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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~ノブナガ軍邂逅編~

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二十三話 天雷の実力、目指すべき頂

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 走り始めて10分ほど経った頃、巳砦(みのとりで)が見えてきた。

 砦の周囲に設置されている掘や柵には踏みつぶされたり激突した魔獣の死骸が重なっていた。

 砦内部からは等間隔に並んだ3本の煙が立ち昇っているが、あれは狼煙かな。


 眼前には他の魔獣が柵にぶつかろうとも、掘に嵌ろうとも、そのまま砦へと向かって走る魔獣たちが見える。


「あれじゃな! ワシはここからやる! ヨリツ、お前は砦の門前の魔獣を片付けよ!」

「承知した! ツナ! 危ないと思ったらいつでも逃げるんだぞ!」

「はい! 父上もご武運を!」


 父上と別れた後、爺ちゃんは電撃で魔牛を気絶させて無理やり足を止めさせた。

 電撃の威力調節が完璧なのだろう。

 魔牛はいきなり倒れるのではなく徐々に速度を落とし最後はフラフラとした足取りで腹這いに倒れた。

 そのブレーキングは見事という他なく、これは絶対に何度か同じことを経験したことがあるのだろうなと直感した。


「さて、やるかのう。実戦は久々じゃから加減を間違えそうじゃわい」

「さっきあんなに見事に魔牛の足を止めたくせに何言ってんのさ」


 爺ちゃんは魔獣の大群が目の前に居るというのにかなり余裕そうだった。

 軽い調子で返したが、もしもあれら全てがこちらへ向きを変えてきたらという想像をしてしまいゾッとして冷や汗が出た。


「まずは足止めじゃな。≪天網恢恢(てんもうかいかい)疏而不失(そにしてうしなわず)≫ ‐雷網(ライモウ)‐」


 爺ちゃんが胸の前で掌が触れないように両手の指を互い違いに交差した形を作り、呪文を唱えると、目の前の100m四方の地面に電撃の網が張り巡らされた。

 その網を踏んだ魔獣たちが次々と感電して足を止めていく。その後ろからぶつかる魔獣も同じように感電し足が止まっているようだ。


「すごい......」

「なぁに単なる足止めの魔法じゃ。それに維持するのにはこうして印を組んだままにせねばならんし、魔力も多大に使うので強者との一騎打ちには向かんよ」


 そう笑いながらも爺ちゃんの目は真剣で、今も魔物の居ない部分は雷網が消えるように魔法の幅を調節して命素の消費量を節約している。

 しかし、自分で足止めの魔法と言った通りで動きを封じたが倒すには至ってない。


「そろそろ片付けるかの。不争(あらそわずして)而善勝(あいてにかつ)握雷(アクライ)‐」


 呪文を唱えると同時に、交差していた指を曲げ、両手で握り潰すように手の形を変える。

すると触れていた雷の網が魔物を包み込むように伸び広がり、包み込んだ瞬間に激しい放電とともに消えた。


 後に残ったのは炭のように焼け焦げた魔物であったであろうものの死骸だけ。

 小型も中型も関係なく、たった数分のうちに等しく死が与えられた。


「やはりこういった器用な技は命素を喰うのう。ドカンと全て吹き飛ばすような魔法の方がツナにワシの凄さを見せられるんじゃがなぁ」

「今のでも十分に凄すぎるよ......」


 これが天雷。ヒノ国で最強の雷魔法の使い手。

 そして俺が今世で目指すべき頂。

 家族みんなを守れるようになるには爺ちゃんより強くならなきゃいけないと考えていた俺にとってはかなりの衝撃だった。


 越えられるのかこの山を。

 初めて爺ちゃんに実力の一端を見せられたことで実感したが、今の俺にはまだ天と地程の大きな差がある。

 並び立つことも困難な道だ。


 だが、諦めるつもりは毛頭ない。

 全力で生きると決めているから。

 目指して、登って、足掻いて、這いずってでも辿り着いてやる。


 雷神眼で巳砦の方を見ると門の横に魔獣の死骸が積み上がっている。

 あれは砦の兵達と父上がやったのだろう。

 未だに光を纏ったままの紫の大鎧姿は大変目立つ。


「爺ちゃん。父上も砦も無事のようだよ」

「そのようじゃのう。一旦合流しておくかの」


 爺ちゃんは後ろで気絶している魔牛を軽い電撃で起こして俺をその背に乗せた後、手綱を曳いて巳砦へと向かった。


 巳砦に辿り着くと大きな歓声とともに迎えられる。

 今回俺は何をしたわけでもなかったので歓声を浴びるのは少し気恥ずかしかったが、爺ちゃんは右手をあげてしっかりと歓声に応えていた。


 砦内の作戦会議室のような一角で俺たちは砦を預かっている指揮官で水色髪の男性、兵部少録ヨシ・ミナモ殿と話し合うことになった。

 顔つきが戦都で出会ったサネ兵部少録にかなり似ている。

 男女の双子かな? 家名も同じだし血の繋がりがあるのだと思う。


権参議(ごんのさんぎ)殿! よくぞ来て頂いた! 兵部少輔(ひょうぶしょうゆう)殿からお話は聞いておりましたが、まさか”天雷”の戦いをこの目で見ることが出来るとは夢にも思いませんでした! お陰様で多くの兵を死なせずに済みました。誠に感謝申し上げます!」

「よいよい。それよりも魔獣について何かわかったことはあるかの?」

「門前に来た魔獣を数匹捕らえて調べたがどうやら小型の魔獣は追い立てられて逃げていただけのようだ。中型の魔獣はどれも目の光が違っていて尋常ではない興奮状態にあった」

「魔族......もしくはなんらかの魔獣の仕業と見るべきでしょうか?」


 魔獣たちがやってきた方向には現在は魔族領となっている森がある。

 そこに中型の魔獣を尋常ならざる興奮状態に仕立てた存在が居るはずだ。

 父上たちが調査に出向くべきか否かを議論していると物見から急報が届いた。


「申し上げます! 先ほどの森の方角から複数の魔族がこちらに向かってきております! その数およそ30!」

「ふむ。やはり魔族の仕業じゃったか。それで敵の指揮を執る者は居たか?」

「いえ、それが足軽ばかりで隊列も組まずにただ狂乱したようにこちらへ走り向かってきているとのことです!」

「なんだそれは? さっきの魔獣共と変わらんではないか」


 ノブナガに統制されてからの魔族軍はそれぞれが規律に則った動きをし、個の力でなく群の力で戦うようになったそうだ。


 それまでの魔族は一騎当千が主だったので当時のヒノ国軍は突然統制された動きや搦め手を用いる敵に敗戦を重ね、その結果が当時の戦都だったジワラの陥落だという。


 それから30余年は何故か魔族軍側から大きな攻勢はなかったようで、その間にトウ国等から集めた書物で兵法を学んだ者たちによって今でこそ同じように軍略を用いて戦う用兵術という言葉も浸透しつつある。


 再び魔族軍が目に見えるほど活発に動き出したのはここ数年のことだ。


「怪しいが出来るだけ殺さず捕らえてみるかのう」

「そうだな。何か吐かせられるかもしれん」


 方針が定まったので父上と爺ちゃんが再び戦場に向かう。

 俺は二人の後方から捕虜を収容する為の荷車を曳く兵達を率いる役目を任された。


 4歳児に率いられるのは兵達にとっても気分の良いことではないだろうと思っていたのだが、俺が爺ちゃんと共に砦に入ってきたのは皆が目の当りにしていたためかすんなりと従ってくれた。


 右前方では父上が目にも止まらぬ速さで敵に接近して触れるだけで意識を刈り取っている。

 左前方では爺ちゃんがいくつもの雷の玉を浮かべており、指先一つでそれを操って同じように意識を刈り取っていく。


「すげぇや……」

「ああ、これが二つ名持ちの力かぁ」

「このまま魔都まで行けるんじゃないのか?」

「バカ! 魔族にも異名持ちって呼ばれるやつらが居るんだぞ! そいつらも二つ名の方々に並ぶほどの力を持ってるって話じゃねぇか」

「はいはーい! 皆さん。無駄話はそこまでにしてください。お仕事ですよ。気絶してるからって油断せずにしっかり拘束して荷台に積んでいってくださいねー!」


 異名持ち......ノブナガの第六天魔王や大嶽丸の鬼神魔王のようなものらしく、大半は自分で名乗っているものが多いというがノブナガから直々に名付けられた者もいるそうだ。

 それに自称で知られている者もそれだけ武名を轟かせたということでもある。

 まあほとんどが噂の域を出ないけれど。


 気絶している魔族たちの口と手足を荒縄でしっかりと縛って荷車に乗せていく。

 全員を殺さずに気絶させるだけに留めている技量には感嘆する。

 同じ技、同じ動作であっても、おそらく体格や種族などに合わせて死なないように魔力量を調整しているはずだ。


 そんな凄い人物たちが自分の親族なのだと思うと誇らしい。

 と、同時に力の無い自分に対して少し歯痒さを感じた。


「これで目に見える範囲は全員無力化したかのう」

「そうだな。ついでなので私は少し森の近くまで見て来ようと思う。親父殿はツナに付いて砦に戻る兵達の護衛を頼む」

「うむ。承知した」


 俺たちが引き返そうとしたその時、まだ森までは少し距離があるというのに森の奥から地響きが聞こえて来た。


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