三十話 テミス一家来訪
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正午過ぎ、新年の挨拶回りで普段はシナノにある東正鎮守府を守護しているテミス家の面々がトール邸を訪れた。
従者を合わせると結構な人数となる為、今日は庭先に宴席を設けている。
「新年お祝い申し上げる。久しいなヨリツよぉ。それにミチザのおっちゃん、いやもうじーちゃんか? ハハハ!」
「こちらこそお祝い申し上げる。ミチナ様も御息災のようでなにより」
「まったく。どんな挨拶なんじゃ、ミチナよ。それにお主とはさっきも小朝拝で会っておろうが! かの”御堂弓姫”がワシより早くボケてしもうたかの?」
この豪胆な物言いをしている金髪碧眼の女性は東正鎮守府将軍ミチナ・テミス様。弓の腕前が優れており、特に風魔法を乗せた矢は月に届くとまで称されている。
御堂弓姫という二つ名は15年前に百鬼夜行という魔獣の大量発生が起きた際、山中のお堂に立て籠もり、迫りくる魔獣たちを次々と射抜いて生き延びたことから付けられたのだそう。
ちなみにテミス家は放出型の使い手しか生まれないらしい。
その代わりか生まれる子の因子は平均で3属性以上とかなり豊かだという。
「ハハハ! 冗談に決まってんだろ! で、ウチのガキ共と番うかもしれないってのがそっちのチビ共か?」
「チビじゃねぇ! オレ様にはキントって名前がある!」
「妾もサダという名前がありますので!」
「新年お祝い申し上げます。ツナと申します。以後お見知りおきを」
「おいわいもうしあげます。エタケです」
ミチナ様は言葉使いが荒いな。この場にサキ母様が居なくて良かったのかもしれない。
というかキント兄とサダ姉はちょっと挑発に乗り過ぎている。
いつもより直情的なのは同じ武の御三家として対抗意識でも持ってるんだろうか?
エタケは俺のマネをしてちゃんと挨拶が出来ていた。偉いぞ。
「元気があって良いじゃねぇか! ほら! コッチも挨拶してやんな!」
「新年お祝い申し上げる。ヤスマと申します」
「リノブだよ」
「レヒラだよ」
「ネヨリだよ」
「「「よろしく~」」」
最初に挨拶してくれた金髪碧眼で前世で言う所の塩顔なイケメンがヤスマ殿。
今年で16歳だそうで、既に東正鎮守府軍曹の職に任じられているという。
その後の元気の良い三姉妹は三つ子で顔立ちはそっくりな金髪碧眼だが、それぞれ髪に違う色のメッシュが入っている。
十二単も髪と同じように基調は金だが、リノブ嬢が赤、レヒラ嬢が茶、ネヨリ嬢が水色とそれぞれに合わせた色合いになっていた。
年齢はキント兄より一つ上の11歳で三人とも武官を目指しているそうだ。
ちなみに父親であり入り婿のサモリ・テミス殿は正月中は東正鎮守府の留守を預かっているそうだ。
自己紹介も済み、このまま軽く食事の流れに―———
「「「ねぇ? この中で誰が一番強い???」」」
同時に3つの口から厄介な火種が投げ込まれた。
「はぁ......。また始まったか」
「オレ様だな!」
「妾よ!」
「年齢的にも経験的にもヤスマ殿ではないでしょうか?」
「エタケはまだつよくはないです」
ヤスマ殿の溜息から始まり、うちの兄姉は自分こそが一番だと主張する。
俺は年長者のヤスマ殿だろうと当たり障りのない返答で茶を濁し、エタケは素直に自分では無いと告げる。
え。待って。”まだ”って言ったこの子? 姫じゃなく武官になる気なの? お兄ちゃん何も聞いてないよ!? エタケはずっと戦わなくても良いんだよ?
エタケの発言に俺が一人だけあたふたしていると、大きな声が割り入ってきた。
「ガキども! よく吠えた! ならばここは腕比べしかあるまいな! 各々用意いたせ!」
ミチナ様が両手をパンパンと叩くと侍従達が大きな布を広げて三姉妹とヤスマ殿をそれぞれ覆い隠す。
その間にミチナ様が俺たちにシッシッと片手で払う動きをして何かを伝えているが、もしかしてこっちも着替えてこいってことか?
爺ちゃんも父上も頭に手を当てて溜息をついているが、やがて諦めたように俺たちにも着替えを促してきた。
着替えを終えて戻ると鎧姿のヤスマ殿と狩衣を着た三姉妹が並んでいた。
手際が良過ぎる。最初からこうするつもりだったのだろう。
こちらはサダ姉が狩衣でキント兄とエタケが裾を絞った括り袴に水干の所謂牛若丸のような恰好、俺は着慣れた修験者の装束だ。
え!? 本当にエタケも参加するの!? 一番年齢の高いヤスマ殿との歳の差は13歳もあるよ? それを言ったら俺も11歳差ではあるけれど。
俺は爺ちゃんや父上の方へ抗議を伝えに行く。
「エタケが自ら選んだことだ」
「あの子はお前に憧れとるようじゃからな。そんなに心配ならツナが守ってやるがよい」
と、それぞれ一言ずつで却下された。
最愛の妹に憧れられていることは嬉しいけれど、エタケには俺が戦う姿なんて見せた覚えがないのだが。
なんならサダ姉もそうだ。戦う姿を見せたことがない。
どういう状況なのか困惑している中、ミチナ様がおもむろに札を8枚取り出して呪文を唱えると俺たちの頭上に紙で出来た球体が浮かんでいる。
どうやら頭の動きに追従するようだ。
俺たちを中心に30mくらいの四方に四人の従者が立ち、同時に呪文を唱えると結界が張られて俺たち八人が中に閉じ込められた。
いや本当にこれはどういう状況?
「今からお前らには頭の上の紙玉を潰し合ってもらう。その紙玉はある程度の衝撃を与えられると潰れるので魔法なり素手なり、武器なりで存分に叩き潰せ!」
なるほど。バトルロワイヤル形式なのね。
てか子供だけとは言え約30m四方に八人て狭いな。
なるべく早くぶつかるようにってことかな?
奇襲が基本戦術の俺としてはかなり不利な条件ではある。
「時間の制限はないが、夕刻にはアタシとミチザのじーちゃんは元日節会に出なきゃならんので去る。カッコいいとこ見せつけたきゃさっさとケリをつけることだな!」
てか五名ほど目がギラついてる。なんでそんなに乗り気なのさ。
いや俺も別にカッコ悪いとこは見せたくないけども。
「では! 始めぇ!」
そして開始の合図が告げられた。




