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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~新時代の幕開け編~

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三十四話 贖罪からの変化

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「そんな構えでは護衛対象が怪我してしまいますよ!」

「っく!! -(ライジュ)珠-」


 修行の日々に戻って今日で2週間が経過した。

 今はエタケを連れて遠出する際の護衛練習として師匠の攻撃を防いで護衛対象を目的地まで逃がす修行だ。


 エタケ役の狒々はギリシャ風衣装のキトーンを身に纏って紅まで差している。

 時折こちらを振り返る仕草も「ほら。私を守ってみなさいよ? そんなことで守れるの?」と小馬鹿にされているようでちょっとムカつく。


 しかしこんなことで集中を欠いてはいけない。

 俺は本番ではエタケをしっかりと守らないといけないのだから。


「キッ♪」

「…………」


 キッ♪じゃねーよ!! ウインクまでして来やがって! 最初からずっと馬鹿にしてやがるな! 

 テメェから先に叩っ斬ってやろうか!!? 


 心の中で憤怒を堪えつつ、師匠の鋭い剣筋を防ぐ、流す、躱す。

 その間も護衛対象からは離れ過ぎず、他の脅威が来ないか注意を払い......。


「キッ♪」

「師匠! アイツ斬っても良いですか!?」

「こらこら。これくらいで気を乱してどうするのですかな。それに守る相手が幼子であれば意図せず突飛な行動を取ることもあるでしょう。そこで臨機応変に動けなければ護衛対象が最悪死にますぞ」


 言ってることは尤もである。ただしウチの天使はそんな事はしないはず——

 そこまで考えて、元旦のテミス家との腕試しを思い出す。

 突飛な行動で最も多くの紙玉を割った幼子が居たな......。


 良い子だから真剣な場面では指示に従ってくれるとは思うのだが、如何せん賢いだけに自分で何か勝ち筋のようなものが見えてしまうとそちらを優先しそうな気もする。

 大人しくしてくれると信じることに自信が持てなくなってきた......。


「隙あり。気が抜けてましたぞ」

「ギッ!」

「あっ!!」


 俺が余計なことを考えていたせいで一瞬にして俺の脇を抜いて護衛対象である女装狒々の首筋に刀を当てられた。


 魔獣想定であればここで仕舞いなのだが、今回は相手が人だった場合も想定しての修行の為、ここから人質を救い出せるかのロールプレイを試される。


「要求はなんだ? どうして人質を殺さない?」

「要求は其方の命。人質を助けたくばこの場で自害せよ」


 ふむ。そういう設定なら相手の強さは俺と同格かもしくは俺より弱いということだろうか。

 一騎打ちだと自分が負ける、もしくは怪我を負う危険性を考慮して人質を取ったと見るべきかな。

 相手に自死を迫るのが趣味のただのイカレ野郎という可能性もあるが限りなく低いと思う。


 こういったシチュエーションの場合、人質は大事な盾だ。

 無くした瞬間に俺にやられると分かっているからこそ手放せない。

 人質を助けるという前提で行くと、こちらが丸腰になるのは悪手だ。

 襲撃者が丸腰の俺になら勝てると踏めば人質の価値が無くなる。


「狒々よ! 合図をしたらその者の腕に噛み付け!」

「キッ!?」

「なぬ!?」


 これで襲撃者にとって人質はただの自分の身を守る盾ではなく、自分に牙を剝くかもしれない盾になった。

 ここでじゃあ人質を即殺すなんて判断は俺より弱い相手には無理だと思う。

 襲撃者の注意が人質にも向いている今が好機だろう。


「今だっ!!」

「キッ!」

「くっ!」


 合図を出し一気に襲撃者との距離を詰める。

 敢えて上段に振り上げて刀を見せることで相手に防御しなければという意識を植え付ける。

 そのままだと人質が邪魔で防ぐには踏ん張りが足りない。

 人質諸共両断されるか、どかせて防ぐか、俺にぶつけるかの三択。


 案の定、人質を蹴り飛ばして俺にぶつける方法をとった。

 来ると想定していたので上段の構えを解き、左腕で人質を受け止め、そのままの勢いで回し蹴りを放つ。


「むぅ!」


 上段の刀に注意が向いておりガラ空きだった胴に回し蹴りが綺麗に決まる......ハズだったが、師匠はサッと後ろに躱した。

 ロールプレイはここで一旦お仕舞いということだろう。


「お見事。まさか人質を囮に使うとは。たしかにあの想定の強さの者には効き目がありそうでしたな」

「ええ。でも相手が同格か俺より弱い場合にしか使えそうにないでしょうけどね」

「ツナ殿より強い相手なら人質など滅多に取りませぬ。残虐趣味の者くらいでしょうな」


 そんな相手と相対するのは御免被りたいが、戦力分散に餓鬼の式神を使役する鬼畜だったり、被害者のフリをして懐に潜入してくるような鼠野郎を相手に戦った経験があるんだった。


 一人はもう既にこの世にはいないとは言え、強い癖に外道な搦め手を使う連中と戦うのは今後は勘弁願いたい。


 姑息で卑怯は俺みたいな力の弱い者が身に着ける最終手段であってほしい。


「それにしてもツナ殿の妹君も随分と変わったお願いをなさいますな? 春の山で花が見たいなど。それに特に見たい花が決まっている訳でもないご様子」

「多分ですが、自分以外の兄姉兄がみんな皇京の外に出れているのが羨ましいのでしょうね。この頃は兄姉も兵部の鍛錬に混ぜてもらって皇京郊外での野戦演習などにも参加できるようになったと自慢してくるので」


 今年からキント兄は正式に兵部見習いとして鍛錬に参加し、サダ姉も去年と同じように特別に参加し続けている。


 サキ母様としてはサダ姉には近衛に来て、帝の周りに居る姫たちの様子から御淑やかさを学んで欲しいようだが、故プラム婆様の姫教育強制の件があった手前、強くは言えないらしい。


「なるほど。そして一番多く外に出ているであろうツナ殿は兄としてそれを叶えてあげたいのですな?」

「そうですね。日頃修行や勉学など自分のことばかりしていて構ってやれないので罪滅ぼし......と言うと語弊がありますが、お詫びみたいな気持ちもあります。勿論一番は可愛い妹の為に何かしてあげたい! という気持ちですが!」


 俺は転生した記憶を持つ人物だとバレてはいけない。

 しかし、何かあった際には最低限自衛出来る力を持てるようにとクラマ寺に預けられている。

 3歳から2年間も週の5日をクラマで過ごしているので再来年には屋敷に居た期間より長くなるだろう。


 ただ俺は例え関わる時間が短かろうと家族は家族だと思っている。

 昨年末サキ母様が俺のことをこれまでもこれからも自分達の子だと言ってくれたことがずっと心の中に残っていることが大きい。


 家族を守りたいという気持ちは、最初は前世の両親への贖罪の意味が強かった。

 だけど爺ちゃんやヨリツ父上、サキ母様、キント兄、サダ姉、エタケ......家族たちと過ごしていくうちに心からこの人たちを、俺の家族を守りたいと思えるようになったのだ。


 ただ、未だに爺ちゃん以外の家族に転生している事を知らせていないのには後ろめたさがあるからだ。

 いつか話すべき時が来るのだろう。そんな予感はしているが。


 その時が来るまで家族を守る力を身につける為に己を磨き続けるだけだ。



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