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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~ノブナガ軍邂逅編~

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二十一話 戦都の夜話

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 木枯らしが吹き荒ぶ霜月。

 新嘗祭(にいなめのまつり)を翌週に控えた月曜、俺は修行をしばらく休みにして貰い、爺ちゃんとヨリツ父上の戦場視察に同行して戦都イゼイに来ていた。


 イゼイの街並みも皇京イアンと同じように碁盤の目のような配置をしているが大きな違いはサキョウの東にガイキョウという張出した部分があることと、町全体を高い石壁で囲っていることだろう。


 イアンも外周を壁で囲われてはいるが、戦場に近いわけではない為に土と木で出来たそこまで高さの無い壁である。

ただしイアンはルアキラ殿やドーマンの強力な結界を主の守りとしているので抜かりはないらしい。


兵部少輔(ひょうぶしょうゆう)殿、それに権参議(ごんのさんぎ)殿まで! 此度は視察の任をお受けくださり誠にありがとうございます! ”雷光”と”天雷”のお二人に来ていただけたことを知れば兵たちの士気は上がること間違いありません!」

「期待させてすまんが今回親父殿は俺の子であるツナのお守り役だ。明日からの陣中見舞いでは前線までは出んぞ」

「いや、ワシもヨリツと一緒に陣中見舞いをするぞ? 無論ツナも連れてじゃ」


 俺を連れて戦場を見て回るか否かを出迎えてくれた薄水色髪の女性、兵部少録(ひょうぶしょうじょう)サネ・ミナモ殿を前にして親子で口喧嘩を始めてしまった。

 ここで俺に出来ることは無いので借りてきた猫のように大人しく静かに祖父と父の親子喧嘩を見守る。


 ちなみに雷光とはヨリツ父上の二つ名で天雷とはミチザ爺ちゃんの二つ名だ。

 二つ名は戦う姿や使う魔法などからいくつか候補が上がり、名施(なほどこし)の儀で帝から名を与えられることで正式に決まるらしい。


「親父殿はいつもそうやって独断で物事を決めようとする!」

「ヨリツは細かすぎる! ワシではツナを守り切れんとでも申すのか!?」

「…………」


 そろそろ煩くなってきたので子供らしく元気いっぱいなところでも見せて仲裁に入ろうかと思ったが、ここまで来るのに川を館舟で8時間程度は揺られていたので疲弊し、さらに戦場から近いという緊張感からか身体も強張っていて余分な元気が無い。

 正直な話、とても眠い。


「お、お二人ともそこまでに。ツナ殿もお疲れのようですし、今日は戦都内裏(だいり)でおやすみになられては如何ですか?」


 そんな俺の様子を察してかサネ殿が二人の口喧嘩を止める口実に俺を使った。

 戦況を把握して最善手を打てる優秀な人のようだ。


「む。これは失礼した。陣中見舞いの件に関しては護衛の人数なども決めねばならんだろうから今夜中にはお伝えする」

「まあ、ワシとヨリツが居れば正直なところ他の護衛など要らんがな。人数は当初と変える必要はないぞい」

「は、はい! 承知しました! 正式にまとまりましたら戦都大極殿(だいごくでん)に設けている本陣までご連絡ください!」


 一礼してそう言い残すとサネ殿は足早に立ち去った。

 まだまだ仕事が残っているらしい。


「親父殿、ツナを頼んだ。私は戦都の最高指揮を執っておられる兵部大輔(ひょうぶたいふ)殿の所へ挨拶に行って参る」

「うむ。ムラマルによろしく言っといてくれ」


 一言告げると父上は挨拶に向かった。

 たしか父上は自分より若いムラマル・アレス殿には対抗意識を持っていたようだったが、流石に無駄な意地を張って挨拶に行かない等、しょうもないことをするような小さい男ではないようで安心した。


 先に寝所に着いた俺と爺ちゃんは用意された夕餉を済ませ、風呂で汗を流した。

 風呂と言ってもサウナのようなもので浴槽に湯を張って入浴するものではない。

 身体に湯や水を掛ける湯浴みや(みそぎ)はあるが、湯に浸かる文化は一部の温泉地にしかないという。

 以前ルアキラ殿や爺ちゃんと話し合ったが、早急に入浴文化を広めるのは難しそうだった。


 トール邸ではそれぞれに個室が与えられているが、ここは最前線に近いということで何が起きても対応できるように寝所では爺ちゃんと同室で寝ることになった。


「まったく。ヨリツのやつめ、ムラマルとは知らぬ仲でも無いというのに堅苦しい役職名で呼びおって......」

「そうなんだ?」

「うむ。我がトール家と同様にムラマルのアレス家も武の御三家として重要地の守護を仰せつかっておる。ヨリツとムラマルは6歳差と少し離れてはおるが一緒に鍛錬をしてきた兄弟みたいなものじゃ」


 あえて役職呼びしてる懐の狭さに前言撤回しようかと思ったが、幼い頃からの知り合いで弟のような存在なのであれば、自分より活躍されて悔しいと思う気持ちはなんとなく分かる。


 前世で弟妹はいなかったが、俺も今世での妹であるエタケが俺よりも強くなって、守る側から守られる側になったら悔しいと思ってしまう気がする。

 ……それでもちゃんと名前では呼んでやるけれど。


「もう一つの御三家はテミス家だっけ? その一族は戦都には居ないの?」

「そうじゃな。テミス家はシナノの東正鎮守府(とうせいちんじゅふ)を本拠地として東の守護についておるよ。戦都には居らぬが新年の挨拶などには皇京に顔を見せに来ることもあるので機会があれば顔合わせさせるかの。現当主のミチナには元服した息子と三つ子の姉妹がおったはずじゃ」


 武の御三家と呼ばれる家はそれぞれがライバルのような存在でありながら、世代によっては年齢の近い子息子女を婚姻させるなどの結びつきもあるらしい。

 俺の世代もキント兄とテミス家の三つ子姉妹の誰か、もしくはサダ姉と長男ヤスマ殿の婚姻を結べればと考えているそうだ。


 俺は前世で結婚は出来ていないし、理想の結婚観なども特に無いが、今世では血の継続が第一とはいえ、家や親によって決められた結婚というのは本人にとって幸せなのだろうか?

 まあ恋愛結婚ですら結婚後は思っていたのと違う。みたいな話は前世でもよく聞いたので誰にとっても一番良いというものは無いのだろうけれど。


「なんじゃ? ツナはどこぞに慕っておる姫子や娘がいるのか?」

「いや、居ないよ。というか中身はまだ前世の年齢を多少引き摺ってるから、同年代の子とかはそういう目で見れないかな」

「ふむ。そうは言ってもいつの間にか落ちるのが恋じゃぞ。ワシもプラムと結ぶまでの若い頃は色々と......」


 聞いてもいないのに語って聞かされた感じではあるが、爺ちゃんもどうやらいくつかの恋を経験してきたようだ。

 政略結婚や死別など甘いものばかりでなく苦いものもあったという。


 そんな昔話を寝物語に聞かされていると、昼間の疲労もあってすぐに睡魔に襲われた。



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