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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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百六十一話 ミチナの策

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「何奴!?」


 背後からの声にマサードが振り向き様に剣を横一閃するが、声の主は既にしゃがんで懐へと潜っている。

 そしてそのまま水を纏った大きさの異なる両手を突き出してマサードの胴へと叩き込む。


 本来であれば大人と言えど身体を吹き飛ばされるような両掌が綺麗に決まっていたが、喰らったはずのマサードは不動だった。


「む。重いな」

「貴様程度の膂力ではビクともせんわ」


 余裕の笑みを浮かべたマサードが金色の剣を振り下ろすと不意打ちを仕掛けた人物は引き下がった。


「サモリ殿!」


 父上が名を呼ぶとサモリ殿は頷いて応えた。


「遅いぞ! サモリ!」

「すまない。本陣に居た影武者の相手をするのに存外手古摺ってしまった」


 ミチナ様が夫であるサモリ殿を睨みながら文句を言うと、サモリ殿はバツが悪そうに頬を掻いて謝罪する。


 これまでの戦いからサモリ殿にも影武者の攻略案は伝えてあった。

 それでもかなりの時間が掛かったという事は想定外の何かがあったのだろう。

 よく見ればサモリ殿の大鎧もあちこちボロボロでかなり苦戦したであろうことが伺えた。


「我が弟、マサータが敗れたか......」

「やはり特別な者だったか。今までと違い影武者が魔法を使うので苦戦したぞ。だが、この手で確かに討ち取った」


 寂寥感を含んだマサードの呟きにサモリ殿が答える。

 なるほど。魔法まで使っていたのか。

 しかも内功型。苦戦するのも道理だ。


「サモリ。他の連中はどうした?」

「配下の者たちはヤツに気圧されて近寄れなくなっていたので離れたところで待機している。かくいう私も先ほどまでは動くのもままならなかったほどだ。許してやって欲しい」


 その会話を聞いて気付いたが、父上たちの顔色も神威を浴びている中だというのに先ほどよりは遥かにマシになり、動きも精彩を取り戻している。

 さっきまでは無理やりなんとか動けていたという感じだったからな......。

 2度霧散したことで、マサードの纏っている神気がかなり薄まったようだ。


 父上とサモリ殿がマサードに接近戦を仕掛け、攻撃を回避や受け流しながら何かを探っているように見える。

 遠距離魔法を使っても母様とミチナ様が牽制、迎撃しており、かなり拮抗出来るようになった気がする。

 だがこのままでは消耗したこちらが押し負けるだろう。

 あと一手。あと一手だけでも何かが欲しい。


 四人の連携はお互いの動きを知っているようでかなりのものだ。

 今ここで俺が飛び込んでも逆に足手纏いになると分かる。

 一応、かなりの賭けだがもう少し長引かせることが出来ればこちらに勝機が戻る可能性もあるにはある。

 しかしこのペースで戦っていては予定の時刻まではもたないだろう。


「ツナ、策がある。手を貸せ」


 歯痒い思いをしている俺の耳元にミチナ様の風が声を運んできた。

 驚いて少し離れたところにいるミチナ様の方を見ると、ニヤリと笑ってこちらを見たミチナ様と目が合う。

 俺はこの状況を打破する何かがあるのだろうと確信し、大きく頷いて答えると策の内容を聞かせてもらった。


「サモリがあの鎧を剥ぐ。その後にアタシとヨリツ、サキ殿が大技をぶち込んでマサードの心の臓を穿つ。ツナには鎧が砕けた瞬間に懐に飛び込んで僅かで良いからなんとかアタシたちの詠唱する刻を稼いで欲しい」


 大技というと初日に見せてもらったあの魔法の組み合わせだろう。

 父上と母様の魔法はどれくらい掛かるのか分からないが大技ならば1分程度は必要かもしれない。

 神威が減衰したとは言え、未だこの国で最上位の強者が四人掛かりでも優勢に立ち回れない相手にどうすればいいのか。

 いや、それでもやるしかないのだ。


 先ほどまで以上に集中して戦いを観察する。

 サモリ殿は有効打にならなかったはずの掌に水を纏った掌打を続けていた。

 父上はそれを助けるようにマサードの剣を刀で受け流している。

 マサードの動きに俊敏さは無いが受け流された剣が地面に当たると拳一つ分の範囲が抉れる程の威力を持っているようだ。


 僅かな動きの癖なども一瞬とて逃さぬように雷神眼を全開にして見ていると、戦局に大きな動きがあった。

 サモリ殿の左腕にマサードの剣が触れてしまったせいで左腕を動かすための篭手の革が破れたのだ。

 裂けた部分からはしきりに水が漏れている。あの水が尽きればサモリ殿は左手を動かすことが出来なくなってしまう。


「ヨリツ殿! 少し早いが決めに掛かる!」

「承知した!」


 サモリ殿が父上に声を掛けて少し後ろに下がると、入れ替わるように父上が前に出てマサードに攻勢を掛ける。

 刀での攻撃は通らないが、背後や関節に掌打や蹴りで攻められるのは鬱陶しく感じているようだ。

 父上の相手をしたまま詠唱に入ったサモリ殿を止めに行くことをしない。

 取るに足らないと感じているのか、或いは何が来ても大丈夫だという自信の表れか。


 どうにも神気を纏った頃から慢心が見え隠れするようになっている。

 神の如き力に驕ってしまったとみるべきか、もしくは八百万の神々の中でも傲慢な神が力を与えたのかもしれない?

 

「≪滔々たる水よ 逆巻く大河の奔流よ 我が敵を深く深く沈めろ≫ -溺掌(デキショウ)-」


 詠唱を終えたサモリ殿が再び至近距離戦を仕掛ける。

 父上がマサードの剣を受け流すとその隙を突いて懐に飛び込み再び両手の掌打を見舞った。


「水よ! 溢れよ! はぁあああああああああああああ!!」

「む!?」


 サモリ殿が叫ぶとマサードの金色の土鎧のあちこちで色が濃くなっている。

 やがてそこに罅が入り、堤防が決壊するように溢れる水によって鎧が爆ぜ崩れた。


 機は熟した。今こそが俺の役目を果たす時だ。



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