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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~新時代の幕開け編~

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三十五話 女鍛冶師サイカ

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 修行の日々を繰り返し、いつしか如月に入り立春を迎えていた頃。

 俺は爺ちゃんと共に皇京の外れにある小鍛冶の工房に来ていた。


 工房主の名前はサイカ・クニトモという。30歳くらいの女性で人族と鬼族の混血だそうだ。

 頭部には二本の小さな角が生えており、服装は普段鍛冶作業で暑いためか上半身は胸に晒を巻いているだけだ。腕の筋肉は隆々としており腹筋も割れて引き締まっている。


「お主が魔族領から逃げ延びてきた鍛冶職人サイカ殿か?」

「ぁあ? アンタらはどこの誰でウチに何の用があってきたんや?」


 結構な近距離に居るというのにサイカ殿は大声で聞き返してきた。

 耳が遠いのかもしれない。

 ぶっきらぼうな性格のようでいきなり尋ねてきた俺たちを怪訝そうな目で見ている。

 その顔には雀斑のような痕があり、右手の甲には矢傷と見られる傷跡があった。


「ワシは権参議(ごんのさんぎ)ミチザ・トールと申す。こっちは孫のツナじゃ。お主が変わったものを作っていると聞いての? それを見せてもらいたいんじゃ」

「権参議様!? 何でまたそんな殿上人(でんじょうびと)がウチみたいな一鍛冶職人に!? そりゃ見るんは構わんけど、こっちの人が見ても何も分からんと思うで」


 サイカ殿はまさかそんな地位の人物がやってきたことに驚き思わず平伏する。

 丸めた背中にも幾つかの矢傷のような痕があった。

 そして作っているものが見たいと聞いて、恐る恐る壁に立て掛けてあった鉄の棒を両手で差し出した。


「鉄の棒っ切れじゃの? なんじゃ? 縦に穴が開いとる。笛のような楽器かの?」

「爺ちゃん。これ......鉄砲だ……」

「坊ちゃんにはこれが分かるん!?」


 驚きのあまりつい口走ってしまった。

 そんなに大きな声は出さなかったのだがサイカ殿は俺が知っていそうな口調だったことに反応したようだ。


 表情や口の動きから読まれたのか? 目聡いな。

 耳が遠いと思って油断した。


「ツナ、構わぬから話せ。その驚き様じゃと厄介事の臭いがするのう」

「うん。これは鉄砲といってこの筒から鉛玉を飛ばす武器だよ。ここでは砲身しか作ってないみたいだけど、サイカ殿は恐らく本物を撃ってたことがあるんだと思う」

「なんてこっちゃ……ウチがタネガシマの撃ち手ってことまでお見通しかいな。タネガシマは魔族軍が徹底して緘口令(かんこうれい)を敷いてて、作ってる里もかなり山深い所やのに、こんな童に知られとるなんて......」


 やはり鉄砲、魔族軍ではタネガシマと呼んでいるのか。

 俺が射手だと推測したのは顔の雀斑のような痕と年の割に耳が悪かったことだ。

 雀斑のような痕は火縄銃で火花が飛んだ時に出来る火傷と思われる。

 耳が遠いのは射撃時に近距離で火薬の爆発音を聞いていたからだろう。

 前世で使っていた歴史教科書の火縄銃の欄にそんな小話が書いてあったので、鉄砲と彼女の容姿から射手であると結びついた。


 俺は爺ちゃんにこれが完成形でないことと火縄銃の射程などを説明する。

 そして鉄砲があることで尤も厄介だと思ったことを話す。


「魔族軍は火薬を生産できるみたいだ。火薬っていうのは火を加えると爆発する黒い粉なんだけど、その威力は量によって変わるんだ。たくさんあれば大魔法にも匹敵すると思う」

「なんと! 大魔法級じゃと? それを魔族は生産しておると申すのか!」

「火薬......エンショウのことまで知ってるんか! ほんまに何者なんこの子!?」


 サイカ殿にはただ変わったものを作っているという噂だけで会いに来たが、魔族の内情にも詳しいのならばしっかりと話を聞かせてもらう必要がありそうだ。

 改めて俺と爺ちゃんはサイカ殿に向き直る。


「魔族領のこと、知っている限り詳しく話してもらえぬか? 褒美はワシに出来る事であれば望むまま与えよう。あとツナのことは一切他言無用じゃ」

「サイカ殿が知っていること、出来ればどうしてこちらに逃げて来たのかも含めて教えて頂けないでしょうか! お願いします!」


 突然平伏し頭を下げた俺を爺ちゃんが慌てて諫めようとするが、情報が得られるのであれば頭なんて幾らでも下げる。

 この場には俺たち三人しか居ないのだし、先ほど俺のことは一切他言無用と言ったのだからサイカ殿が言いふらすなんてことも無いだろう。そんな人にも見えないし。


「坊ちゃん、頭あげてくれへんか!? 隣の権参議様が物凄いウチのこと睨んでてめっちゃ怖いんよ! 知ってることやったら幾らでも話すから! な!? な!?」

「ちょっ! 爺ちゃん!? お願いしてる立場なんだから睨んじゃダメだって!」


 話す気になってくれたのは有り難いが、俺の誠意が伝わったとかではなく爺ちゃんに威圧されてというのが申し訳なかった。


 ちょうど良いし俺のオリジナルの武器を製造する際はこの人に依頼しよう。そして報酬を多めに払おう。

 俺は心の中でサイカ殿に謝罪して償う方法を決めた。


「あー。どこから話そうかな。まずうちの一族やねんけどクニトモって言うて昔はオウミで刀鍛冶してたみたいなんやけど、ノブナガが現れてから山奥の魔族領に連れ去られてタネガシマ鍛冶を強制されてそれ以降ずっと試作品を作らされてきたんよ。これが人時代749年のことや」

「やっぱりノブナガが関わってたか......」


 恐らく関わっているのだろうなと、鉄砲があると知った時に予想していたとおりだ。

 749年……ノブナガが沢山の種族が居る魔族たちを纏め上げていったと言われている頃か。

 そんな頃から既に人族を攫って山奥に囲ってたのか。


「で、里にはウチの一族の外にもネゴロって一族も同じく連れ去られて来てて、長年一緒に研究していくうちにノブナガの認める物も出来てタネガシマを増産し始めた。それが人時代785年。ウチが生まれたんもこの年や」

「てことは今、サイカ殿は3——ナンデモアリマセン......」


 年齢を口にしようとした瞬間、ニッコリした顔で威圧を放たれて言葉が遮られた。

 孫が威圧を向けられたというのに爺ちゃんは「ほう」とサイカ殿に感心しただけだった。

 いや、今のは俺が悪いけどさ。


 そんなことより、タネガシマは30年も前に製造されていたのか。

 元となるものがあったわけじゃないのに、見たことも無い鉄砲というものを40年程度で1から作った職人たち。凄いな……。

 火薬......エンショウ? だったかは同じ頃から研究されたとして、制作難易度的に鉄砲よりも前に用意出来てるはずだから、もうかなりの数が実戦に向けて用意されているとみるべきか。


「話戻すけど、そんな場所やったからウチは生まれた時から鍛冶とタネガシマの撃ち方を学んできた。これでもどっちの腕前も一流な自信があるし、里でも皆から天才や言われてたんよ」

「その天才がまたどうして脱走なんて?」

「それは......ウチがノブナガを撃ち殺し損ねたからや」

「「!?」」


 ノブナガを撃ち殺そうとして失敗しただって!? 

 あまりの衝撃発言に俺と爺ちゃんは揃って言葉が出なかった。

 まさかノブナガも虎の子として作らせてきたであろう鉄砲で自身が命を狙われるとは思わなかったんではないだろうか?

 いや、前世でもそんな話があったか。

 なら警戒はしていただろう。


「理由は単純。仇討ちや。アイツにウチの旦那を殺されてしもたからな」

「……旦那さんも鍛冶師だったの?」

「せやね......旦那は、ゴーイチは一流の鍛冶師であり、タネガシマの名手やった......」


 それからサイカ殿は自身がどうして脱走に至ったのかの経緯を詳しく語ってくれた。



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