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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~新時代の幕開け編~

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三十二話 腕比べを終えて

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 腕比べが終わり、掛け湯で汗を流して着替え終える。


「思っていたよりも見応えがあったぞ! ウチのガキどもが一番だと思っていたがヨリツのチビ共、いやトール家の子らも強かった! 見事だ! なんなら全員を嫁婿に向かえて東正鎮守府(とうせいちんじゅふ)で面倒見ても良いぞ!」

「ミチナ様、御戯れも程々に。うちの子らだけでなく、そちらのお子達も困惑しております」


 ほんとに言う事もやる事も無茶苦茶だなこの人。

 今朝サダ姉が言っていたヤスマ殿の好みが静かな姫子というのは確かだと思う。

 自分の母や妹たちのような女性と暮らすとどれだけ大変かが身に染みているのだろう。


「そうか? アタシは冗談のつもりはなかったがな! まあいい。今後も仲良くしようじゃないか! そしてゆくゆくは婚儀だ! ハハハ!」

「バカ言っとらんでワシらは内裏に向かうぞ。お主の突然の思い付きのせいで時間ギリギリじゃわい」


 爺ちゃんはやれやれといった顔でミチナ様を急かして元日節会(がんじつのせちえ)に向かった。

 元日節会というのは紫辰殿にて(こよみ)(七曜暦)を献上し、宮内省は氷様ひのためしといって氷の厚さを奏上して豊凶を占い、大宰府からは腹赤(はらか)の魚が届けられる儀式である。

 ちなみに今の太宰府の長官にあたる太宰帥(だざいのそち)はムラマル殿の父上でアレス家当主のカリマタ・アレス殿だ。

 カリマタ殿もかなりの豪傑であると爺ちゃんからは聞いている。


 残された俺たちは昼餉を食べ損ねたので今からささやかな宴会だ。

 普段は朝夕しか食べる習慣は無いが正月期間中だけは盛大に飲み食いをするのだそうだ。

 せっかくなので夕餉の分の食事も合わせて出してもらい、従者たちにも楽しんでもらおうと父上に伝えると正月ということもあり快諾して頂いた。


●第一伝・三十一話


 昼夕兼用の食事も終え、それぞれ自由に会話を楽しんでいる。


「サダ殿の強さは凄まじいものだった。うちの妹たちは三人が束になって私と同等の力になるのだからそれより年若いというのにまったく見事なものだ」

「そう? ありがとう。ヤスマ殿の強さも半端じゃなかったわ!」

「そうか。それは嬉しいな! 美しい女子に褒められるのは実に良いものだ。サダ殿は強いだけでなく美しい。その髪飾りも良く似合っているぞ」

「そ、そう!? そんなに似合っているかしら! 嬉しいわ……」


 おや、ヤスマ殿はお酒に弱いのかな? 酔っぱらっているのかよく喋るようになった気がする。そしてサダ姉をガンガン口説いてるな。

 サダ姉の方は飲んでいないのに顔を紅くしてるってことは、この二人かなり脈アリなんじゃないか? 


 ほほう。と若い二人の様子を観察していると三羽の雛鳥に絡まれた。


「気になるの?」

「大人の恋だぞ」

「子供にはまだ早いぞ」

「そうですね。でも将来の義兄になる可能性があるのならどんな人かは知っておきたいですし」


 そうなのだ。もし婿になるのであれば、俺の守る対象が増えるわけだからな。

 しっかりと為人は確認しておきたい。

 まあサダ姉が嫁いでいく方が可能性は高いが。


「残念なことに兄上のあれは単純に好敵手と会った時の話し方。同類大好き」

「ちなみに兄上は惚れた相手には緊張で話せなくなる。腰抜け」

「そしてその相手は既に居る。ムラサキ先生は高嶺の花。実らぬ恋」

「なんですと!?」


 この三姉妹、実の兄への当たりが強いな......。

 ヤスマ殿はあんなに気があるように話してるのに、あれってそういう事なの? 

 しかも想い人が既に居るとか。サダ姉は満更でもなさそうなのに可哀想じゃね? 

 ちょっと文句言って来よう。


 俺がヤスマ殿に近づくと、向こうもこちらに気付いた。


「おお! ツナ殿! 先ほどの身の熟しからの蹴りは見事でした!」

「え!? いえ、ありがとうございます。ヤスマ殿が風の盾を使えていれば俺なんて手も足も出なかったかと思います」

「そんなことないわ! ツナならその状況でもなんとかしたはずよ!」


 一言文句を言おうとしたらヤスマ殿に会話の機先を制された。

 というかサダ姉の中で俺の評価はどうなってんの? 

 出来るわけない......わけでもないけど、切り札を見せたことはないし、そんなのを持ってる素振りも見せてないはずなんだが。


「おー! やはりそうでしょうな! あの身のこなし方から見てかなりの実力を持っていると感じましたよ!」

「うんうん。ツナは凄いのよ! ヤスマ殿はよ~く分かってるじゃない!」

「いやいや、俺が僅かな命素量しかないのはご存じでしょう? これくらいしか魔法は使えないんですから」


 べた褒めしてくる二人に、現実として俺が使える精一杯の雷珠を見せる。

 数珠玉よりも小さなそれは息を吹きかければ消えてしまいそうなものだ。


「これは本当に微弱な、しかしこんな繊細な魔力を扱えるのもまた素晴らしい才能ですな!」

「そう! そうなのよ! 妾もお母様に制御を教えてもらっているけれど、こんなに小さく出来ないし、ここまで微細に操れるのはお母様にだって出来ないわよ!」


 ダメだ何を言っても褒められる方向に繋がる。魔力制御には自信があるが、こんなにずっと褒められているとムズ痒くなってくる。


 俺は苦笑しながら徐々に距離を離して褒め誉め倶楽部から退散し、庭の隅で膝を抱えているキント兄の所へ向かおうとした。

 が、エタケが慰めているようなので遠巻きに少し見守るに留めよう。


「はぁーーー。良いとこ見せることもなく最初に脱落したうえにずっと気絶してたなんてくっそダセェ......」

「はいはい。あにうえ、それはもう12かいはききましたよ。たしかにまっすぐつっこむだけでげいがありませんでしたね」


 エタケが小さく丸まっているキント兄の背中をポンポンと叩いている。ここからではよく聞き取れないが、慰め? の言葉を掛けてやっているようだ。良い子だなぁ。


「そうだよオレ様は真っ直ぐ突っ込むしか能がねえ、猪と同じなんだぁ~~!」

「ふだんのおすもうけいこだとそんなことはないのでしょう? たたかいであたまにちがのぼってしまうとかんがえられなくなっちゃうんですね」


 エタケの慰め? で何故かさらに深く落ち込んでいるように見えるのだが、ウチの天使は何を囁いているんだろうか? 

 非常に興味はあるがこれ以上近付くと聞き耳を立てているのがバレそうなので聞き取れない距離で様子を見る。


 あれ? 今思ったんだけれど、もしかして聴力も電気信号で強化出来る? 

 前世の人工内耳とか電気信号を送ってよく聞こえるようにしていたのだし、耳から脳への電気信号を強化すればより耳が聞こえるようになる可能性もあるか。

 ちょっと試してみよう。


 目を閉じて、耳を澄ませる。

 深い呼吸をして意識を集中し、頭に保健の教科書で見たことのある耳の構造を思い浮かべる。

 耳小骨(じしょうこつ)、鼓膜、蝸牛(かぎゅう)、そして聴覚神経を辿り、大脳の聴覚野へ。そんな様子を想像する。

 その間を走る電気信号のやり取りを魔力で強化する。


「ははは! サダ殿は本当に良い姉であられるな! ツナ殿も誇らしいでしょうな!」

「ふふ! そうかしら? ツナもそう思ってくれてるかな?」

「ぃっつつ!!」


 イテテ。いかん。強化し過ぎたのか拾った話し声がとんでもないボリュームで聞こえてしまい耳鳴りがした。


 音量をあげて何でもかんでも拾うのは危険だな。

 集音に指向性を持たせるのは難しいだろうけれど、聞こえる音の取捨選択は出来ないか? 


 前世で音楽を聞いた時にギターなど一部の音だけ聞き取りたかった時に試したあの感覚で、聞こえてくる沢山の音の中から聞き取りたい音声だけに集中して……。


「はぁ、そろそろあにうえをなぐさめるのもあきたのでエタケはにいさまのところへいきます。おなじことを14かいもきいてあげたのですから、さっさとげんきになってくださいね」

「お、おう。ありがとよ。てか、エタケはオレ様には結構厳しいよな......」

「にーさまのあにとしてはずかしくないよう、あにうえにはがんばってほしいだけです。それに......エタケのこえでおきあがって、にーさまをたすけてくれたあにうえのすがたはとってもカッコよかったですよ?」


 あー。なんだろう......やっぱ盗み聞きはよくないね。

 ウチの天使のお口がちょっぴり悪かった気がしないでもないけど、気のせいだろうし聞かなかったことにしよう。

 実験は成功したけどまだまだ可聴方法に改善の余地があるな。うん。


 一人でうんうん唸っていると、エタケが俺の元へとやってきた。


「にーさま! なにをうなってらっしゃるのですか?」

「お、おう、エタケ、なんでもないぞ。それよりどうした? 他の人と話すのはもう良いのか?」

「はい! もういっぱいおはなししました!」


 ああ、やっぱりウチの妹は可愛いなぁ。

 満面の笑みで答えるその姿は天使と表現するのが相応しい。


「それよりにぃ~さまぁ? エタケ~、おねがいがあるんです~」

「ど、どうしたエタケ!? お願いとは!?」


 媚びた猫撫で声に上目遣いで身をくねらせるエタケ。

 突然のエタケの仕草に思わず声が裏返ってしまった。


 そんな媚び媚びな態度を取るなんて! どこで憶えたんだ!? 可愛すぎるぞ! 

 何を頼まれてしまうんだろうか。何でも......とはいかないが、大抵のことだったら叶えるために全力を尽くすぞ。


「やまにあそびにいきたいです~」

「山かぁ。庭ではダメなんだね?」

「エタケはやまにさくおはながみたいのですぅ。ねぇ、にぃさまぁ~つれてってぇ~」


 天使な妹が上目遣いと猫なで声でおねだりをしてくる。

 こんな魔性のテクニックを身に着けているなんて、天使というよりも小悪魔じゃないか! 

 しかし! 可愛いが! 過ぎるッ!! 


 と、感情が振り切れてしまいそうになったので落ち着いて現実を見よう。

 頭の中で座学中に見せてもらった皇京と周辺の地図を思い出す。


 たしか皇京から近いのはヨシダ山かな。

 他に近いのはフナオカ山かキヨミズ山、キヨミズ山は寺の所有になってて一般人の入山が出来ないと聞いたし候補的にはヨシダ山とフナオカ山かな。


 ただ皇京の外は普通に魔獣も居るので誰かに一緒に行ってもらわないと危険だよな。

 クラマ山なら結界のおかげで魔獣は居ないし送迎もコゲツがしてくれるんだけど、普段修行で使わせて頂いているからか、あそこは遊び感覚で行く場所じゃ無い気がしてるんだよなぁ......。


「うーん。皇京の外は心配だから誰か大人も一緒に行ってもらえるようにしないとなぁ」

「えぇ~! エタケはにーさまとふたりきりがいいです!」


 二人きりで出掛けたいなんて、なんだこの可愛い生き物は! 

 しかし危ないものは危ない。

 外の危険性は俺がちゃんと教えてやらないとな。


「いや、それは危ないって。俺の力だけではエタケを守り切れるか不安があるし」

「エタケ、きょういちばんつよかったですよ?」


 危険を説くものの、確かに今日の腕比べで最後の一人となった実力は認めざるを得ない。

 というか胸を張ってふんす! と鼻息を荒くしてるんですが! なんだこの可愛い生き物は! 


「分かった分かった! 父上や母様に相談して許しを得られたら、たくさん花が咲く春にでも山へ連れて行くよ」

「はい! はるですね! たのしみにしております!」


 幼子二人で遠出など許可が下りるとは思えないのだが、もう行くことが決まっているかのような答え方だな。


 ……既に根回しが済んでいるとか? まさかな。


 とりあえずたくさん花が咲くまではまだしばらく時間はあるので今から出来るだけの準備を整えておこう。

 修行なり道具の製作なり、安心して護衛出来るだけの力を付けねば。

 8日までは正月期間で修行は休みなので休みが明けてから師匠にお願いしてみよう。

 俺はこの休みのうちに道具の草案でも纏めておくのがいいか。


 こうしてテミス家との交流会は日も沈んだ頃にお開きとなった。


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