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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~ノブナガ軍邂逅編~

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二十四話 牛鬼襲来

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 地響きのした方を雷神眼で見ると何か大きなものがこちらに向かってくるのが見える。


「父上! 爺ちゃん! なんかデカイのがこっちに向かって来てる!」

「森の奥か。デカいな。あれはなんだ?」

「総員撤退じゃ! 砦へ走れ!!」


 兵達は何が起こったか理解できていないようだったが、爺ちゃんの撤退の合図を聞くと全員が砦へと向かって走り出す。

 当たり前だが捕虜を乗せた荷車3台の動きが遅い。


 イチかバチかだがここは一つ賭けに出たほうが良さそうだ。

 俺は荷車に飛び乗って積まれている捕虜のうち、当世具足のような一番良い装備を身に着けている鼠人(ラット)族の男に触れて首筋に電撃を流した。


「!!?」

「目を覚ましたか! 大丈夫、殺すだけなら眠ってる間にやれてるんだ。無駄に暴れるなよ? 意識はハッキリしているか?」


 顔色は青ざめているものの、捕らえられたという状況は理解出来たのか静かに何度も頷いたので口の荒縄を外してやる。

 どうやら気絶したことで正気を取り戻したようだ。


「ここは? お前は誰だ!? なんで子供が!」

「お前はこっちの質問に答えるだけでいい。余計なことをすればどうなるか分かるな?」


 俺は部隊を指揮する者が身に着ける短刀を少しだけ抜いて刃を見せつけると、鼠人族の男は震えながら大きく何度も頷いた。

 戦場で年端も行かない子供がこんな真似を平気でするのだから、さぞ不気味に思ったことだろう。


「お前たちは狂乱状態で巳砦(みのとりで)に攻めて来た。それは憶えているか? もし憶えていないなら最後の記憶はどこだ?」

「砦を襲った!? お、憶えていない! さ、最後の記憶は......えっと、たしか森の奥で野営している時に変な臭いと煙が現れて、急に周りのやつらが皆叫び出したんだ......それより後のことは憶えてない!」


 臭いと煙......おそらくそれが狂乱の元凶というところか。


「分かった。協力に感謝する。今、化け物がこちらに向かって来ているんだが、正直なところ俺たちが助かるにはお荷物になってるお前たちを見捨てるしかない。仲間を助けたいなら俺の指示に従え。従うなら生き残る道を示してやるぞ?」

「もちろんだ! オレに出来る事ならなんだって協力する!」


 鼠人族の男の協力を取り付けるとこの後の指示を伝えた。

 それから父上と爺ちゃんに向かって大声を上げた。


「二人とも! 臭いと煙には注意して! それを吸うと狂暴化するみたいだ! あと爺ちゃん! 荷車の魔族を全員叩き起こして! 砦まで自力で走らせる!」

「臭いと煙? よく突き止めたな! しかし、魔族共を起こすのは反対だ! まだ——」

「よーやった! ツナ! ちーっと強めじゃが気付けには丁度いいじゃろ。ほれ、-雷玉(ライギョク)-」


 父上が反対意見を告げる間もなく爺ちゃんが3台の荷車に向けて雷の玉を命中させると荷車に積まれていた魔族が一斉に目を覚ました。


「ぐごご? ぐあおお?」

「ふがふが! ぐあが!」

「者ども! 静まれ! オレはヒデヨシ隊与力(よりき)のコロクだ! 俺たちは故あって人族に捕まり捕虜になった! だが、それよりも今は後ろから見たこともねぇバケモンに追われている事の方が厄介だ! 助かりたい奴は素直に俺に従え! いいな!」


 当世具足を装備した鼠人族の男はコロクと名乗って騒ぎを鎮めた。


 一人だけ良い装備を身に付けていると思ったがヒデヨシ隊だと!? 

 ノブナガだけじゃなく、あのヒデヨシも転生か転移しているのか!? 

 非常に気になる情報はあったが、今は迫り来る脅威への対策が優先だ。


 俺と荷車を曳いていた兵達で捕虜の足を縛る縄だけを切って、立たせると荷車を捨ててコロクを先頭に巳砦へと走らせる。


「グゴォオオオオオオオオオオオオオ!!!! !!」


 叫び声のした方を見ると森から抜け出たようで地響きの正体が肉眼でも見えるようになった。

 鬼の頭に蜘蛛の身体を持った高さ10m程の化け物。

 口からは紫の煙を吐き、体表は濡れているのか湿り気を帯びているように見える。


 鬼蜘蛛(オニグモ)? 牛鬼(ウシオニ)? 前世でネットの妖怪図鑑か何かで同じようなのを見たことがあったが正確な名前は憶えていない。


「ヨリツ! ツナが言っておったように臭いと煙が狂乱の元凶なのじゃとしたら、あやつの口から漏れておる煙が危ないと見える! 接近戦は厳禁じゃ! お前は先に砦に戻って魔族共の受け入れを伝えよ!」

「承知した! 親父殿! ご武運を!」


 父上が目にも止まらぬ速さで駆け出すと、あっと言う間に俺の横に並んだ。


「ツナ、先に砦に戻るぞ。私に負ぶされ」

「承知しました。コロク! このまま真っ直ぐ砦まで来い! 絶対に悪いようにはしないと約束する!」

「分かった! 違えるなよ!」


 コロクに念を押してから父上に背負われると魔牛も越えるほどの速度で一気に砦まで辿り着いた。

 父上の背越しではあったが俺の身体に掛かった負荷を考えると、これで長く走るのは負担が大き過ぎるはずだ。どんな超人的な肉体をしているんだろうか。

 それとも体内も強化しているから平気なのかな? 

 なんてことを考えている間に巳砦へと辿り着いていた。


少録(しょうじょう)、厄介な魔獣が出た。口から吐く煙に触れてはいけないようだ。弓隊と放出型の使い手で遠距離から攻撃したいので招集してくれ。あと、魔族の捕虜を一時的にこちらに受け入れるので場所をお借りしたい」

「はっ! ただちに! 捕虜の件も了承しました。既に部屋は幾つか空けておりますので案内させます」


 ヨシ殿は最初に父上達が生け捕りにすることを決めた時点で三十人を分けて収容出来る場所を空けておいたらしい。

 監視は大変になるが一纏めにして団結されるよりも分断しておいた方がいいのだという。

 こういう火急の事態に部下が有能だと助かるんだなと感心した。


 迎撃の人員が集まった頃には魔族たちも砦へと全員が到着した。

 隙を見て脱走する者が出るかと思っていたが、聞いていた以上に統制が取れているようだ。

 それぞれ六人ずつに分かれて5つの部屋に収容された。


「よく訓練された兵のようだな。全てお前の部隊の者というわけでは無いのであろう? 数人ほど装備が異なっておるようだしな」

「ええ。オレが任されたワニガ淵の偵察隊は20名。全員揃って生きていて何よりだ。残りの十人はヒデヨシ隊ではない。鎧の魔紋(まもん)が正しいのならミツヒデ隊だろうな。彼らの目的については知らない」

「なに!? ワニガ淵の偵察だと!?」

「ミツヒデ!?」


 俺と父上はそれぞれ別のことで驚いたようだ。

 ワニガ淵とは明日最後に行く予定の戌砦のすぐ近くにあるらしい。

 父上はただちに近くにいた兵に命を下して戦都のムラマル殿へと化け物のこと、戌砦を警戒することを書に認めて伝令を走らせた。


「ところでツナ? ミツヒデとは誰だ?」

「え、えっと。以前、爺ちゃんの持ってた魔族軍に関する書物にそんな名前があったような気がします。たしか相当に頭が切れるので注意とかなんとか......」

「ほう......御屋形(おやかた)様以外の異名持ちのことは情報を統制されているはずだが、人族の乱波もやるもんだなぁ」


 ミツヒデについては驚きすぎてつい口に出てしまったが、爺ちゃんの書物で知ってると咄嗟に嘘をつくことでなんとか取り繕えたかな? 

 後で爺ちゃんと口裏を合わせておかないと......。


「聞きたいことはまだ色々とあるが、先に外の化け物退治だな」

「私は爺ちゃんに飲み水を届けるのと一緒にさっきのことを報告しておきます! 絶対に化け物には近付かないので心配はご無用です!」

「お二人とも、虜囚のオレなんかが言う事じゃないかもしれんが武運を祈る。あんたらが戻るまでこっちは静かにさせておくんで安心してくれよ」


 父上はやはり俺のことを心配してはいたが、爺ちゃんにも休息が要ることは明白のため、已む無く俺が伝令係になることを認めてくれた。


「ツナ。お前にはこれを預けておく。私が持つ二振りの守り刀のうちの一振りで名を膝丸(ひざまる)という。絶対に無茶せずに伝令だけで帰ってくるのだぞ」

「はい! 父上!」


 俺が砦を出ると、父上はすぐに守備隊の指揮を執った。

 砦の壁上には弓隊が並んでいつでも射掛けられるように待機している。

 一般的な遠距離魔法部隊は弓よりもやや短い射程の者が多いため砦門前に配置した。


 化け物......便宜上、牛鬼(ウシオニ)と仮名する。

 牛鬼はその巨体に似合わず素早い動きで爺ちゃんの雷玉のいくつかを躱している。

 無論ほとんどは命中しているが、どうにも雷に強いのかあまり深いダメージを受けている様子は見えない。


「爺ちゃん! 砦門で迎撃の準備が整ったよ! 一旦下がって!」

「うむ。しかしツナよ、どうにもコイツはおかしいぞ? ワシの雷が当たってもそこまで効いておらんようじゃが、じゃからといって偶に必死に躱すこともあるんじゃ」


 俺が爺ちゃんに後退を知らせると、爺ちゃんは首を傾げながら左手で顎髭を触った。

 そのまま雷玉で牽制しながらも少しずつ俺の方へと後退してくる。

 牛鬼はさっきの通り雷玉のいくつかが当たっても動じないが、偶に絶対当たるまいと回避する。

 その動きは不自然という他ない。


 やがて射程範囲に入ったらしく、砦の方から一斉攻撃が開始される。

 その隙に爺ちゃんに飲み水の入った竹筒を渡すと俺は雷神眼で牛鬼を見た。

 火も水も風も属性に関係なく先ほどと同じような不自然な動きをしている。


 まるでどこか一点にだけは絶対当たってはいけないかのような動き。


 俺は意識を更に深く集中して雷神眼で見た。

 すると、牛鬼の口の中、煙の奥に電気信号が感じられる。

 かなり大きいが人型のような電気の流れだ。人型の何かが居る。


「爺ちゃん! 口の奥だ! 何か隠れてる!」

「任せい! -雷槍(ライソウ)-! ぬぇええええええい!!!!」


 俺の声を聞くや否や爺ちゃんが雷の槍を空に浮かべて掛け声とともに右腕を振り被ると、それに呼応するように槍が牛鬼へと飛んでいく。

 しかし、牛鬼はそれが真っ直ぐに口を狙っていると察すると大きく飛び退いた。


「惜しい!」

「なぁに、ここからよ! ふんっ!!」


 爺ちゃんは右腕を横に振ると雷の槍が曲線を描いて急旋回し、着地したばかりの牛鬼の口の中に直撃した。


 パリィィン! バチバチバチィ!!!! 


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!! !」


 甲高いガラスが割れるような音の後に続き牛鬼の周囲を煙が立ち込める。

 そして電撃が何かに直撃した音、その直ぐ後に痛みを訴える雄叫びが聞こえた。


「風使い! 煙を払え!」

「はっ! -扇風(センフウ)-!」


 父上が風の遠距離魔法で牛鬼の周りに立ち昇った煙を払うとその中からは6mはあろうかという巨大な鬼が現れた。


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