二十二話 父の将器、風雲急を告げる
【毎日投稿中】応援頂けると嬉しいです。
★、ブックマーク、いいねでの応援ありがとうございます!執筆の励みになります!
目覚めると知らない天井が......っと、ヨリツ父上の視察に同行して戦都イゼイに来たんだった。
爺ちゃんと朝餉を頂き、もうすっかり習慣化した素振りをするために練兵所で投げ槍と木刀を借りた。
爺ちゃんが知人宛の用事を済ませに少し離れている間、そのまま練兵所の端っこで邪魔にならないように投げ槍で杖術の素振りをしているとヨリツ父上がやってきた。
「ほう。ツナの槍捌きは初めて見た。少々独特だが中々良い腕をしているな。突きに鋭さがあり、防御の構えには隙が無い」
「父上、おはようございます。普段は槍ではなく錫杖を使っているのですが、槍捌きとしてもそれなりに見れるものであったのなら光栄です」
見ていた父上から唐突にお褒めの言葉を頂いた。
まさか父上に褒められるとは思っていなかったので嬉しさよりも驚きが勝ってしまった。
「なるほど。独特に見えたのは槍術ではなく杖術のためか。うむ見事。キイチ・ホーゲン殿は良い師のようだな」
「ありがとうございます! 師匠はとても良くしてくれています!」
俺の素振りで父上に師匠のことを褒められるとなんだか自分が褒められたことよりも誇らしかった。
「剣術も習っているのだったな。どれ、私も一手指南してやろうか?」
「本当ですか! ありがとうございます!」
父上はほぼ毎日兵部で忙しく働いている為、今まで一度も一緒に鍛錬をすることなどは無かった。
父上の剣術指南は厳しく、転がされても追撃が来るという実戦に近いものだったが、それでも俺にとっては初めてのことで嬉しく楽しかった。
その時間はまるで前世で幼い頃に父さんとキャッチボールをした時のような感覚を思い起こさせた。
あれ? 視界がぼやけて見える。
なんだこれ。涙?
泣いているのか俺は?
「どうしたツナ!? 力加減はしていたつもりだったがどこか痛むのか!?」
俺の突然の号泣に父上が慌てて木刀を捨てて駆け寄ってきてくれる。
「い、いえ、違うんです。父上に見てもらえたことが嬉しくて......ずっと父上は俺に興味が無いのかと思っていたので......それに、なんだか、懐かしくて......」
「そ、そんなことはない! 私はこう見えても忙しくてな? ツナも毎日修行や勉学があるだろう? お互いの都合が合わなかっただけで、ツナに興味がないなどということは断じてないぞ?」
「わははは!! あのヨリツが慌てふためいておるとは、こりゃ珍しい光景が見れたわい!」
戻ってきた爺ちゃんが父上を笑ったように、いつも厳格な父上が俺を宥めようと必死に身振り手振り交えて弁明してくれていることが俺にもだんだんとおかしく思えてきてしまった。
「ふふっ、もう大丈夫です。ありがとう父上……」
「おお、そうか、泣き止んだのならばいいんだ......。ところで親父殿! さっきから笑い過ぎだ!」
「すまんすまん。ヨリツが慌てる様が面白くてついな? ……っぷ、わはははは!」
自分でも突然泣いてしまったことには驚いたが、そのおかげでヨリツ父上の知らない一面を見る事が出来た。
それに短い稽古だったが一緒に時間を共有できたことで少し本当の父親としてみれる様になった気がする。
それから少し後、俺と爺ちゃんは父上に同行して戦場にいる味方の陣中見舞いに向かうことになった。
移動は武装したまま騎馬で向かう。
馬と言っても前世の競走馬なんかよりも一回りくらい小さなサイズだ。
同乗している爺ちゃんにこっそり聞いてみたところ、これが皇京周辺での一般的な馬の大きさだそうだ。
バンドーと呼ばれる地方ではもう少し強靭な軍馬も居るらしい。
あとは異国から贈られて来た馬の魔獣である角馬や天馬なども居るらしいが、それらはかなり貴重で帝の為に作られた牧場に数頭居るだけだという。
ちなみに俺たちの後ろで労いの酒を積んでいる車は魔牛と呼ばれる普通の牛を1.5倍くらいの大きさにして鎧のような筋肉で固めた魔獣が曳いている。
ゴツい見た目からは想像が付きづらいが、本気で走ったときは普通の馬よりも早く走れるらしい。
そんな雑談をしているうちに最初の陣地に到着した。
子砦と呼ばれるそこは小高い丘を木の柵や掘で幾重にも囲って砦化してあり、一番外にある柵の内側には小さな村もあるそうだ。
この辺りはまだ農民の兵も多く混ざっており、招集がない限りは10日ごとに交代で軽い調練に参加するだけで普段は農作業に勤しむ農民たちが大半を占めている。
砦の広場には武装した数百人の兵が整列して待っていた。
父上が壇上に上がると兵たちから感嘆の声や小さな歓声が零れる。
少し騒がしくなった場を父上が一睨みすると途端に静まり返った。
「我こそは”雷光”! 兵部少輔ヨリツ・トールなり! まずは諸君らに感謝を! 危険な戦場の前線に留まってくれている諸君らが居るからこそ皇京は安泰である! そして今後も諸君らの奮戦奮闘に期待する! ヒノ国に勝利を!」
激励と共に壇上で父上が右拳を高く掲げると兵たちからはまるで爆発したかのような大きな雄叫びや歓声が湧き上がった。
周囲と同じく俺の気も昂っていた。
声と立ち振る舞いだけで数百人の兵の士気をこんなにも上げるなんて凄いとしか言いようがない。
これが激励の力。一種の魔法のようなものか……。
ただし台詞や立ち振る舞いを真似るだけで誰がやっても同じように出来るものではないというのは明白だ。
心を奮い立たせるには将器やカリスマ性などと呼ばれる才能が必要なのだと思われる。
「父上は凄いな……」
「ふふっ、そうじゃろう。なんせワシの自慢の息子じゃからな」
俺の呟きを拾った爺ちゃんは俺の頭を撫でながらそう言って笑った。
■ ■ ■
その後、東側から順に4か所の砦(丑、虎、卯、辰)で同じように陣中見舞いとしてヨリツ父上の激励と労いの酒を振る舞っていった。
そして正午を過ぎ、本日最後の6か所目、巳砦に差し掛かった時にそれは起こった。
「き、急報! 大量の魔獣が巳砦に接近しております! 危険ですので兵部少輔様がたは急ぎ戦都へと戻られますよう!」
中型の犬の魔獣を駆り巳砦から走ってきた伝令係から報告を受ける。
伝令を乗せて来た魔獣はここまでずっと全力で駆けてきたのであろう。かなり息を切らせていた。
「承知した。急いで戻る故に荷は車ごとここに置いてゆく。事が終わった後に皆を酒で労ってやってくれ。誰か! この者と魔犬に水を!」
「待てヨリツ! このままワシらは巳砦の加勢に向かうべきじゃ! ちーっと嫌な予感がするでの。ツナには悪いがここから一人で帰す訳にもイカンのでな。付き合ってもらうぞ」
爺ちゃんが父上を呼び止めて、このまま巳砦に加勢する選択をした。
俺を見たその目は「絶対に守ってやるから安心しろ」と告げている。
「爺ちゃんが父上を止めた時点でそうなると思ったよ。大丈夫。最低限の自衛だけはするから!」
「こら! 待て二人とも話を勝手に進めるんじゃない! 戦場は、命の奪い合いは鍛錬とは別物なのだぞ! そこに年端も行かぬツナを連れて行くなど————」
「ええい! 喋っている間が惜しいわ! 行くぞ!」
このまま話し合っても埒が明かないと痺れを切らせた爺ちゃんは馬から降りると俺を片手で抱き上げて、そのまま後ろの魔牛に跨ると、電撃で車と切り離し魔牛の尻にも電撃の鞭を打った。
「ブモォオオオ!!!!」
刺激に驚いた魔牛は大きな鳴き声をあげると一気に走り出し加速していく。
「ちょっ! 爺ちゃん! 脇に抱えられるのはしんどいって! せめて俺も座らせて!」
「コレは鞍などないからまともに座れるような代物ではないんでの! 抱えられるのが嫌ならワシの背に乗っておれ!」
爺ちゃんは片腕で器用に俺を背中に移動させる。
両腕が使えるようになると魔牛の頭部から左右に生えている二本の角を掴んでハンドルのように扱い見事に乗りこなしている。
数分経ったところで紫の大鎧を身に着けたままの父上が走って追い付いてきた。
雷魔法による身体強化を行っているようで身体中から薄紫の光を放っている。
これが雷光の所以か。
「全く! 人の話を最後まで聞けと言うに!」
「説教は後で聞く! 今は刻が惜しい!」
「また何か見えたんだな!?」
父上の呼びかけに爺ちゃんは黙ったまま頷いて返事を返していた。




