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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~百足蜈蚣編~

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五十一話 不穏な影

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 今年の新嘗祭(にいなめのまつり)も終わり、もう数日で師走に差し掛かる霜月最後の週。

 俺はクラマ寺でサイカと共に朝餉を摂っていた。


「最近は(しじみ)(あさり)が毒を持ってしもたみたいでしばらくは食べられへんねんて。水も濁ってるとこあったり、魚も減ってるみたいで猟師のおっちゃんらが嘆いてはったわ......」

「貝が毒を持つのは聞いたことがあるけれど、ニオノ海の規模で水が濁ったり漁獲量が減ってるのは大変だな」


 赤潮だとかで魚が大量死したり、毒性プランクトンを摂取したことで貝類が毒を持つなんてことは聞いたことがあるが、赤潮などは起きてはいないという。

 何か嫌な予感がするな。師匠やルアキラ殿、爺ちゃんにも話しておくか。


「......ということがあったそうなんです。これって以前お話くださったニオノ海周辺の妖魔の兆候と関係あったりしませんか?」

「なるほど......。これは早急に調べさせた方が良さそうですな。本日の修行は中止にしましょう。一筆認めるのでその文を持ってルアキラとミチザ殿にお渡しいただけますかな?」


 承知した俺はクラマ山に住む大烏の一羽、雄烏のオロシに乗って皇京のツチミカド邸に向かった。

 皇京の結界は騎獣登録された魔獣以外は入れないのだが、クラマ山の大烏は全て騎獣として登録済みらしい。


「エンギョウ殿。先触れもなく参上して申し訳ありません。急ぎの文をお持ちしたのですがルアキラ殿はいらっしゃいますか?」

「これはツナ殿。只今ルアキラ様は内裏に居られます。帰りは夕刻になるかと......よろしければ私が参内して届けてまいりましょうか?」

「助かります! お願いしてもよろしいですか?」


 ツチミカド邸にルアキラ殿は居なかったが、出迎えてくれたエンギョウ殿に文を託して俺はオロシをクラマに帰るよう指示してからトール邸へと向かった。


「ただいま! 爺ちゃんは屋敷に居るかな? なるべく急ぎで伝えたいことがあるんだけど」

「ツナ様? おかえりなさいませ。ご当主様は自室に居られますよ。ただいまお客様がいらっしゃいますので私が先にお伝えしましょう。ツナ様はお部屋にてお待ちください」


 俺は出迎えてくれた従者に言伝を頼んで自室へと戻った。

 爺ちゃんへの来客とは珍しいな。いつもは「来客は拒否してこちらから出向く。相手の屋敷を訪問する方が意見を押し付けやすいんじゃ」とか言っていたのに。


 少しすると来客の対応を終えた爺ちゃんが俺の部屋に来た。


「ツナ。待たせたの。急ぎとは何ぞあったのか?」

「うん。実は————」


 俺は文を渡して口頭で今朝の事を説明した。

 爺ちゃんは文を読みながら首を傾げて左手で顎髭を触った。

 これは厄介なことが起きた時の爺ちゃんの癖らしい。


「キイチ殿の見立てではそのニオノ海での異変は妖魔が関わっておる可能性が高いとのことじゃ」

「やっぱりそうなんだね。それでこれからどうするの?」

「ワシとルアキラ殿が参内して主上に皇京からの調査隊派遣を奏上するしかないじゃろうな。ルアキラ殿が独自でやっておった調査隊の報告を基にオウミ守と連携して事に当たる。オウミが大領地とは言え妖魔はただの魔獣とは比較にならんからの。万全を期すべきじゃ」


 ということは皇京からの調査隊として父上や爺ちゃんが赴く可能性もあるのだろうか?


「ふっ。ツナが心配しとるようなことは起きんよ。我がトール家は昨年の件で功績を挙げとるからのう。手柄を立てたい他の貴族が志願するじゃろう」


 そうか。貴族は手柄の取り合いをしているのだったな。

 膝丸(ひざまる)の鍛冶師探しの件ですらどこぞの殿上人から嫌がらせを受けたほどだ。

 もしもうちから誰かが参加して功績でも挙げられてしまうと困るだろうしな。


「他のって言うと武の御三家であるアレス家?」

「いや、アレス家はムラマルが来年には征イ大将軍として出陣する予定があるので出られぬじゃろう。カリマタ(現当主)は太宰府じゃし距離的に難しい。奥方のセイと娘のムラサキは文官じゃからのう」


 ムラマル殿は北方のイ族に対して征伐する軍を指揮するんだったか。

 今は準備期間で手が空いてはいるがそれで万が一にでも怪我などしては計画が頓挫してしまうだろうしな。


「じゃあテミス家は?」

「ミチナも東正鎮守府(とうせいちんじゅふ)からニオノ海まではちと距離があるからのう。正月の間に二三日こちらに来るのとは違って長くは居れぬ。息子のヤスマは正月のアレで見た限りまだまだ経験不足で送り出したところで一人では何もできんじゃろうしな。バンドーの方もイ族とは別で偶に良からぬ噂が流れるし目が離せんのじゃ」


 バンドー……前世で言う関東地方か。

 確か歴代神皇の兄弟や子孫、従兄弟、再従兄弟、玄孫なんかが向こうに固まってバンドー皇子連合なんてのを作ってるんだったかな。

 爺ちゃんが言うには「約一名を除き、血筋に驕って、それ以外に誇れるものの無い怠惰なアホウ共」とか辛辣な評価だった気がする。

 

 でも一部にはそういう皇子に仕える武士と呼ばれる戦闘を生業にした者たちが居るとか。

 あと、確かバンドー皇子連合にも一人、俺と同じで両型の体質を持った方が居られるんだっけか。

 名前はイラ家の————


「よし! 上奏文も仕上がった! 内裏へ参内してくるわい!」

「あっ、うん! いってらっしゃい! じゃあ俺は帰ってくるまで待ってるね。結果を師匠に報告する役も引き受けるよ」


 爺ちゃんは頷いて了承するといつもの柔服装ではなく、侍従たちを呼び、糊で固めて直線的なシルエットの出るようにした黒い強装束に召し変えさせて出掛けて行った。


 曰く、普段と違う見た目であれば上奏文の真剣度合いにハッタリが効くのだそうだ。


 なるほどなぁ。

 普段は行き当たりばったりみたいな態度を取るのに肝心なとこはしっかりしてる。

 やっぱり爺ちゃんも立派なお貴族様だわ。


 その夜、帰宅した爺ちゃんから調査隊派遣が決まったことを教えてもらい、明くる日の朝一番にクラマへと向かった。


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