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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~修行編~

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十九話 宝の花園

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「ここです」

「なんと......」

「こりゃ壮観じゃのう」


 ルアキラ殿に案内された石蔵の中はズラッと天井近くまで高さのある棚が並んでいて、そこにはいくつもの四角い透明な箱の中に様々な植物が小分けして植えられていた。

 まるで立体的な植物図鑑のようだ。


「サボテン、バラ、マリーゴールド、サルビア、ローズマリー、それにラフレシア!? 他にも世界中の花々がいっぱいある......どうしてこんなのがあるんですか? あと、これでなんで枯れてないんです?」


 何故こんなにあるのか、どこからどうやって集めたのか、どうして枯れないのか、この植物倉庫は疑問だらけだ。


「これは我が師が160年ほど世界を巡っていた頃に各地で見つけた花々を採取したものだそうです。それぞれ内部の時間を止める結界に入れてあるんですよ」

「160年!? 世界中!? 時を止める結界!?」

「これ、ツナよ......興奮するのも分かるがもう少し落ち着くんじゃ」


 いやいや爺ちゃん! これが落ち着いていられますか! とそのままさらに息巻いてしまいそうになったが、ルアキラ殿も苦笑しておられるのでちょっと落ち着かせます。

 深呼吸、深呼吸。

 はい。落ち着いた。


「申し訳ないです。あまりの驚きで我を忘れてしまっていました」

「いえいえ。私も最初にこれらを見た時は思わず声を上げてしまいましたのでお気持ちは分かります」

「コウボウ殿は植物を愛する方じゃったからのう。叡瑠風(エルフ)とは植物と共に生きて植物と共に死ぬ種族だと教えてもらったことがあるわい」


 俺の前世世界の創作物でもエルフってそんな印象があったな。

 実はあっちの世界でもモデルになった本物のエルフが居たりしたのかもしれない。


「そうですね。それもありますが、師曰く故郷の植物を探していたそうです。一番好きだった花を。そして帰還方法も。結局はどちらも見つからなかったそうですが、ついでに色々と集めて来たようですね。今後に呼び出される勇者が同じように無為な時間を過ごさないようにと」

「コウボウ様......」


 やはり勝手に転移させられた者は帰郷したいと考えるのだろう。

 別れも告げられずに離れ離れになった家族や友人、恋人なんかも居たのかもしれない。

 郷愁の果てに世界中を探しても帰還方法だけでなく、好きだった花ですら同じようなものが無かったというのは絶望しかなかっただろう。

 その絶望感たるや俺なんかでは想像し難い。


 俺の場合は転生なので前世への未練は両親への償いが出来なかったことと文明社会が恋しいくらいだ。

 両親への償いは自己満足でしかないが、今世を全力で生きることで償うつもりだし文明の利器については再現できるものは再現して、出来ないものはきっぱり諦められるくらい軽いものだ。


 コウボウ様は長命だからこそ希望を持って探したのだろうし、長命だからこそ絶望も長かったことだろう......。


 ただ、そのおかげで俺は救われたようだ。

 彼の160年は決して無為な時間では無かった。

 植物を愛した異界の勇者に感謝を。


「香草類も除虫菊みたいなのもありますね! これって結界から出して増やしていくことは可能でしょうか?」

「出すことは可能ですが増やすのは種によっては難しいかと。採取した場所の気候などが様々らしいので、この国の気温気候で育たなければ枯れてしまいます」


 そりゃそうか。確かに世界中の花々だもんな。そりゃ気温も日照時間も気候もそれぞれ違うわ。

 なにか良い方法、この時を止める結界みたいなのを調整して利用すれば上手くいきそうな気がする? 


「そうだ! これって結界で中の温度とか一定に保つように調整出来ますか? 外から太陽光と水や人の手は通るようにしてビニールハウス栽培ならぬ結界農法的な?」

「ほほう? びにーるはうす? というのは分かりませんが、結界農法ですか。面白い発想ですね。時を止めるよりは簡単に組めそうですし小さいものであれば維持する魔力もそこまで多くはないでしょう」


 ん? 維持するのに魔力を使う? もしかして今ここにある結界全部一人で維持してらっしゃるの? 


「ああ、それは違いますよ。ここの結界に関しては師の血を受け継いだ子孫の方々にお願いしているので」

「そうなんですね? ......って心を読まれた!!」


 帰れないと知ったコウボウ様はこちらで子孫を残すことを選んだのだそう。

 絶望に負けずに新たな希望を繋いだのやもしれない。


 ただ、人族との混血の叡瑠風の寿命は200年程と純血のコウボウ様よりも早くに亡くなってしまったという。

 世代を経るごとにどんどんと血は薄れて、今では数こそ増えたものの人間と大差のない寿命になっているらしいが、叡瑠風の字からも分かる瑠璃色の瞳に風と結界魔法が得意な一族という特徴だけは残っているようだ。


 とりあえず香草としてローズマリー、タイム、オレガノそれとラベンダー。

 虫除け作りに除虫菊とマリーゴールドをそれぞれ増やしてもらえるように頼んだ。

 ついでに集めておいてもらうものとして都万麻(タブノキ)の樹皮と月桂樹の葉、乾燥させた橙の皮をお願いしておいた。


「まさかこんなに揃えられるなんて......コウボウ様とルアキラ殿には感謝しかないです!」

「集めたものに使い道を見出してくださったのですから、我が師もきっとお喜びでしょう。あとは綿花をもっと大量栽培するようにと頼むんですね。産地に通達を出しておきます」

「ワシからは布団の作り方を伝えておこう。朝廷への献上品として食料ではなく布団を出せると知れば綿花の有用性も広まるじゃろう」


 こうやって俺の我儘から実際に広めるにはどうすればいいのかまで組み立ててくれる。

 周囲の大人たちにはいつも助けられてばかりだ。

 本人たちは好奇心のままにやってるだけのこともありそうだけれど。


 出来ることなら借りはなるべく返していきたいが、そうしようとする度に新たな借りが増えそうな気がする。


「二人とも本当にありがとう! もし俺に出来ることがあればなんでも言ってね!」

「ほう。なんでもと言ったな?」

「なんでもと仰いましたね?」


 テンションに任せてとんでもないことを言ってしまったかもしれない……。

 言質は取ったぞ。と獲物を捕らえた獣のようなギラついた目を二人から向けられたせいで背中に冷や汗が流れた。


 その後、ルアキラ殿からは独自で作っていた冷蔵庫や涼風扇の試作品を見せてもらい、新たに洋式便座の試作と改善案を出し合い、爺ちゃんとは延々と魔法有りの組み手をさせられた。


 いやほんと爺ちゃんレベルの戦闘の達人には、俺程度の奇襲策はほとんど通じない......というか引っ掛かっても大きく動じてくれないので困る。

 結局、回避して転げまわったり、転がされたりしたせいで帰り際には服がドロドロになってしまった。


 夕刻に洗濯物を増やしてしまって侍女や侍従に申し訳ない。

 次はルアキラ殿に洗濯機の説明でもして試作品を作ってもらおうかな......。


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