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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~百足蜈蚣編~

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五十五話 毒水への対処法

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 サイカは汚染された毒水を汲んで来たらしい。

 しかも自分が飲むから人体実験をしろとまで言ってきた。


「待て待て! どうしてそうなった!?」

「ツナ坊ちゃんは色々思い付いてるんやろ? でもノス坊が相手やから失敗は出来んと思ってる。せやからウチで試したらええ! 失敗しても大丈夫やし恨みもせん! ツナ坊ちゃんが思い付くまま試してくれたらええんよ! なんとかしてくれるって信じてるしな!」

「サイカ......」


 サイカの期待が重圧にも感じられるが、でもそれ以上にここまで信頼されていることが嬉しい。

 それでもサイカの身体を犠牲にすることには抵抗がある......。

 だが、そうは言っても居られない。


「まず今試したいことを検証するからサイカはちょっと待ってて。セタさんこの水の半分を沸かしてください。沸かす時に湯気は吸わないように!」

「はい!」


 鍋に移して沸かせたものが冷めるのを待って実験を開始した。

 サイカが汲んで来た濁った水と一度沸騰させた水とを比べる。

 濁った方は薄紫色をしているが、沸騰させたものは普通の水の色に戻っている。

 俺は左手の小指の先を濁った方へ、右手の小指の先を沸騰させた方へと浸けた。

 

 10秒ほどで左手の小指の先がチクチクとした痛みを感じ始めた。

 まるで針で突かれているような痛みだ。

 ノス君は全身でこれに耐えているのか。しかも今朝から。

 幼子ながらなんという忍耐力だ。


 早く助けてやりたいと逸る気持ちを落ち着かせて実験を続ける。

 右手の小指には何の異常もない。

 やはりこの毒は熱に弱い可能性が高い。

 

 左手の小指を無毒化した水で洗って布切れで拭う。

 少しはマシになったかもしれないが、まだまだ痛みは続いている。

 そのまま一度沸騰させた水の鍋に手を入れて洗うと希釈されたのか痛みは感じられない程度には消え去った。


 そこに残った半分のうちの更に半分を混ぜて左手を突っ込む。

 小指を入れたときよりはかなりマシだがそれでも結構痛いな。

 毬栗(いがぐり)を握っているような痛みが左の掌に走っている。

 しかし汲んで来たものは毒の原液では無いだろうに希釈してコレってどれだけ濃いんだ。


 左手は浸けたまま右手で竈まで運び、水が段々と熱されるのを待つ。

 ぬるま湯に感じるくらいではまだ痛みは引かない。

 風呂の温度でもまだ痛いか。

 風呂よりもちょっと高い温度になって来た。

 熱さに耐えられなくなり手を引くと左手の痛みが消えていた。


 熱は体感だが45℃以上は要るのか。

 しっかり煮沸したりするのが正解かな。

 鍋の中の湯を竹の湯呑で掬って舐めてみる。


「ちょ! ツナ坊ちゃん! そういう役はウチがやるから!」

「サイカはまだ待ってて!」


 痺れは無いな。

 抗議の声を挙げたサイカを制止して、湯呑の中身を飲み干した。


「うん。口内に異常なし。この毒水は人肌以上に沸かせば飲む事が出来るようになるね。身体に付着した分は熱水に浸した布で拭きとれば毒気は消えるみたい」

「おぉ……!!」

「すごい......!」


 これで体外に付着した毒の問題は解決できそうだ。

 後は体内か…...。


 俺の身体で試すのが患者との年齢や体型差的にも丁度いいのだが、万が一痛みのせいで思考が出来ないなんてことがあれば、俺自身が患者として転がるだけの醜態を晒すことになる。

 心を鬼にしてサイカに頼むしかないな......。


「サイカ。さっきの件、お願いしていい?」

「んー。そんな言い方やったらちょっと無理やなぁ? ここは男らしくビシッ! と決めてぇな。こっちは1個しかない命賭けるんやで?」


 流石にふざけている場合じゃないだろ。と言い返そうとしてサイカを見ると、彼女の腕は震えていた。

 そうだよな。せっかく右腕や耳が治ったのに、また何か起きるかもしれないし、下手をすれば死ぬ可能性だってあるんだもんな。サイカだって怖いに決まってる......。


「ふぅ......。サイカ! 俺に協力してくれ!」

「任せとき!」


 俺は命懸けの協力にも努めて明るくしてくれようとする彼女の心配りに感謝し、絶対に治療法を見つけてみせると決意した。


 サイカの前に竹の湯呑に毒水を1杯分を入れて置いた。

 ノス君が溺れた際に飲んだであろう水の量など分からないので、とりあえず湯呑1杯分とした。 

 サイカが湯呑を持ち上げて恐る恐る一口飲む。


「ぐぅっ!! イタたたた!!!! こんなんに耐えてるんか! ノス坊は強い子やなぁ!!」


 口内や喉を襲う痛みに耐えつつ、こんな時でも誤魔化す様に明るく振る舞おうとする。

 一般的に男性よりも女性の肉体の方が出産に耐えられるように痛みに強い作りになっているという説がある。


 サイカは痛みに耐えるためにフーッ!フーッ!と荒く深い呼吸をすると、意を決したように湯呑に残された毒水を一気に呷った。


「ぐがぁああああ!!!!」


 激痛からまるで獣のような声で叫ぶ彼女の口に布を巻いた細竹を噛ませる。

 万が一舌を嚙み切ってしまわないためだ。

 痛みに耐えてギュッと手に力が入っても爪が食い込んだりしないように俺の鉄棍を両手で握らせる。


「サイカ! さっきみたいに鼻で深く呼吸して! 吸って、吐いて。ほら、スゥーーー。フゥーーー」 

「スゥーーー。フゥーーー」

「良い子だ! そのまま続けてて」


 痛みによって筋肉が緊張したり呼吸が荒くなることで身体の各器官や組織が酸欠になれば更に痛みが増してしまう悪循環が起きると前世の保健の教科書で見た覚えがある。

 セタさんにはノス君についてもらって深呼吸を繰り返させるようにと頼んである。

 サイカの身体に毒が回るまでもうしばらく耐えてもらうしかない。


 しばらくした後、汗ばむサイカの額に手を当てて雷神眼で身体を見る。

 身体の緊急反応の為の忙しないやり取りもあるが、それとは別に徐々に身体中で電気信号のやり取りが増えている。

 おそらく毒が回り始めて痛覚神経のやりとりが活発になってきたのだろう。


 寝ている彼女の上半身を抱き上げ、口に噛ませていた細竹を外して風呂より熱いくらいまで熱した湯を幾度か飲ませる。

 これで口と喉の痛みはマシになるはずだ。


「サイカ。今から試していくけど滅茶苦茶痛いかもしれないからその時は遠慮なく教えて」

「わ、が......っだ」


 サイカはまだ痛みでまともに喋れないこちらを見ながらコクリと頷いた。


「始めるよ」


 俺はサイカの額に手を当てたまま、電気治療の時と同じように体内に電気を流す。

 その電気の強さを電気治療の時よりも徐々に強くしていく。

 断続的な刺激にサイカの身体がビクビクと震えている。


「ヅナ、イダイ!!」


 サイカの訴えを聞き直ぐに痛みを感じるよりも前の強さに落とす。

 そしてその強さのまま、次は痛みの神経が活発化していた数か所のポイントに絞って断続的に流していく。

 こうすることで痛いと感じる神経を誤魔化せないかと考えたのだ。

 数分間程続けていると徐々にではあるがサイカの呼吸が整い、顔色も良くなってきた。

 実際に効いているのだろうか?


「ツナ坊......痛みを感じひんようになってきた」

「わかった。もう少し続けるね」


 さらに数分継続すると痛みが完全に引いたようだ。

 急ぎノス君にも同じように電気治療をすると彼の痛みも引いたようだ。


「すごい! ツナ坊! 流石や!」

「ありがとうごぜぇます! ありがとうごぜぇます!」

「ありがとう。テングさま」

「良かった。一先ずは安心だね......」


 一先ずというのはこの治療方法は解毒ではなく痛みに対する対処療法だからだ。

 暫くは経過観察が必要だろう。


 俺とサイカはセタさんにまた来ることを告げて村から離れた。


「まったく! 自分の命を張るなんて真似はもうやらないでくれよな!」

「ゴメンて。あの時はああするしかないかなって思ってん。ツナ坊は優しすぎるからなぁ。庶民の子供なら好き勝手に試してそれで治らないでも知ったこっちゃないっていうのが貴族の印象やで? ウチの里に来たんはそんな奴ばっかりやった」


 サイカの住んでいた里はタネガシマ製造の為だけに作られた隠れ里で訪れた貴族と言うのもノブナガ軍の武器管理の役所とかだろうな。

 確かに頑固で融通の利かなさそうな印象がある。


 まあ皇京の貴族も大概だが。

 我が家もどこぞの殿上人から妨害を受けたこともあるしな。


「まあそんな甘ちゃんなところもツナ坊ちゃんの魅力やと思うわ。来てくれてありがとうな!」

「お、おう......」


 サイカにまっすぐ褒められると照れ臭くなってしまった。


「キューーーーイ!」

「「!!?」」


 甲高い鳴き声が聞こえたかと思ったら、不意に俺たちの目の前に3mほどの白い蛇のようにも竜のようにも見える生き物が現れた。


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