四十九話 巨大国家トウ国
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「そういえば、トウ国への特使の派遣を廃止したのって爺ちゃんなんだよね? どうして?」
「なんじゃ? 藪から棒に」
ある日の事、俺はふと疑問に思っていたことを聞いてみた。
トウ国は海を越えた先にある優れた文明を持った巨大国家で、ヒノ国からは数年に一度<遣トウ使>と呼ばれる外交特使を派遣して貢物を贈る代わりに技術や文化を持ち帰らせていた。
「いや、今俺が読んでいるこの『仙海経』っていう魔獣の詳細が載ってる書物はトウ国の言葉で書かれているからさ。こういう優れた技術を持った国との大きなやり取りを廃止したのはなんでかなって思っただけ」
「うーむ。まあ太政大臣じゃった頃の話じゃしツナに話す位は構わんじゃろ。簡単に話すと乱が起きそうだったんじゃよ。それもトウの国家を揺るがすほどの大乱じゃ。巻き込まれる前に距離を取ったという事じゃよ」
聞いた瞬間に背筋が寒くなった。
つまり大国の国家が崩壊するほどのクーデターが起きると事前に分かっていたのか。
船での行き来だけでも数カ月単位の時間が掛かり、かつ確実に航海が成功するとも限らないような時代で他国の情報収集などよく出来たものだ......。
「結局、王朝を打倒したので変と呼ぶべきじゃな。トウ王朝は滅んで10の国に分かれたようじゃぞ? まあその後も血で血を洗う状況が続いておるようじゃがな......。流石に今はどうなっておるかなぞは分からんわい」
なんだと!? トウ国は既に滅んでいたのか......。
しかも国がバラバラになったなんて。
これは確かに特使など送れるような状況じゃなくなっているな。
爺ちゃんたちの判断は正しかったと思う。
「すごい。よくそんな詳しい情報を手に入れられたね」
「そこは貿易しておる商人との繋がりや、紛れ込ませておった耳目のおかげじゃの。噂話から物価の変動までトウ国の情報を仕入れておったわい」
紛れ込ませた耳目って諜報員のことか。
いつも武力のみで太政大臣まで伸し上がったなんて言ってるくせに、ちゃんとそれ以外の力も持ってるじゃないか。
まあこれくらいやるのは爺ちゃんにとって力でも何でもない当たり前の事なのかもしれないけど。
「向こうの大陸では当たり前なのかは知らぬが、前の王朝の残した文化などは破壊してしまうようじゃからトウ国時代の資料や道具なんぞはもう手には入らんと考えた方がよいのう」
「なるほど......。もったいないね」
「まったくじゃわい。ヒノ国でもカツゾウの乱で同じようなことがあったからのう。勿体ないことじゃ」
まったくその通り。
勿体ないことだ。
一族郎党が根絶やしにされてしまったこともありカツゾウが齎したであろう技術や文化などは、彼が黒駒皇を名乗る以前に既に社会全体に浸透してしまっていた三貨制度と一部の建築物から紐解かれた建築技法くらいしか残っていない。
討たれて既に100年以上が経過している今なら仮に彼の残した資料などが見つかったとしても特に気にされることは無かっただろうが、残されているであろう場所も現在は第六天魔王ノブナガの支配する魔都となってしまっているので探しようもない。
「まあその代りというのも変じゃが、ヒノ国独自の文化も色々と生まれてきておる。言わば新たなモノが生まれる度量が広い。じゃからツナの考案するモノも人々に受け入れられればこれから文化となっていくじゃろう」
「俺の場合は全部別の人たちが考えたことになってるから、万が一皇を自称しても広めた全てが破棄されることもないしね」
「もしそんなバカなことをやろうとしたら、まずワシがブン殴って腐った性根を叩き直してやるわい!」
俺の冗談に爺ちゃんが腕まくりをして拳骨のポーズで笑い飛ばした。
こんな風に打てば響くように気安い冗談を言える関係って良いな......。
前世では小学校時代は同年代の子たちを見下していて友達と呼べるような存在は居なかったし、中高一貫の学園に入ってからは見下される側になっただけでそこでも独りだった。
前世の両親とも小さい頃は仲が良かったが、学校に入ってからは俺の態度が反抗期と呼ぶには憚られる程に酷くなってそれ以来関わらなくなったものな。
あの頃に爺ちゃんのようにぶん殴ってでも根性を叩き直してくれるような人が居れば少しは違ったのかな......。
なんて、他人任せが過ぎるか。
それに今はこちらの世界に来れたことに多少なりとも感謝している。
文字通り命掛けな経験をすることもあるが、今のところ家族とも良好な関係を築いていると俺は思っているし。
今を楽しいと思えるのは爺ちゃんたちのおかげだ。
いつまでもこんな幸せが続いて欲しいと思う。
「ボーっとしおって。どうかしたのか?」
「え? あー。トウ国に行ってみたいなって思ったこともあったから、もう行けないと思うとなんか寂しくなっちゃって」
「まあのう。気持ちは分からんでもないが失われてしまったものは仕方あるまいよ」
考えていたことを素直に言うのが恥ずかしくてはぐらかしてしまった。




