三十九話 鴎の鳴き声
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「わぁ~! かわのおみずがきれいですね! にいさま!」
「そうだねぇ。皇京の水路は生活排水で臭ったりするからね。上下水道をしっかり分けられれば良いんだけどなぁ」
「なにを難しい話してんのよ。ほらエタケ。髪を結って」
俺たちはカモ川に到着し川辺で一息ついた。
この辺りは皇京の結界外ではあるが、まだ周囲に町も広がっていて比較的安全なところだ。
たしかに皇京と比較すると水は綺麗ではあるが、2日前の雨の影響か少しだけ水が濁っていて水位も高い気がする。
あまり流れの早い所へは行かないようにと全員に言っておかないとな。
カモ川は普段は綺麗で命を育む大切な川なのだが、大雨が降ると暴れ川となるので治水問題が無くならないのだと聞いている。
皇京の西を流れるカツラ川と皇京の南で合流しており、大雨が降るとその辺りからさらに南にあるオグラ池と呼ばれる巨大な池辺りまでは一面水に浸かってしまうそうだ。
増水していると普段は出てこない厄介な魔獣たちも現れることがあるというし、一層の警戒は必要だろう。
「はーい。かんせいなのです!」
「ありがとねエタケ! どう? ツナ? 似合ってる?」
「とても良くお似合いですよ。エタケも綺麗に結えて凄いね」
サダ姉が大鎧の兜を外してエタケに髪を結い上げてもらっていた。
警戒が必要とは言ったが、キント兄が周囲の哨戒から戻るまでは少し息抜きしてもいいだろう。
「はい! がんばりました! エタケもねえさまのようなきれいなかみかざりがほしいなぁ~」
「じゃあ次のエタケへの年明けの贈り物は髪飾りにしようか」
「わ~い! エタケのもにいさまのてづくりがいいです! たのしみにしていますね!」
「ふふ。姉である妾の物を真似したがるなんてエタケったら可愛いわね」
エタケの髪飾りかぁ。真似したがっているのならサダ姉の翡翠付の簪とお揃いが良いか?
んー。でもエタケの薄桃色の髪なら翡翠よりも黄色か黒? もしくは紅色の花を模した飾りかな?
まあ時間はまだあるので下半期までに何にするか決めて取り掛かろう。
「おう。一応この辺をぐるっと見て回ったけど魔獣の気配は無かったぜ」
「お疲れ様! キント兄もこっちで少し休んでいいよ。その間は俺が見張りに立つから」
「にいさまがみはるならエタケもみはりばんをやります!」
哨戒から戻って来たキント兄に労いの言葉を掛けて交代を申し出るとエタケも一緒に見張りに立つと立候補してきた。本当に良い子だなぁ。
俺は馬の鞍に付けていた鉄の棒を外すと軽く素振りをしてから肩に背負う。
「にいさまはかわったぶきをおつかいになるのですね? こんですか?」
「ん? これかい? 最近知り合った鍛冶師に作ってもらった特注品の鉄棍なんだ。まだ未完成だけど完成に備えて今から重さに慣れておこうと思ってね」
俺の鉄棍は右手の調子がかなり良くなったサイカに鍛えてもらった物だ。
そこにルアキラ殿に頼んで銅鋳物師に製造してもらっていた銅線を巻きつけてある。
まだまだ太いうえに銅純度も低い為、耐久力も電気伝導率もあまり良くないが、それでもいつぞやのなんちゃってコイルガンで使ったエセ鉄線よりは遥かに電気を通しやすい。
子供用サイズで作っているというのに既に重さがネックではあるが、そこは今後成長する自分の肉体にカバーしてもらうしかない。いっぱい肉を食べて筋肉を育てよう。目指せパーフェクトボディ!
エタケには見張りで立ち続けるのはしんどいだろうと思い、その辺りに生えている花で冠を作る方法を教えてあげた。
他人の髪を結えるエタケならば余裕だと思うし、良い暇つぶしになるだろう。
「おーい! ツナぁ! こっちでサダと組み手をするからちょっくら行司をやってくれよ!」
「まったく......キント兄たちめ。浮かれ過ぎだぞ。仕方ないエタケ、二人の所に戻ろうか」
「にいさま? エタケはもうすこしここにいたいです......にいさまがおしえてくれたかんむりがつくりたいのです」
気が抜けているキント兄たちの所へ戻ろうとするとエタケはここに残るという。
ほんの30m程の距離なので何かあってもすぐに駆けつけることは出来ると思うが、エタケを一人残すのは心配だな。
「エタケはにいさまたちよりもつよいですよ? うでくらべのいっとうしょうです! しんぱいごむようです!」
「ふふ。そうだったね。んー、じゃあ少しキント兄たちの所へ行くけれど、何かあったらすぐに呼ぶんだよ?」
「はい!」
心配は尽きないが先ほどから早く来いと催促する兄姉が煩いのでそろそろ向こうにも行ってやらないといけないしな。
「あ、そうだ。あまり意味は無いけれどコレを御守りに渡しておくね」
「これは......かいがら? ですか?」
「うん。まだ実験途中の品だし、あんまり意味は無いけれどね。じゃ、ちょっと離れるけれど良い子で大人しくしてるんだよ?」
「はい! いいこにしてるのです。いってらっしゃいませ。にいさま!」
エタケの襟元に貝殻を模した御守りを付け、頭を軽く撫でてやってから兄姉の下へ向かう。
「まったく。落ち着き加減で言うとあの二人とエタケではどっちが年上だか分からんね。俺は俺でエタケに対して過保護が過ぎるのかもしれないけれど」
そうぼやきながら二人の所へ辿り着くと、背後から鴎のような大きな鳴き声とエタケの悲鳴が聞こえて来た。




