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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~百足蜈蚣編~

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五十六話 討伐隊長デサート・タワラ

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「こいつは(ミズチ)!?」

「よ、妖魔なん!?」


 俺たちの目の前に現れたのは書物で見た蛟の特徴を持つ魔獣だった。

 だが、妖魔のような雰囲気はない。

 蛟にも妖魔にも遭遇したことが無いので確実とは言えないが、コイツは普通の蛟だろうか?

 じっとこちらをというか俺の方を見ているが、その瞳に敵意は無いように思える。


「え、えーっと。ほら、こちらに交戦の意思はないよ」

「ちょっ! ツナ坊ちゃん!?」


 この蛟にこちらを襲う様子がなさそうだったので、鉄棍を地面に置いて両手を頭の高さまで挙げた。

 両手を挙げるのは生物にとって威嚇に見えてしまうだろうか?

 やってみて初めて気付いたがもう後の祭りだな。

 サイカも同じように手に持っていた刀を鞘ごと地面に置いた。


「サイカも丸腰になっていいの?」

「ウチは念のために持ってきてただけや。刀はタネガシマと違って作るのが得意なだけで剣術はサッパリやしな。それにウチなんかより強いツナ坊ちゃんが丸腰やのにウチだけ持ってても意味ないもん」


 蛟を見るとサイカの台詞に少し微笑んだようにも見えた。

 知能の高い魔獣は人語を理解し、中には話せるものも居ると読んだことがある。

 いつかの姑獲鳥(ウブメ)も意味の通った言葉を喋ったというし。

 もしかしたらこの白い蛟もこちらの言葉を理解しているのかな?

 

 と、考えていると白い蛟が何かを察知したように頭をニオノ海の沖合に向ける。

 つられて俺たちもそちらを見ると数隻の舟がこちらへ向かってくる。

 よく見ればその先頭には蛇のような何かが泳いでいるのが見えた。


「あれも蛟なんかな? ってあれ?」

「あれ!?」


 さっきまですぐそこにいたはずの白い蛟の姿が消えていた。

 俺とサイカは辺りを見回すが、その姿はどこにもなかった。

 雷神眼にも反応がないということは今こちらに向かっているアレから逃げたのかな?


 とりあえず武器を拾って水辺から少し距離をとる。

 沖合からこちらに向かっていた影が飛び出して俺たちから20m程離れた陸にあがった。

 そこは先ほどまで白い蛟が居た場所だ。


「白いんの次は黒い蛟......?」

「こっちは妖魔って感じの禍々しさがあるな。サイカ。もっと離れておこう」


 黒い蛟からは先ほどの白い蛟と違って禍々しい気配を感じる。

 これが穢れと呼ばれるモノなのかもしれない。

 ということはコイツがニオノ海を滅茶苦茶にした元凶か?


 黒い蛟はキョロキョロと頭を振って何かを探している様子が見て取れる。

 先ほどの白い蛟を探しているのかもしれない。


「弓隊、魔法隊放て!」


 舟の方から指示を出す声が聞こえると黒い蛟に向かって矢と雷魔法の一斉射が浴びせられた。


「ギュアアッ!!」


「≪祓い給え 清め給え 南無八幡(なむはちまん)大菩薩(だいぼさつ) 我に力を与え給え≫ -破邪一閃(ハジャイッセン)-!」


 祝詞による詠唱を終えると光り輝く魔力を帯びた矢が放たれる。

 矢は吸い込まれるように寸分違わず黒い蛟の眉間へと突き刺さった。


「ギュァアアアアア!!!!」


 黒い蛟は断末魔の叫びをあげて絶命した。

 死骸は溶けて崩れ去り、黒い蛟が居た場所は穢れが漂っている。


 「妖魔は骸を遺さない。後に残るのは澱みと嘆きだけ」とは俺の読んだ妖魔に関する書物の一文だ。 

 魔獣であれば強いものや珍しいものは魔石や素材を獲れるので倒す旨味がある。

 妖魔は凶暴凶悪であるのに魔石すら残さないので全く旨味が無いのだ。

 だからといって退治しない訳にもいかない。

 討伐に参加した者の中にはすくなからず犠牲が出る。

 遺された家族の悲しみを表した意味らしい。


 数隻の舟が着岸し、討伐隊の面々が下りてくる。

 妖魔蛟の遺した穢れを見て歓声をあげていた。


「皆! よくやってくれた! これでニオノ海は再び平穏を取り戻すだろう!」


 おぉーー!!!!と一際大きな歓声があがり、先ほど妖魔蛟にトドメを刺した黄金色の大鎧を身に着けた大男が部下を労っていた。

 彼が討伐隊の隊長だろうか?


禊祓(みそぎはらえ)の術は巫女たちに任せる。あの場の穢れを浄化してやってくれ」

「承知いたしました」


 先ほどの強弓を見せた者が巫女たちに指示を出す。

 妖魔が遺した穢れを浄化するようだ。

 もし解毒の術があるのならサイカやノス君の治療を頼めたりしないだろうか。

 そう思って見ていると向こうもこちらに気づいたようで歩み寄ってきた。


「やぁやぁ、お主ら怪我は無かったか? ん? 珍妙な天狗面なぞ被っておる其方は何者だ?」


 あぁ。命素量の多い人にはお面だって気付かれるんだったか。

 前世の江戸時代のような無礼討ちなんてのは、この世界には無いとは思うけれど、素性を隠して余計に怪しまれるよりはここは素直に話す方が得策かな。


「私はトール家のツナ・トールと申します。こちらの女子は鍛冶師のサイカ。故あってニオノ海の知り合いに会いに来ておりました。出来ればこの事はご内密に願いたく存じます」

「ほう! トール家の方でござったか! 拙者はシモツケ少掾(しょうじょう)のデサート・タワラと申す。先日は権参議(ごんのさんぎ)様に大変お世話になり申した! いやぁ、音に聞く雷上動(らいじょうどう)は全く見事な弓であった!」


 やはり今回の討伐隊隊長のデサート・タワラ殿だったか。

 ん? もしかして俺が爺ちゃんにニオノ海の異変について師匠からの文を持って行った時に来ていた客人か?

 まさかうちに伝わる雷上動の弓を見に来ていたとは。

 確か師匠も武具に目がない人物だと評していたな。


「サイカ殿は鍛冶師と仰いましたな。もしやヨリツ殿の髭切(ひげきり)......いや、今は鬼切丸(おにきりまる)でしたかな? アレを打った鍛冶師というのは貴女では?」

「え!? そうや————」

「申し訳ない。ご無礼承知の上ですが答えかねます」


 バンドーの人だというのに髭切が打ち直されたことまで知っているのか。

 この人の情報収集力は侮れないな。

 サイカがもうほとんど答えを言ってしまったが、食い気味に断ることで言外に他言無用だと伝えた。


「あぁ、そんなに警戒なさらんでくれ。拙者、今はタワラ姓を名乗っておるが元々はジワラの家柄でしてな? その縁で皇京の情報などもチラホラと入ってくるのだ。専ら武具についての話しか興味が無いので、今知ったことも誰かに言い触らしたりなどはせぬよ」

「わかりました。その言葉を信じましょう」


 本当に武具にしか興味がなさそうだと感じる。

 なんというかマニア気質特有の雰囲気というか、サイカの衣服など割と露出が多めではあるのにさっきからデサート殿の視線はサイカの腰に差した刀と俺の鉄棍にしかいってない。


 もしこれで全部演技ならよっぽどの狸だ。今の俺なんかがいくら頑張ったところでとても敵わない。


 案の定、俺とサイカの持つ武器について詳しく聞いて来たので軽く説明していると、突然目の前に先ほどの白い蛟が現れた。



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