百六十六話 エタケに合う武器
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爺ちゃんがバンドーへ向かってから4日後、クラマ山に珍しい客が現れる。
「兄様~~~!!」
「え? エタケ!? どうしてここに?」
「ふふ。私が連れて来ました」
「母様!?」
どういうわけなのかクラマにサキ母様とエタケがやってきたのだ。
キイチ師匠の計らいで今日の修行はここで切り上げて二人がやってきた理由を聞くことになった。
本堂の中で師匠と俺とサイカ、母様とエタケが向き合って座る。
「ツナは普段は自然の中で鍛錬に励んでいるのですね」
「先ほどまで戦っていた相手は式神ですか? エタケもやってみたいです!」
「ちょっ、二人とも遊びに来たわけじゃないんでしょ? 先に用件を伝えてよ」
二人に合わせると初っ端から脱線した会話になりそうだったので、話し続ける前に釘を刺しておく。
ここに居る全員がそれなりに忙しいはずだ。早く帰って欲しい気持ちなどは一切無いが、あまり無駄話をするのもよくないだろう。
「そうですね。ではエタケ、自分の口で伝えなさい」
「はい。その、エタケの闘い方に合った武器を考えて欲しいのです。そしてサイカ姉様にはそれを作って欲しいのです......」
エタケは俺が前世の動画投降サイトで覚えた武術やダンスなどの曖昧な情報を元にして、自身で踊脚術という新たな独自の武術を編み出した天才である。
本人曰く、神楽などの舞踊と手印のように戦いの最中に特定の動きを組み合わせ、自身の身体強化にさらなる補正を掛けるのだそうだ。
以前バンドーで見せた踊脚術の女郎花という魔法は、エタケの軽い体重であっても重撃を加えられるように脚力強化+踏んだ瞬間に相手への衝撃増加など、特定の動きを組み合わせて使っていた。
戦いの最中に最適な魔法を組み上げる、まるでプログラミングのような戦い方だ。
我が妹ながら末恐ろしい才能である。
「エタケ殿に最適の武器ですか。これはツナ殿に任せるのが良さそうですね」
「え! 俺ですか!? 師匠の方が良いのではありませんか?」
師匠の言葉に驚いて思わず反論してしまった。
前世世界の武器に比べればこの世界の武器は種類が少ないが、戦い方に合っているものを見つけるなどの場合は師匠のように経験豊かで観察眼の鋭い人物の方が良いと思うのだが。
「ツナ殿の持つ知識による発想力は某など足元にも及びませんからな。それに他人に教えるという経験によって自分も成長出来ますぞ」
「そうですね。キイチ殿の仰る通りです。現にツナがサダに渡した短杖はあの子の役に立っているでしょう? エタケに見合った武器も貴方が考案してあげなさい」
「せやせや。螺旋鉄矢の時みたいにツナ坊ちゃんが考えてウチが作ればええんよ」
「兄様ぁ。お願い」
「うっ。そこまで言われたら断りようがないですね。分かりました。エタケに相応しい武器を考えます!」
皆の期待に応えるためにも頑張らねば。
というかエタケの潤んだ瞳と猫撫で声での訴えは反則だよ。
多分最初にこれをやられただけで了承してた。
「では数日間、狒々を数匹お貸ししますので色々と試してみるとよろしいですよ」
「皆様、よろしくお願い致します」
師匠が許可したことでエタケも数日クラマに籠る事になった。
母様は家の事や近衛職があるので皇京に帰るようだ。
麓までは馬で来たようなので見送り向かう。
エタケは先に師匠たちに話があるようで、見送りは俺だけだった。
「ツナ。気付いているかと思いますが、こちらに帰ってからもエタケは戦場の記憶に苛まれています」
「やはり、そう、ですか......」
戦地で危惧していた通り、エタケはPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症しているようだ。
しかも良過ぎる記憶力が災いして、死ぬ間際の相手の顔や、見知った者の断末魔などが鮮明に思い出され、ずっと頭から離れないらしい。
俺も戦場では殺した相手から呪詛のような言葉を吐かれたこともあったが、大抵のことは憶えていてもそれ以上に仲間や家族たちを守れたことで上書きされている。
単純に言えば割り切ったのだ。
エタケの場合、記憶力による弊害もあるが、年齢的に精神がまだ幼いという部分が大きいのだろう。
なまじっか頭が良いせいで理屈的に考えてしまい、割り切ることが難しくなっているのだと思う。
「皇京ではもうあまり騒ぎになっていませんがまだまだ有事です。近衛職である私が屋敷でずっと一緒に居るということは出来ません。あの子のこと頼みましたよ」
「お任せください! 俺が絶対にエタケの心を救ってみせます!」
「ふふっ。ツナももう立派な男ですね。ではまた屋敷で」
「はい。母様もご武運を!」
エタケは俺の心を救ってくれた天使だ。
今度は俺があの子の心を守る番。絶対になんとかしてみせる!
母様を見送った後、俺はそう固く決意した。




