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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~鴎鳴編~

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四十一話 エタケを救え

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「キント兄! エタケは!?」

「すまん! この池の方に降りていくとこまでは見えたんだが、木々が邪魔で見失っちまった……」


 キント兄が途中で身体強化が切れて追い付けなくなっていたであろうことは予想出来ていた。

 それでもこの周辺で降りた所まで確認できているなら上出来だと思う。


「ありがとう! それだけ分かれば十分だよ! 今から探るから少し休んでいて」

「ツナはそんなことが出来るの!?」


 サダ姉が驚いて詳しく聞こうとしてきたが、魔法を使うには集中しなければいけないので今は静かにしてもらった。


「すぅー。はぁー。≪見つけ給え 報せ給え 我が求める者は何処か≫ -雷捜(ライソウ)-」


 深呼吸で精神統一をし、鉄棍を軸に雷捜の電波を周囲に放った。

 探すのはエタケの生体電流のみなので他の反応は悉く無視する。


「居た! すぐ近くだ! ここから北東に約1町半(165m)の位置! 南西へ向かって走ってる!」

「ほんとに分かったの!?」

「クソ! 藪の中か! 南西って池の方に向かってるじゃねぇかヤバくないか!?」


 キント兄の指摘した通り、このまま行けば池に出てしまう可能性がある。

 俺はすぐさま左手で懐から声伝器(せいでんき)を取り出して話掛けた。


「エタケ! そのまま進むと池に出てしまうから左手の方向に走るんだ!」

「ちょっとツナ? いくらここから話しても聞こえるわけないじゃない」

「オレ様が叫んだほうがいいか?」


 この魔術具を知らない二人からは痛い子を見るような目で大丈夫かと心配されたが、エタケには声が届いていたようで急遽走る方向が真っ直ぐ南になった。


「キント兄! このまま真っ直ぐ走ってエタケを保護して! サダ姉! 恐らくエタケは姑獲鳥に追われてる。当てなくていいから魔法で牽制して!」

「任せろ! ‐雷纏(ライテン)‐」

「ツナのこと信じるわ!」


 二人に指示を出してから再び声伝器でエタケに呼びかける。

 恐らくこれで魔石の魔力は尽きてしまうだろうがもう大丈夫だろう。


「エタケ! キント兄とサダ姉がそっちに向かったからもう大丈夫! 俺もすぐ行くからそのまま頑張って走っておいで!」


 俺は通信を終えると激しい頭痛に耐え切れず、その場で倒れた。


■ ■ ■


「......に......さま! ......にいさま!」


 誰かが俺を呼んでいる声が聞こえる。

 あと凄いグラグラする。


「ツナ! 起きなさい! (わらわ)を残して死ぬなんて許さないんだから!!」

「おい! サダ! 揺らし過ぎだって! それじゃほんとに死んじまう!」


 ああ、そろそろ起きないとこのまま死んでしまいそうな気がしてきた。


「ん......エタケ? ......無事だったんだ。よかった......」

「にいさま!!!!」

「ツナ!!!!」


 俺が気が付いた為、エタケとサダ姉にギュッと抱きしめられる。

 心配してくれたのはすごく嬉しいし申し訳ないのだけど、二人ともちょっと力が強い…… 痛い。というか締まってる。


「ちょっ......二人とも、首、首が締まって......息」


 両手で二人の背を軽く叩いて息が出来ないことをなんとか伝えると離れてくれた。


「ご、ごめん!」

「ごめんなさい!」

「ぷはっ! いやいや、こっちこそ心配かけてゴメンね。探知魔法の反動ですごい頭痛がするんだよ。今回は加減間違えて探知したせいで痛みで気絶しちゃってた」

「ツナが言った方向にほんとにエタケが居るんだもんな! びっくりしたぜ!」


 雷捜で探知した通りの方向にエタケが居たようでなによりだ。

 三人ともここに居るということは既に姑獲鳥(ウブメ)を倒したのだろう。流石だな。


「キント兄、サダ姉ありがとう。二人のおかげでエタケは助けられたみたいだね。エタケもよく姑獲鳥から逃げ出せたね。凄いよ」

「おまもりからにいさまのおこえがきこえていたのです! エタケをはげましてくれて、うぶめからにげるほうほうをおしえてくれました!」


 声伝器も上手く動作したみたいで良かった。

 それになによりエタケが無事で本当に良かった。


「ごめんな。あの時に俺がエタケの傍を離れたばかりに......」

「それを言ったら妾たちだって休憩だからと気を抜き過ぎていたわ」

「ああ、エタケに怖い思いをさせて悪かった」

「ううん。エタケがワガママをいってばかりだったから......ごめんなさい」


 四人で謝り合っていると不意に可笑しくなってきて、いつの間にか誰とも無しに笑い出していた。


「はぁ~。これは絶対にバレて怒られるよなぁ......」

「そうですね。かくせそうにないです......」


 エタケの姫服はほとんど脱ぎ捨てたらしく、襦袢と呼ばれる肌着姿な上に藪を走り回ったせいで泥だらけだった。


「姑獲鳥を解体して魔石を取るか?」

「エタケが言ってたけど血に毒があるんでしょ? 無理じゃない?」


 俺は二人に姑獲鳥の毒のことを伝えるのをすっかり忘れていたが、エタケはしっかりと血に毒があることを二人にも伝えていたようだ。ほんとに賢いなぁ。


「水属性の使い手でも居れば話は別だけど、下手に解体して水場を汚染するのも良くないからねぇ。死骸を持っていくのも大変だし諦めるしかないかな」

「むなもとのいしはあかしにならないですか? エタケがほうりなげたあとにまたひろっていたみたいなのです」

「うーん。あれって姑獲鳥の卵なんだよねぇ......」


 姑獲鳥の胸元にある石は卵だ。

 姑獲鳥はそれを他種族に抱かせようとしてくる。

 その理由を俺の読んだ書物では卵は他種族に抱かれた際に命素を吸い取っている可能性があると考察していた。

 抱かせることで孵化が出来るようになるのだとか。


 エタケに石を壊さず捨てるように言ったのは、卵が壊されると姑獲鳥が激昂するとその書物にあったからだ。


 俺は姑獲鳥の生態や卵について三人に軽く説明した。


「というわけで、直接触れるのは危ないから止めた方が良いと思う。持って帰って育てるわけにも行かないだろうし」

「エタケはとりをしばらくみたくないのです......」

「割っちまった方が良くねえか?」

「卵を割るのはちょっと罪悪感があるけど、割った後に殻を持って帰りましょう」


 前世の倫理感が残っているのか、何の罪もない卵をただ壊すだけというのは割と抵抗があった。

 例えそれが大好きな妹を怖い目に合わせた卵であっても。


 魔獣には食べられる種も居るため、せめてもの供養に食べてしまおう。

 姑獲鳥は血に毒があるため身を食べるには完全な血抜きが必要だが、卵は無毒だと書いてあったしな。そして美味だとも書いてあった。

 決してお腹が空いたからではない。断じて否である。



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