其ノ柒 比翼の雷
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「うおっ!? なんだこりゃ!! あの姿が俺か!?」
牛鬼の額にある鏡に映る自身の姿に驚くキント。
それもそのはずで金の髪は燃えるような赤に染まり、頭にはシウと似ている牛角が生え、背後には仏像のような輪状の光背が浮いているのだ。
さらに光背には人魂のような揺らめく炎を象った赤い雷が三つ浮かんでいる。
「な、何者じゃ、お主! 何をした!」
「へへっ。俺にもよく分かんねえけど、シウ姉が力を貸してくれてることだけは分かるぜ。お前をブッ飛ばせってな!」
軽く笑ったキントはオキヨに一瞬で肉薄すると頬を殴りつけた。
するとキントがこれまでとは全く違う手応えに驚くのも束の間、殴られたオキヨが結界の壁にぶつかって壁を構成する風と雷に苛まれる。
「ぎゃぁああ!! なっ、妖魔となった妾があんな小僧に!? あり得ぬ! 人を越えたのは妾の方じゃ!! はあっ!!!!」
口と糸疣から大量の糸を吐きかけるとキントは糸の波に飲まれた。
「やったか——なっ!? ばかな!!」
「こりゃすげえや。俺もシウ姉も雷属性のはずなのに纏った雷が糸を燃やしてらぁ」
雷属性には滅法強くなるように土と陰属性を込めて混ぜ合わせた特製の糸が呆気なく燃え尽きる様を目撃し我が目を疑うオキヨ。
「雷と火って、まるでアレス家のムラマル殿みたいだな。今なら越えてるかも? おっと? 時間も無いみたいだしさっさと倒しちまうとするか!」
現在の自身の全能感に若干浮かれたキントだったが、光背の炎が一つ消えたことでこの姿で戦える残り時間が迫っていることを察し、一気に攻勢に転じることにした。
「-剛弾拳-! これは今まで迷惑を掛けられて苦労した爺様たちの分!」
「へぶっ!!」
キントが高速で飛来し、正面からオキヨの鼻っ柱を殴りつける。
あまりの衝撃に背後の風壁で巨体が跳ね返り宙に浮いた。
「-赤雷角-! これはバンドーの戦乱で悲しんだ奴らの分!」
「ごへぇっ!!」
牛の角に雷を纏い、突き刺しながらも首を捻って更に跳ね上げるとオキヨの身体は錐もみ回転しながら天井の風壁に直撃。
重力のままに頭部から落下していくが、今の攻撃で絹糸線などの糸を生成する器官が損傷し、糸を作り出せなくなっていた。
落下地点には力を溜めるように身体を踏ん張っているキントが見え、オキヨは涙を流しながら断罪の時に怯える。
「これはオレ様やシウ姉たちの分だ!! -赤雷金剛撃-ぃいいいいい!!!!」
「ひぃいいい!!!! ぐぎゃああああああああああ!!!!!!!!」
いつの間にか残り一つとなった光背の炎が最後の力を出し尽くすように輪に沿って高速で回転し雷と炎を纏ったキントが両腕を突き上げて爆発的に跳びあがると、落下する牛鬼の身体を爆発四散させながら貫いた。
その様はまるで地上から天へと雷が昇ったかのようだ。
「ははっ! シウ姉、見て見ろよ! 天馬でもこんな高さまで飛ばねえぞ! すげー遠くまで見渡せる! でもフシ山の天辺はここより高ぇんだなぁ」
『キント、よくやったな。ありがとう。それから迷惑かけてゴメンな』
「いいって。夫婦になるんだからよ。そういう水臭いのはナシだ」
『夫婦ってお前、アタシはもう身体が無いんだぞ?』
「気にしねえ。オレ様がシウ姉と一緒に居たいだけだ」
『キント......』
空高く跳びあがったキントは結界の天井すらも貫いていた。
現在の高度は約1000m。一切加減せずに文字通り全力をぶつけたせいでこんな高さになってしまったのだ。
誰にも邪魔されない空の上で紫の玉となってしまった最愛の妻を優しく撫でるキント。
「なあ、ところでよ」
『ん? どうした?』
「どうやって地面に降りれば死なねえで済むかな?」
『このアホ!! なんか考えがあるのかと思ったら何にもねえのかよ!! どうすんだよ! せっかく父ちゃん母ちゃんの命と引き換えに助けてもらったのに、救われたと思った瞬間に未亡人の石ころなんてイヤだぞ!?』
自由落下していくなか、散々文句を言うシウにキントが頬を掻きながら苦い顔で謝る。
玉となったシウの魔力もキントの命素も最後の一撃にありったけを振り絞ったのだ。
飛行するというわけにもいかず比翼の雷に再び大地が迫っていた。
「誰かたすけてくれえぇええええ!!」
「≪天網恢恢疏而不失≫ ‐雷網‐」
「あばばばばばば!! ぐへっ!」
遥か上空から落下してきたキントを天馬に跨ったミチザが雷の網で掬い取る。
そのまま落ちても安全であろう高さまで運ぶと、敢えて地面に落とした。
「まったく。結界内部で凄まじい力を発揮して、剰えワシとミチナの結界を破るほどの威力でどこへ行くのかと思えば......我が孫ながら頭が痛くなるわい」
「親父殿の言う通りだ。家を出る前に一から鍛え直す必要があるか?」
「はぁーーー。このアホキント! 心配して損したわ!」
「あっはっはっは! いやー、ヨリツの息子どもはよくアタシを笑わせてくれるぜ!」
「妖魔牛姫の討伐ご苦労でした!」
身内の三人からは無事を喜ばれつつも呆れられ、テミス家の母子は労いと笑顔を浮かべている。
「して、シウはどうなった? ラスザキ達が逝ったのは結界越しに分かったが......」
「シウ姉ならここに。身体は戻せなかったけど、この紫の玉が今のシウ姉ちゃんだ」
「えっ!?」
「なんと......」
一転して暗い雰囲気が漂ったが、当のキントは魂魄が無事だったことを喜び、自分にだけではあるがシウの声も聞く事が出来るということで努めて明るく振る舞っていた。
だがそんな彼の様子に変化が訪れる。
『悪い、キント。力を使い過ぎたせいかめちゃくちゃ眠いんだ。暫く眠るけど許してくれよ......』
「シウ姉? 分かった! おやすみ」
またすぐに声を聞かせてくれるだろうと思っていたキントだったが、それから皇京へ帰還するまでの間、一度もシウは目覚めることは無かった。
■ ■ ■
バンドーで迎える最終日。
その日、不思議なことが起こった。
キント達の天幕の前で一体の姑獲鳥が死んでいたのだ。
その顔は自刃したキキョウと瓜二つであり、倒したと名乗り出る者は誰も居らず、姑獲鳥の卵だけが遺された。
「雌しか存在しない姑獲鳥は子を亡くした母の霊が変じたモノだとする説なんかもあるってツナが言ってたわね......」
「もし本当にそうだとしたらこの卵は託されたってことだよな」
「ならばワシが責任をもってクジョウ家に届けよう。生きた卵を確保するのに難儀しておるそうじゃからな」
ミチザは姑獲鳥の卵に直接触れないように何重もの布で包み、大事に懐に抱えた。
帰りは皇京からの援軍も率いての帰還だったので陸路で帰路に着く。
無事帰還した一行を、トール家の屋敷ではツナ達が暖かく出迎えてくれたのだった。
あとがき失礼します。
これにて『セイデンキ‐異世界平安草子‐』第一伝:幼少期は閑話も含め閉幕となります。
続編である第二伝:少年期は現在執筆中につき、毎日更新は一旦そこで中断させて頂きます。
ある程度書き上げ次第また公開する予定ですので申し訳ありませんが開幕まで少々お待ちください。
これまでたくさんの方に読んで頂けて、また★や応援で反応まで頂けてとても嬉しいです。(評価がまだの方は付けて頂けるとありがたいです)
今後とも拙作をよろしくお願いいたします。
蘭桐生




