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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~百足蜈蚣編~

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五十八話 白き竜王

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「浄化を使えるものは周囲を浄化せよ! 命素が心許ない者には魔石を渡してやれ! 結界の維持には全力を注げ。決して毒には触れるなよ」


 デサート殿が隊員に指示を出す。

 討伐隊に優先されるべきは大蜈蚣(オオムカデ)の追撃ではあるが、デサート殿は隊員の救出を最優先とした。


「この毒は熱に弱いので大量の熱湯があれば周囲の無毒化が出来るかと」

「それはまことか! しかし連れて来た者たちは雷と陽属性ばかり。拙者も陽と風属性の放出型でな。風はあまり得意ではないので専ら陽しか扱えぬようなものなのだ」

「魔石があればウチが沸かせられるで!」

「今は浄化を使えませんが、水なら(わらわ)が......」

「「「え?」」」


 不意に会話に参加してきた者を見て驚いた。

 俺たちの近くにいつの間にか白い着物のような服を纏った白髪の女性が立っていたのだ。

 その白はどことなく気品や神々しさを感じさせる。

 先ほどの白い(ミズチ)と似ていた。


「あぁ、失礼しました。妾はセンシャ。先ほどの白竜です。このニオノ海を統べる竜王ですわ。蛟は妾の眷属ですのよ」

「「「えぇ!!?」」」


 自己紹介とともにニッコリとほほ笑む女性にまたしても三人で声を揃えて驚いた。


 センシャと名乗るこの女性は蛟ではなく白竜だったのか。

 それにニオノ海を統べる竜王だって!? 霊獣と呼ばれる存在じゃないか。

 蛟と大蜈蚣の妖魔が現れたかと思ったら、もっととんでもない大物が現れたものだ。


「センシャ様、まずは蛟呼ばわりをしたことをお詫びします。書物で見た蛟の特徴と一致していたので初めて見たのがまさか白竜のそれも竜王様だとは思わず......。浅学の身で失礼いたしました」

「いいえツナ殿。人間には妾たちの姿の違いなど一目では分からないでしょう。お気になさらず。それに出会い頭に攻撃しないでくれて助かりました」


 竜王はこちらが丁寧な礼を持って接すると、丁寧な対応で返してくれる。

 王と名が付くだけにもっと傲岸不遜な存在かとも思ったが、彼女は人当たりが良さそうだ。

 ちなみにこの世界で言う人間とは人族と獣人や鬼族など亜人種を全てをひっくるめた呼び方である。


「是非とも手伝いを頼みたいのだが、先ほどの浄化は何故使えぬのか聞かせてもらってもいいだろうか?」

「ええ。デサート殿。妾は竜王として生まれてまだ200年ばかりの若輩者。ここ最近はずっとあの大蜈蚣を退けていたのですが、さっきの浄化で使い切ってしまい、今は竜の姿を維持する力も残されていないのです。丸々1年程眠れば回復は出来るでしょうが、今はそうもいかないので......」


 なるほど。ずっと妖魔大蜈蚣と戦ってくれていたのか。

 しかし霊獣である竜王すら凌駕するあの大蜈蚣は一体......。

 考えていても埒が明かないので身体を動かすことにしよう。


 俺はセタさんの村に戻り、漁に使う巨大桶を借りて来た。

 センシャ様はニオノ海に住む眷属の蛟を3匹ほど呼び出して大桶に水を汲み入れる作業を手伝わせた。


 これが蛟かぁ。確かにセンシャ様の白竜姿に比べると失礼ながら見劣りしてしまうな。

 俺の思考に勘付いたのか蛟たちの視線が鋭くなった気がしたので素直にごめんなさいと謝った。

 後ろの方でセンシャ様がちょっと嬉しそうにクスクスと笑っていたのは見なかったことにした。


 サイカは巨大桶の中の水に魔石を持った両手を突っ込んで一気に熱している。

 サイカは火と土の内向型だったな。

 これが使えるなら毒を飲んだ時も自力で体温を上げて治せたんじゃないか?と聞いたが、痛さで魔法を使う程の思考が纏まらなかったし、俺が治せるかどうかを試すためのものだったからああするのが正解だった。と言い返されてしまい押し黙るしかなかった。


 巨大桶3杯分の熱湯を周囲に掛けて湯気が霧散するころには結界の中にいた隊員達は無事に脱出できた。


 大蜈蚣に結界を砕かれた四人については走り去った二人が死亡。

 その場で気絶していた二人は最初の気化した毒が体内に回っていたので巫女たちによって毒の浄化を受けているが、呪いと違って毒に浄化の魔法は効きにくいのだそうだ。


 毒は科学的なものだからかな? 呪いは超常的なものだと思うから浄化もそっちの系統に特効があるのかも?

 効きにくいだけであって効かない訳では無いので、特殊な知識があるとバレる危険性を背負ってまで俺が痛みを緩和する必要はないだろう。ごめんね。


 一通りの救助や片付けを終え、俺とサイカ、デサート殿、センシャ様の四人で集まって話し合う事になった。

 まずは情報収集。センシャ様が知っていることを教えてくれた。


 あの妖魔大蜈蚣はルアキラ殿の私兵調査隊がニオノ海周辺を調べていた頃には既に出現していたそうだ。

 ただ最初はあそこまで大きくはなく、ニオノ海で魚を捕食したりしているうちに段々と巨大化していったらしい。

 つまりまだ大きく、強くなる可能性がある。

 

 今はニオノ海から少し離れたミカミ山を(ねぐら)にしているのだそうだ。

 何とそこには大蜈蚣の卵が産んであるという。その数は約50。

 何故産めたのかは謎だが、身体が大きくなり周辺の人間や家畜、蛟たちも捕食対象として狙われるようになったらしい。

 遭遇した妖魔蛟は穢れを浴び続けたせいで妖魔となったらしく、大蜈蚣との連日の戦いで弱って力が減ったセンシャ様を狙っていたらしい。


「妾の力が及ばなかったせいで申し訳ないのですが、どうか貴方方の御力をお貸しください」


 センシャ様はなんとか妖魔大蜈蚣を退治して欲しいと俺たちに頭を下げんばかりに頼んで来た。


「拙者は元より妖魔討伐の勅を主上より受けておる。敵が大蜈蚣に代わったので討伐隊を火属性を主軸に編成し直す為に一度は皇京に戻るが、数日でまたすぐに馳せ参じるつもりだ」

「俺たちは正直、あの大蜈蚣に対して戦力になれそうにありません。ですがサイカに大蜈蚣の甲殻を貫くほどの特製の矢を作ってもらいましょう!」

「よっしゃ! 鍛冶ならウチに任せとき!」

「お三方ともありがとうございます。大蜈蚣は先ほどの傷を癒すのに長くて1週間は動かないはずです。断言は出来ませんがその間は卵の孵化も無いと考えて良いかと」


 決戦は1週間後、いや5日後とした方が良いな。

 今からクラマに戻ってサイカと設計から考えて試射や思考錯誤したとして4日で20本作れれば御の字か。

 デサート殿の腕ならそれだけあれば仕留められるはずだと信じたい。 

 クラマに帰ろうとした時、デサート殿に呼び止められた。


「ツナ殿。トール家に一緒に参ってはくれぬだろうか?」

「うちへ? それはまたどうして?」


 爺ちゃんか父上に協力を依頼するつもりなのか? でも雷の魔法の使い手は大蜈蚣討伐には不要なはずだ。その為に人員を再編しに彼は皇京に戻るのだから。

 俺は訝しみながら話の続きを促した。


雷上動(らいじょうどう)の弓をお貸し願いたい。拙者の弓も中々の名弓ではあるがあの妖魔大蜈蚣を討つには力不足に思えるのだ。雷上動の弓であれば必ずや大蜈蚣の眉間も撃ち抜ける!」


 確かに我が家に伝わる雷上動の弓なら可能かもしれない。

 元はヨウ将軍という大昔の異国の弓の名手が扱っていたもので、彼は雷上動の弓を用いて7つの鎧を貫通させたとの伝説がある。

 彼の死後、その娘の頼みで数百年預かっていたコウボウ殿から爺ちゃんへと託されたらしい。


 先程のデサート殿の腕前ならば、雷上動の弓も使いこなせる気はする。

 万が一、大蜈蚣が傷を癒すだけでなく強くなっていた場合にも備えた方が良いしな。


「わかりました。では明日の昼に我が屋敷でお待ちしています」


 そう言って別れると、俺はサイカと共に大烏のオロシに乗ってクラマへと戻った。



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