五十話 から揚げとノブナガ軍の動向
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毎日を修行や勉強、研究などに費やして忙しく過ごしていると時の流れとは早いもので、既に今年も残す所後2か月となった霜月。
俺はツチミカド邸の厨を借りて爺ちゃんとルアキラ殿にこちらの世界ではまだ新しいであろう料理を披露していた。
材料は鶏肉、小麦粉、醤、大蒜、長葱、そして大量の油。
作り方も単純で鶏肉を胡麻油に醤を溶いて刻んだ大蒜と長葱を混ぜて作った液ダレに漬け込み、小麦粉を塗してから熱した大量の荏胡麻油の中で二度揚げする料理。
そう。から揚げだ。
「こりゃ美味い! 噛むとサクッとした食感の後に柔らかい鶏肉からジュワッと肉汁が広がって——」
「爺ちゃん。いつからそんなに食レポが上手くなったんだよ......」
「しょくれぽというものが何かは分かりませんが、ミチザ殿の仰りたい事はよく分かります。この調味料理はとても美味しいですよ。やや重たく野趣溢れる味なので貴族の中には下品だと感じる者も居るやもしれませんが......」
なるほど? 調味料理......調理の過程で味付けした料理を広めはしたけど、確かにから揚げのようにガツンとした料理はうちの屋敷でも出て来たことがないな。
揚げ物自体はあったけれどタラの芽などの山菜や茸類なんかを米粉で揚げて塩をつけて食べるアッサリしたものばかりだったし。
武官以外ではそもそも肉をあまり食べない人達も居るらしいしな。
時代的にカツゾウはから揚げとかも知ってそうだけど、澄み酒以外に広まっていないのは酒にしか興味が無かったからかな。博徒だし。
まあ、食べたくない人や食べて合わない人は食べなきゃいいだけなので俺の知ったことでは無いけれど。
大量の油と温度管理が必要なことが懸念点ではあるが、庶民にも広まればいいな。
串に刺せばテイクアウト販売も出来るだろうし。
「これは何としてでもワシの屋敷で作らせるぞ! 例え主上が禁止の勅を出したとしてもじゃ! ワハハハハ!!!!」
「うちだけで作ってたら情報の出元がバレるからダメだってば。まあ最悪皇京で受け入れられなかった時はキイチ師匠に頼んでクラマで作らせてもらうし、その時は爺ちゃんにはクラマまで食べに来てもらう感じになるかな」
爺ちゃんはから揚げがお気に召した様子で三人分にしては結構多めに作ったにもかかわらず殆ど一人で平らげて、更にはおかわりを作らされてしまった。
追加で作った分は漬け込む時間が無かったので、下味を付けずに揚げて梅干しを潰して少量の酒と砂糖で味を整えた梅肉ソースで提供。
こちらも大層気に入ったようで一人で食べきっていた。
味への興味から1個摘まんだルアキラ殿もサッパリとしていて食べやすいと言っていたので貴族に広まるならこっちになるかもしれないな。
今回はまず皇京よりも養鶏が盛んな太宰府の方に作り方を流して、皇京でも太宰府で流行っていると噂の料理だと言う事にして貴族や朝廷の厨番に情報を流すようだ。
その後、食品を商う商人を経由して皇京の庶民にも広める予定となった。
「さて。では本日こちらに来て頂いた本題です。昨年の巳砦襲撃から丸1年が経とうとしていますが、私の部下たちの情報収集によってノブナガ軍の動向が少し掴めましたよ」
「「!!!!」」
去年、俺と父上、爺ちゃんの三人が巻き込まれたノブナガ軍による戦都イゼイの巳砦への襲撃事件。
主犯格二人のうち嶬峨素族のヤスケは父上によって討たれたが、もう一人の主犯格、鼠人族のヒデヨシには逃げられたのだ。
あれからノブナガ軍からの大きな襲撃などは無かったので気になっていたところだ。
「まず魔都の動きですが相変らず結界によって内部には潜り込めませんでした。出入りしている魔族や亜人の兵に話を聞いたところではヤスケが討たれたこととヒデヨシが帰還したこという情報は入っているようです」
「作戦失敗の責任を取らされて斬首なんてことにはならなかったのですね......」
俺としてはそれで厄介な相手であるヒデヨシが退場してくれたならそれに越したことは無かったのだが、ノブナガも異名を付けるくらいにはヒデヨシのことを貴重な戦力として見ているのだろう。
というかあんな無茶苦茶なサッカーボール状態で脱出してちゃんと魔都に帰還が出来たのが凄いな。
悪運が強いというか、改めて厄介な男だ。
「そしてサイカ殿の里についてですが、こちらは教えて頂いた通りに向かったようですが発見には至りませんでした。おそらく幻術か何かで道か里そのものが隠されているのでしょう」
「むう。それは残念じゃな。里からこちらに脱出させられればタネガシマとやらがこちらの手札の1つとして使えたじゃろうに」
「焔硝が無きゃ使えないから難しいよ。サイカの里では作ってないと言っていたし。おそらく里が造反しても戦力が限られるようにタネガシマ自体と焔硝や弾丸を別の場所で作らせていたんだと思う」
タネガシマ......鉄砲と火薬と弾丸は3つ揃わなければ意味が無い。火薬は火薬だけでも戦えなくもないだろうが、おそらくそちらを作っている所は武器になりそうなものは全て排除されているだろうな。
「すぐに挽回の作戦を起こしてこなかった辺り、ヤスケを失ったのはかなりの痛手だったと見るべきでしょうね。ノブナガ軍は今年いっぱい、もしくは来年以降も立て直しに時間を掛けるかもしれませんね」
「陰陽術や幻術、結界術を使える上に放出型の弱点でもある近接戦もあの肉体でやっておったからのう。戦闘能力だけで言えばルアキラ殿より多少弱いくらいじゃったろうな」
ルアキラ殿の戦っている姿は見たことが無いがヤスケより強いのか。
政治、武、研究、財、人材と、この人もまだまだ底が見えない御仁だ。
「嶬峨素族はその肉体だけでも脅威ですからね。珍しい種族なのであちらにも数は居ないはずですし、ヨリツ殿とツナ殿は素晴らしい戦果を上げましたね」
「ありがとうございます」
正直、人を殺してよくやったと褒められるのはまだ慣れないが、戦いとはこういうものなのだろうしな。
やらなければ自分か自分以外の誰かがやられる。
だから倒すしかないというのは理解は出来ているし今後もそんな場面では遠慮なく行動できると思う。
ただ、未だに前世の倫理観を引き摺っているせいで慣れないだけだ。
慣れたくないとも思ってしまっている。
しかし、いつぞやの修行でキイチ師匠に教えてもらったように自分はこうなのだと受け入れているのできっと今後も押しつぶされることはないだろう。
その後は情報収集に出ていたルアキラ殿の部下のうち三名が亡くなったことなどを聞いて報告は終わった。
ツチミカド邸からの帰りに土産として頼んでいた掛け布団を家族の人数分頂いて帰宅した。
敷布団は以前頼んだ際に既に頂いていたので、今回も皆が喜んだことは言うまでもない。




