四十六話 皇京八流剣術 クラマ流
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前日に星祭と呼ばれる七夕のような行事を終えた文月のある日のこと。
クラマの山中では剣戟が鳴り響いていた。
「ほっほっほ」
「相変わらずめちゃくちゃ強い! これで式神だなんてズルい!」
俺はクラマ流の剣術道場で館長をしているクラマ・クラマ殿という名の式神と真剣を使ってのクラマ流剣術のみを用いた実戦稽古をしていた。
「雷神眼の感覚だけに頼らず相手の動きをもっとよく見なされ! クラマ流は皇京八流全ての基礎となる流派ですぞ! その真髄は完全な基礎の塊。基本となる6つの型を自在に繋げることでどんな場面でも対応できる戦い方をするのです!」
「はいっ! 師匠!」
クラマ・クラマ殿と切り結びながらも、師匠からの指摘を受けては動きを修正していく。
壱の型:ヨシクラは縦の型。
弐の型:ホウゲンは横の型。
参の型:ユキは斜めの型。
肆の型:タマスギは静の型。
伍の型:オオスギは動の型。
陸の型:キフネは円の型。
クラマ流の基本の6つ型はそれぞれの型の始まりと終わりが共通しており、どの型にも流れる様に切り替えが可能なのである。
そして始まりと終わりが同じ動作が同じで6つの型しか無いからこそ対峙した場合は次に来る動きが6つのどれなのかと予想し続けてしまい混乱して深みに嵌る。
単純な構成だからこそ強い。
まさに師匠の言った基礎の塊が真髄というわけだ。
俺の攻撃を全て防いだクラマ・クラマ殿が攻勢に出てきた。
壱・弐・壱・参・陸・弐といった具合に基本の型を組み合わせ縦横無尽の剣撃を繰り広げる。
俺も同じように弐・壱・弐・陸・参・壱と相反する型で防いでいく。
型通りに完璧に動けばいいだけという単純だが焦りや戦闘が長引くほどに困難となる剣術だ。
心を落ち着けることの大切さを学び、型通りに動く精確さが磨かれていく。
同じ型同士のぶつかり合いが起きたときは、より完璧な型を取れた方が相手を崩す好機を得られる。
なるほど。
どうりで式神であるクラマ・クラマ殿が強いわけだ。
ロボットのように精確に同じ動きを再現し続けている。
これを越える為には虚を突くような駆け引きや気迫などが必要とされているのだろう。
雷身で身体強化をし緩急をつけることで防御の合間にこちらからも壱の型や弐の型で攻撃を仕掛ける。
「ほっほ」
「ちっ! そう簡単にはいかないか!」
相手の拍子を崩したと思ったところから返しの技が飛んでくる。
あっと言う間の攻守逆転。
それでも何度となく繰り返し続けることで、段々とこちらから打ち込む感覚が掴めてきた。
「ここだ!」
「ほ?」
参の型から陸の型に移る前の一瞬。
ほんの僅かにだが足が止まったその隙にこちらから伍の型で攻勢に転じる。
伍・壱・弐・壱・参・参・壱・壱————
「かはっ!」
「ほっほっほ」
完全にこちらの攻勢だったはずだが、いつの間にか腹部に刀の峰で横薙ぎの一撃を受けた。
もしや、カウンターを決める為にわざと隙を作っていた!?
だとすればクラマ流剣術だけを用いる修行では勝ち目などないのでは?
「ツナ殿! 修行の本質は勝つことに非ず!」
諦観に流されそうになると師匠から激が飛んできた。
そうだ。
いつの間にか勝つことに躍起になっていた。
しかし、修行とは本来は己を鍛えるためのものだ。
実戦形式と言っても勝ちに拘る必要はなく、実際の戦闘でも相手を倒すだけが生き延びる術ではない。
そう考えを改めると不思議と肩の力が抜けて呼吸も軽くなった。
余計な気負いが無くなったことで相手の動きも良く見えるようになった気がする。
クラマ・クラマ殿が連撃を仕掛けて来るが、ここでこうするのが一番理に適っているという最善の選択肢が読める。
防いで、流して、躱して、防いで、防いで、流す。
こちらの受け流しによって相手に隙が出来たようにも見えたが、これはさっきと同じで誘いだろうな。
わざと隙を見逃すと、ずっとにこやかだったクラマ・クラマ殿の表情が少し目を細めるように変化した。
「ほっほ」
「やはりわざとでしたか。突っ込んだら反撃の剣が来るような気配を感じました」
この後は日暮れの鐘が鳴るまで一撃も貰うことなく夕方まで刀を交え続ける事が出来た。
プルプルと震える腕で、いたる箇所に傷や刃こぼれが出来て酷くボロボロになった刀をなんとか納刀する。
「お見事。最後の方はさすがに体力が尽きているように見えましたが、よくぞ諦めず刀を振るい続けられましたな」
「はぁ、はぁ......。ありがとうございます!」
師匠には褒めて頂いたが、正直なところ最後の方は両腕が上がらないのを無理やり電気を流して動かしていただけだ。
腕だけじゃなく身体中がボロボロなので、こうしている間にも既に電気治療を体内と体外から掛け続けている。
「ふふ。今日は走って帰るのは難しそうですな。某が抱えて帰るのでどうぞ楽になさってくだされ」
「へへっ。助かります……」
俺の状態を見て自力で帰るのは無理と判断したのだろう。
師匠の小脇に抱えられたまま寺まで帰った。
翌日、俺は地獄のような筋肉痛により一歩も動けなかった為、治療のために丸一日休みを貰うのだった。




