五十九話 大蜈蚣討伐準備
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「という訳で師匠、明日は修行が出来そうにありません」
「はぁ。まったく。ただの診察に向かっただけのはずが、どうして二体の妖魔と遭遇して大蜈蚣とは戦闘にもなり、更には霊獣である竜王と会うなんてことになるのですかな?」
俺はクラマに帰って今日起きた事を全て話した。
サイカの知り合いの息子を診るだけのはずだったのに、何時の間にかとんでもないことに巻き込まれていた俺の悪運に呆れられてしまった。
俺もこんなことに首を突っ込む気はサラサラ無かったので呆れられても困るんだけどな。
その後サイカにデサート殿の為の特製矢の案を伝えると「そんなもんがほんまに飛ぶんかいな?」とかなり懐疑的な目で見られたが、試しに数本作ってみるという了解を得た。
翌日、昼前に皇京のトール邸に帰って、爺ちゃんに仔細を報告するとこちらでも盛大に溜息を吐かれた。
昼過ぎには貴族衣装に身を包んだデサート殿がやって来て雷上動の弓を貸してほしいと頭を下げて頼んだ。
「わかった。雷上動の弓はお貸し致す。ただし、譲り受けたものとはいえ我が家の家宝の1つ。直接ワシが持って行って最後まで見届けるがワシは居ないものとして扱うように頼む。無論戦闘には参加せぬし、もしもの時は弓を持って逃げるがそれでも構わぬか?」
「ははっ! ご快諾頂き有り難く存じます! 隊の者にも拙者から厳命致します故にご安心召ください」
爺ちゃんは当日に自分で持っていくことと戦闘には不参加であることを宣言した。
もしもの時は弓だけ持って逃げるなんて言ったが、爺ちゃんのことだから本当にヤバくなったらデサート殿たちを逃がす手伝いくらいはやってくれそうだけどね。
本陣を張る位置を聞いて、当日はそこに雷上動の弓とサイカの矢を届けるという約束をして話し合いは終わった。
「そういえば、雷上動の弓を託されたときに特別な矢も2本受け取ったんでしょ? それは貸しちゃダメだったの?」
「うむ。水破と兵破じゃな。元々雷上動は当時まだ幼かったヨリツへとコウボウ殿から託されたものでな。ヨリツには兵部卿になった時に渡すと伝えてあるのじゃ。それまでは使わぬ方が良かろうと判断したんじゃよ」
なんだそれ? コウボウ様はどうして幼いヨリツ父上に雷上動を託したのだろう?
それに爺ちゃんも父上が兵部卿になるまでは渡さないと決めた理由が分からない。
なんとなく理由は聞けないような空気だったので、クラマにて雷上動で特製矢の試射を頼みたいと話題を変えてその日のうちにクラマへと戻った。
竜王センシャ様の依頼から4日が過ぎた。
俺は日々の修行を欠かさず行い、土日も屋敷に帰らず考案した特製矢の試射や改良に立ち合ったりして過ごした。
サイカは最初こそ俺の案に懐疑的だったが、実際に雷上動で放った特製矢が木や鉄の的を貫通する様を見て爺ちゃんと共に興奮していたのは印象的だったな。
ただ予想以上に作るのが大変らしく4日目にして10本を作るのが限界のようだ。
「ツナ殿。こちら完成した矢を3本ほどお借りしてもよろしいかな? 明日の朝には返します故」
「ええ。構いませんが何かに使うのですか?」
「申し訳ないですが、それは秘密とさせて頂きますぞ」
そう言って師匠は完成したばかりの矢を3本持ってクラマ山の奥へと消えた。
あっちの方には何もなかったと記憶しているが、まあ師匠の事だし気にしないで良いか。
俺は鍛冶手伝い用の式神たちに混じり薪割りや水汲みなどの雑務でサイカの作業を手伝った。
そうしてとうとう妖魔大蜈蚣討伐の日がやってきた。
「おはようございます。預かっておりました矢をお返しますぞ」
「こ、これは!!? 3本ともすごい魔力が込めらていますね!? しかもこの柔らかく温かい輝きは陽属性!? 一体どうやって!?」
師匠に一晩預けていた矢は3本とも溢れんばかりに陽属性の魔力が込められていた。
一時的にであれば武器や道具に属性を持たせた魔力を込めることは可能だ。
だが一般的に魔力を込めたところで時間の経過と共に霧散してしまう。
属性付きであればさらに早く霧散してしまうのだ。
それが長時間維持出来ている物は神器と呼ばれるとても希少で貴重な品々だけだ。
雷上動と共に託された水破・兵破もその一つで水破は水属性、兵破は土属性の魔力が込められている。
「妖魔退治の矢には必要かと思いましてな。3本が限界のようでしたがこの状態で1日は保つでしょう。申し訳ないですが魔力を込めた方法は聞かないでくだされ」
「ありがとうございます! きっと上手くいくことでしょう!」
1日ずっとこのままなのか。
流石に神器のようにずっとではないことに何故か安心してしまった。
魔力を込めた方法はとても気になるが、師匠が聞くなと言っているのだから聞かないでおこう。
「この矢ですが1本はツナ殿がお持ちくだされ。先日のような悪運に苛まれた際の御守りです。残りの2本はクラマで祈祷をした矢としてお渡し頂いて構いませぬ」
「わ、わかりました。ありがとうございます! キイチ師匠!」
御守りか......。確かに俺には必要かもしれないな。
視察に行けば人質にされ、診察に行けば妖魔と遭遇するものな。
悪運が強いとかで言われるような悪運じゃなく、トラブル体質というか本当に運が悪い気はしている。
魔力が残っているのは今日一日だろうけれど、そのまま持ってて良いかもしれないな。
ありがたく頂戴しておこう。
俺は矢を仕舞うとコゲツで迎えに来た爺ちゃんと一緒にニオノ海へと向かった。
その後ろにサイカがオロシに乗ってついてきている。
セタさんの所でノセ君の経過観察をするのだ。
漁村に着くとセタさんと奥さん、ノセ君が迎えてくれた。
あれから毒も自然に抜けたようで痛みがぶり返すことは無かったそうだ。
一応身体に触れて雷神眼で全身を確認したが、特に後遺症も無い様で安心した。
もう大丈夫だろうと伝えるととても感謝されたが、そういう事に慣れていない俺は後の事をサイカに丸投げして爺ちゃんと討伐隊の本陣があると伝えられていた場所へと向かった。
「あれが、本陣があるって教えてもらった場所だよね......」
「そうじゃな。所々で火の手が上がっておるな」
俺たちの目の前には今まさに燃え盛っている討伐隊の本陣があった。




