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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~百足蜈蚣編~

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五十四話 少年を蝕む毒

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 師匠に見送られてクラマ山から飛び立ってから10分程でサイカが毎日訪れている漁村に到着した。

 点在している家屋は竪穴式住居のような造りだ。

 皇京やその周辺では庶民の住居は長屋や掘っ立て小屋のような建物が多いのでかなり印象が違った。

 

 村の周りには最近漁師たちが耕したであろう畝幅が不揃いな畑や、俺がサイカに伝えた備中鍬(びっちゅうぐわ)などの鉄を用いた農具が見受けられた。


「ツナ坊ちゃん、ここや。おっちゃん! お医者を連れてきたで!」

「おお! サイカさん! 本当にこんな所まで医者を連れてきてくれたのかい?」


 住居の中から出て来たのは日焼けした髭もじゃな大男だった。

 年齢は三十歳くらいだろうか?

 サイカと同じかそれよりも若いくらいなのにおっちゃん呼びって……。

 まあ鬼族との混血だからか、サイカは実年齢よりも若く見えるのだけれど。


「この方はクラマのキイチはんの知り合いで、名前はえーっと......」

天狗(テング)族のヨシツナと申します。私に治せるかは分かりませんがお子さんの容態を診させていただけますか?」

「え、ええ。おいらはセタ。で、ございます? どうか倅を、ノスを治してやってくだせぇ!!」


 俺は必要になるだろうと移動中に考えていた偽名を名乗った。

 師匠は前世でいうところの鞍馬山の烏天狗(カラステング)鬼一法眼(きいちほうげん)だからな。

 俺は牛若丸......源義経(みなもとのよしつね)のような立ち位置だろうか。

 ヨシツネだとサイカがツナ坊ちゃんと間違って呼んだ時にボロを出してしまいかねないので、ヨシツナと名乗ったのだ。


 セタさんは俺の背格好があまりにも幼く見えるので一瞬訝しんだようだったが、天狗族を見たことが無かったのかそういう種族なのかと割り切ったらしく、息子の治療を頼み込んだ。


 家の中に入ると大きな竈が1つと鉄鍋と桶が数個あるだけで、端の方で藁を敷いた上に幼子が寝かされていた。

 彼が今回の患者、ノス君(3歳)だろう。

 母親は隣村まで他の村人と一緒に燃料となる柴(枝や雑木)と食料を交換しに行っているらしい。


 傍らには水の入った桶とボロボロの布切れが置いてある。

 身体を拭いたりする為の物かな。

 それにしても生活物資が何もない。

 都市部の周辺から外れるとここまで違うのか。

 

 地方の人々の住空間に驚きながらも、患者の額に手を当てた。


「いたい! いたいよぉ! てもあしもみんないたいよぉ!」

「ノス君。私は医者だ。今から君を診る。少し痺れるかもしれないが我慢してくれ」


 俺は汗で濡れたノスの額から体内の電気の流れを雷神眼で見た。

 体内で交わされる超速度の電気信号の数々、その中から激しく反応している所を何か所か見つけた。これが痛覚が反応している場所?


 今回は濁った水、つまり妖魔の毒に汚染されたであろう水を経口摂取したことによるものだと聞いていたので胃やその周辺かと思っていたが、どうやら毒は既に全身に広がっているようだ。

 そのせいで痛みが全身を蝕んでいるのだろう。

 

 正直なところ、そう推測出来るだけでそれ以上何をしていいかなんてさっぱりわからない。

 それに目の前で幼子が苦しんでいる姿は想像以上に堪える。

 しかし、素人が下手に手を出して悪化する可能性はかなり高い。


「ツナ坊ちゃん。無理はせんでええんよ。連れて来たウチが言う事やないけど、アカンもんはアカンでしゃあないこともある」


 苦い顔をしている俺の様子から、治療は難しいであろうことを察したサイカが優しく俺の肩に手を置いて無理はしなくていいと諭してくれる。


「怖いんだ......。中途半端な推測のまま下手をしたら余計に苦しめてしまう事になるかもしれないのが怖いんだ」


 俺がサイカにだけ聞こえるように不安を吐露するとサイカは俺の頭を優しく撫でて「そうかぁ......」と一言だけ残して外に出ていった。


 そのまま俺はずっとノス君の身体に触れて診察を続ける。

 解ったことは触れても触れなくても痛がる。つまり内からも外からも痛みを感じているということだけ......。

 

 ん?


 俺は自分の身体に微かな違和感を感じた。


 ずっとノス君に触れていた俺の手も少しチクチクとした痛みがある?

 毒が残っていた? もしくは接触感染するのか?


「すぐに湯を沸かしてください! 出来るだけ綺麗な布も!」

「は、はいっ!」


 セタさん湯を沸かさせ、持って来させた布切れを消毒の為に煮沸する。

 そしてその布でノス君の身体を指先までしっかりと拭いた。

 

 すると、外側に触れた際に見える痛みの反応が消えた。

 痛がる様子も先ほどまでの泣き叫んでいた時よりはマシになっている。

 同時に布を持っていた俺の手の痛みも消えていた。


 やはり毒が付着したまま残っていたようだ。

 でも俺が来る前にも身体は拭いていたはず。

 拭い落とせなかったのはなんでだ?


 煮沸した布......熱?

 この毒は熱に弱い?


 俺が1つの仮説に思い至ったところにサイカが桶を抱えて帰って来た。


「ツナ坊ちゃん! 毒の水汲んで来たで! 今からウチがコレを飲むから、ウチの身体でまずは考えた事を全部試してみ!」

「サイカ!?」


 俺は彼女の言葉に驚き、一瞬思考が止まってしまった。



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