありんすな』
「「「!!!!?」」」
頭の中に声が響いた。
これは竜の姿のセンシャ様と同じだ。
妖魔大蜈蚣が喋ったのか?
よく見ると真っ赤だった大蜈蚣の目が青になっている。
『其方らの陽属性魔法で幾分か穢れが吹き飛び頭が冴えて来ましたえ』
「お主は一体何者だ!!」
『わっちは毘沙門天様に仕える霊獣・大蜈蚣。名はヒャクでありんす。忌々しい妖魔共によって辱められ穢れた身に堕とされはし申したでありんすが、これでも世界の門番役の端くれえ。もっと敬いなんし』
デサート殿が問いかけると大蜈蚣のヒャク様? は花魁の使う廓言葉のような口調で答えた。
毘沙門天に仕える霊獣? 世界の門番役? またとんでもない情報が来たな。
そんな存在を妖魔化出来るなんてことがありうるのか……?
「ヒャク殿は何故に暴れられていたのか!」
『200年以上前に世界の門を無理やり抜けた悪神と帝釈天様が率いる毘沙門天様たち四天王が一戦交えたんでありんす。その時に不甲斐なくも大怪我を負ったわっちは悪神に囚われてこちらに連れ込まれてしまいんした。その後ずっと穢れの中で蝕まれ、身も心も完全な妖魔とされたんでありんしょうな』
ホイホイと世界規模で重要そうな話が語られていく。
話に着いて行くのがやっとなので、いちいち驚いて居られないぞ。
「ならば正気に戻った今、もうお主と戦う必要は無いのじゃな?」
『それは無理でありんす。今こうして話せているのは自分でも不思議なこと。またすぐに正気を失って暴れ出すと感じるでありんす。今のうちにさっさと殺しなんし。そうすればわっちは輪廻によって天へと還れるでありんす』
とんでもない規模の話は一端置いといて、今すぐやらなきゃいけないことは大蜈蚣のヒャク様を倒さなきゃならないってことだな。
「しかし毘沙門天様の霊獣を手に掛けるなど......」
「本人がさっさと殺してくれと言っとるんじゃからやるしかあるまい! デサート殿! 大将として腹を括れい!」
珍しくデサート殿の意気が消沈している。
毘沙門天は彼の信仰する八幡大菩薩、八幡神と同じく武神だからその使者を手に掛けるのは躊躇われることなのかもしれない。
しかしここで躊躇しては更なる被害が及ぶことだろう。
『アァアアアアアアアアアア!!!! ワラワをコンナメニアワセタヤツラメ! ニクイ! コロス! ニクイ! コロス!』
ダメだ。ヒャク様の目が赤く変わった。
また正気を失って暴走し始めている。
「デサート殿! 貴殿は仮にも八幡大菩薩の力を借りて居られる身! 同じく武を司る神の使者が苦しんでいるのを救わずしてどうするというのですか!」
「!!!! そうだ。拙者は何を躊躇していたのか…...。打ち倒しお救いすることこそが武士の情け。すまぬ。目が覚めた!」
俺の檄で吹っ切れたデサート殿が陽属性の篭った特製矢を番えようとした時、大蜈蚣の頭部に以前見た動きがあった。
ヤバイ! あの動きは毒液を噴射する気だ!
気づいた時には走り出していた。理由なんて知らない。
しかしここでデサート殿がやられては大蜈蚣に対抗する有効手段が無くなるのだ。
英雄願望なんて無いし、こんな相手に飛び込むなんて無謀なことも分かり切っている。
だけど、鉄棍を右手に握りしめて身体に雷身を掛けると矢のように飛び出して大蜈蚣の鋭利な大顎へと向かっていた。
「ツナ!?」
爺ちゃんが名を呼ぶ声が聞こえたが、雷の網を維持するのに精一杯で俺を止めることは出来なかった。
これを解除してしまうともっと危険なことになると分かっているからだ。
大蜈蚣がこちらに気付いて頭を動かし、毒液噴射の標的が俺に変わったのが分かる。
陽動としては大成功だろう。
この後の計画なんてないことだけが残念だが。
「うおぉおおおおおおお!!!!」
自然と叫び声をあげていた。
俺は鉄棍を棒高跳びのように地面に突き立て、あらん限りの力で跳び上がった。
もちろん鉄で出来た棍はしならないが力に任せただけで4m程は跳んでいるだろうか。
大蜈蚣の頭が下に見えている。
無理をしているせいで腕の筋繊維がミチミチという音を立てたのが分かるが、それでも限界を超えて強化するために懐に入れてある姑獲鳥の卵で魔力補充した時の魔石を使い身体を無理やり動かす。
考えろ! 生きる術を! 困難を乗り越える方法を!
身体中を普段より強い電流が走っているためか、限界を超えて思考を加速させると周囲の時間がまるでスローモーションのように感じられた。
遠くで未だに子蜈蚣の残党と戦うコゲツの咆哮や討伐隊の剣戟、爺ちゃんが俺を呼ぶ声、デサート殿の詠唱、大蜈蚣の足の一本一本の動き、段々と閉じていき今にも俺へと迫る毒牙......。
この場の全てが感じ取れるような超感覚。
そして見つけた。一縷の脱出手段。
俺は鉄棍を大蜈蚣の毒牙に向けると電流を流して鉄棍に仕込んだギミックを起動した。
鉄棍に電流が流れると先にある蓋が外れ、内部の空洞に仕込んである特製矢をコイルガンの要領で射出する。
デサート殿のような弓での膂力ではないので大蜈蚣の甲殻を突き破ることは出来ないが、毒牙にある毒液を出すための穴は今まさに全開だったのだ。
その穴に陽属性の特製矢が狙い違わず滑り込んでいく。
牙の穴を通って毒腺へと突き刺さったのであろう。
大蜈蚣は大きく悶え苦しんだ。




