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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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百六十五話 飛び去った首級

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「そこ! 貰った!」

「キキッ!?」 


 ルアキラ殿と話してから数日後、俺は久々にクラマの山で修行に励んでいた。

 今日は軽めということで久々に狒々(ヒヒ)との組討術の特訓だ。


 クラマの山の中で汗を流しながら動いていると、ようやくいつもの日常が戻って来たと感じる。

 サイカやキイチ師匠にも無事の帰還を喜ばれ、温かく迎えて貰えたことが嬉しかった。


 そうしていつもの日々に戻り始めていた俺の下へ、急報の書状を咥えたコゲツが駆けて来る。

 その報せを読んだ俺は驚きのあまり自分の目を疑った。


 なんと書状には柒条河原(しちじょうがわら)で晒首となっていたはずのマサードの首が突然飛び去ったと書いてあったのだ。


「なんだそりゃ......」


 師匠たちに事情を話し、急ぎコゲツに乗って屋敷に戻ると、難しい顔をした爺ちゃんとルアキラ殿が話し合っていた。


「お話し中に失礼します。報せを受けて只今戻りました」

「おお、ツナ。丁度良い所へ帰って来た。お主を待っておったのじゃ」

「ツナ殿、お邪魔しております」


 二人に手招きされ俺も部屋の中で腰を下ろす。

 侍女が俺の分の白湯を置いて下がったのを見ると爺ちゃんが再び口を開いた。


「柒条河原で晒されていたマサードの首じゃが、どうやら誰ぞが刺さっていた矢を抜いたらしい。すると閉じていた眼を見開いて呪詛を吐きながら飛び去ったという話じゃ」

「矢を抜いたんですか!? あんなに深々と突き刺さっていたのに?」

「ええ。矢の方は既に回収済みです」


 どうやって抜いたかは分からないが、聞けば抜いた者は怖くなって矢を捨てて逃げたらしく、首台の下に落ちていたそうだ。

 そりゃ死んでるはずの頭部がいきなり動き出したら誰だってビビって逃げ出すわ。

 周囲の見物人も一斉に逃げ出した様で、飛び去る首が何と言っていたかしっかりと聞いた者は居ないという。


 ただ方角的にはバンドーの方へ飛んで行ったそうなのでこれから追跡部隊を編成して捜索するらしい。

 ミチナ様は一足先に天馬を借りてバンドーへと戻ったそうだ。


「矢はセンシャ様に陽属性を付与してもらっていたもので、最後にマサードへ射ったのはデサート殿です。矢が刺さると頭部だけが黒鉄から生身に戻っていました」

「彼も陽属性持ちでしたね。恐らく射る際には多くの魔力を込めたはず。刺さった際に何かを封じる形になっていたのかもしれません」


 俺が改めて矢が刺さった経緯を説明すると、ルアキラ殿がデサート殿が陽属性も持っていたことを思い出し仮説を立てた。

 あの矢によって何かしらの浄化や封印の力が働いたと見るのは俺も同じ考えだ。


「つまりマサードが蘇ったと見るべきか?」

「いえ、そこまでは分かりません。ただ首だけが動き出すとは考えにくいので今頃は胴体にも何かが起きていると推察します」


 爺ちゃんは考えられるうえで最悪の想定を述べた。

 考えたくないが再びヤツが蘇れば戦力の減っている今のバンドーで大きな火種となることは間違いないだろう。


 胴体はバンドーの地で愛妾だったキキョウやマサードを慕っていた生き残りたちによって埋葬されている。

 少し前まで敵対関係ではあったが彼女たちのことも心配になった。


 ミチナ様が一大事と判断して即座に追い掛けたのも頷ける。

 俺も焦りからかいつの間にか両手で拳を作り、きつく握り締めていた。


「ヨリツ達が心配なのは分かるがツナは留守番じゃ」

「でも!」

「ダメじゃ。じゃが安心せい。今回はワシが出る」


 俺の心情を汲み取った爺ちゃんから留守を言い付けられる。

 すぐさま反論しようとする俺を嗜めてニヤリと笑って答えた。


「はあ。言うと思いましたよ。ムラマル殿が皇京に戻られている今ならばミチザ様がバンドーへ向かっても文句はない出ないでしょう。セトウチの乱も新たに追捕使(ついほり)に任命されたヨシフ・オノ殿が海賊を徐々に駆逐していると聞いておりますし」

「はっはっは! そういう訳じゃ。ツナはクラマで己の鍛錬を続けるが良い。皆のことはワシに任せておけ」


 呆れたように嘆息するルアキラ殿と対称的に爺ちゃんは久しぶりに身体が動かせることを喜んでいるような意気軒高っぷりだ。

 まだ何も解決していないというのに「ワシに任せておけ」の一言だけで本当に安心してしまうのだから、やっぱり爺ちゃんは凄い。


「ご武運を。絶対に無事で帰ってきてね!」

「もちろんじゃ!!」


 バンドー行きの許可を捥ぎ取るべく参内する爺ちゃんとルアキラ殿の牛車(ぎっしゃ)を見送った俺は再度コゲツにクラマまで送ってもらった。


 コゲツもこれからまたバンドーまでの長距離を駆けるので大変だろう。


「お前も無事に帰ってくるんだぞ」

「ガウ」


 クラマに到着した俺は労いの意味も込めて猪毛のブラシで念入りにコゲツをブラッシングしてやると上機嫌で皇京まで帰って行く。


 飛び去るコゲツを見送った後、クラマ寺の本堂に入ると全員の無事の帰還を祈った。



あとがき失礼します。


 間も無く『セイデンキ‐異世界平安草子‐』第一伝:幼少期は閉幕となります。

 このあと『妹の病編』の後、バンドー動乱の閑話『首無し武者と牛姫』を七話に渡ってお送りしますが、続編である第二伝:少年期は現在執筆中につき、毎日更新は一旦そこで中断させて頂きます。

 ある程度書き上げ次第また公開する予定ですので申し訳ありませんが開幕まで少々お待ちください。


 これまでたくさんの方に読んで頂けて、また★や応援で反応まで頂けてとても嬉しいです。

 今後とも拙作をよろしくお願いいたします。


                     蘭桐生

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