百五十九話 爆炎
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「ヒユウは......動けそうにないか。荷だけ貰っていくぞ」
2つの大瓶を受け取るとマサードの下へと走った。
全能感に酔い痴れて居るのか自身の身体を見ては何かを確かめるように感嘆している。
途中でシラカシの側を通ったが今回は完全に意識を失っているようだった。
俺を見たマサードが神威の中で自由に動ける事に驚いたのか目を見開く。
「何故動ける!? 不敬者めが!!」
「これでも喰らってろ!!」
マサードが右手の掌を此方に向けると、金色をした岩が生成されて俺に向かって飛んで来る。
大瓶を投げ込み、飛来する岩を躱そうとするが間に合わない。
「-向風-!」
金色の岩が着弾と同時に爆裂し、辺りに破片が飛び散る。
咄嗟にミチナ様が強い向かい風を俺に浴びせてくれたので、それを利用して足先に力を入れて後ろに跳び直撃だけは避けた。
「がっ! ぐはっ!」
「「ツナ!!」」
背中から落下して身体中に痛みが走る。
聖痕の焼けるような痛みのせいで他の痛みは無視出来るかと思っていたが、そんなに都合良くはないようだ。
父母の口惜しさと心配の混じった叫びが響く。
二人はなんとか立ち上がろうとしているが、両手両膝を付いており、先ほどよりも神威の影響を受けてしまってるようだ。
ミチナ様も今の岩の破片が当たってしまったのか、額から血を流して倒れている。
幸運にも俺の外傷は擦り傷しかないが、危ないことに鎧に金色の岩の欠片が突き刺さっていた。
ふと試しにソレを外して噛み付いてみる。
前世で歴史の教科書で見た小判の金含有量を調べるために噛んだという小話を参考にしてのことだ。
歯形は付かない。だが、歯で擦っても下に岩が出て来る様子もない。
金色をしているが材質は金ではないのか?
だが鍍金でもないようだ。
マサードを見ると俺の投げた大瓶の片方が直撃し中身を浴びたようで、金色の姿の3割程が真っ黒に汚れている。
もう片方の瓶は外れてしまったようでマサードの足元で割れていた。
「神を汚辱するとは万死に値する! 神罰を受けるが良い!」
「自称の神に言われても神罰なんぞ怖くないわ!」
マサードの背後に無数の金色の土槍が生成される。
強がったもののあれら全てを避けきるのは自信が無いぞ。
黄金槍群が飛来する。
さすがにヤバいかな!?
「-紫電雷嵐-!」
1秒後には槍が俺を貫くかという瞬間、紫電を纏った二刀流の武者が目の前に立ち、豪雨のような槍の雨を二刀を嵐のように振り乱して捌き切った。
その軌跡は無軌道な光の奔流。
無数の蛍の残光のように眩しくも美しい剣技だった。
「父上......怪我を......」
「気にするな。親は子を守るものだ」
俺の前に立ち全ての激しい槍の雨を防ぎ切った父上の身体には数本の槍が刺さっており、至る所に傷を負っていた。
防ぎ切っていたのはあくまで俺への被弾だけで、自分の身体に当たるものは致命的な箇所以外は無視していたようだ。
うっ。と呻いて片膝をつく。
よく見れば父上が手に持ったトール家の守り刀である膝丸はボロボロになっていた。鬼切丸はそこまで酷くは無いが、再びあの槍の驟雨を防げるかと言われれば不可能だろう。
「≪大空を 照りゆく月し 清ければ 雲隠せども 光けなくに≫ -清光蓮華-」
いつの間にか傍に居た母様が父上に陽属性の治癒魔法を掛ける。
詠唱もあって効果はかなりのものであっと言う間に目立った外傷は無くなっていく。
刺さっていた土槍も魔法をかけて貰っているうちに父上が自分で抜き、抜いた側から傷口が塞がっていく様は自然の摂理など無視したようなものだった。
さすが部位の欠損すらも治してしまうと言われる陽属性の治癒魔法だ。
これがある為に医療技術が進歩しないのも仕方なく思える。
陽属性なのに月光の詩とはこれ如何に? とか細かいことは今は気にしてはいけない。
「すまんな。サキ、助かった」
「いいえ。ヨリツ様の力になれることが私の喜びです。よくぞツナを守ってくださいました」
「ふっ。こういうことでもなければツナには父らしい姿をあまり見せてやれんからな」
仲睦まじいな。
みんな生き残れればまた弟妹が増えるかな?
いかんいかん。
命の危機に瀕したせいか生存本能が刺激されてか変なことを考えてしまった。
集中しないと。
「-風牢-」
大技を放った後の隙を突いてマサードが気絶のフリをしていたミチナ様の風の牢に閉じ込められる。
地面に落ちてしまった黒い液体も巻き上げられて風によって拡散し黒い風のドームが出来た。
「みんな伏せて! -雷珠-」
声に反応し父母とミチナ様がすぐさま地に伏せる。
俺が伏せると同時に雷珠を放つとマサードを覆っていた黒いドームが爆発を起こし炎があがった。
「≪彼岸と此岸の境を分けよ 平穏無事な極楽浄土 大いなる嵐の力で以て何者からも封じて守れ≫ -嵐封結界-!」
爆炎があがると同時に炎諸共、嵐の結界に閉じ込められる。
幾つかの手違いはあったものの、もとよりミチナ様と打ち合わせをしていた作戦通りだ。
これはマサードから身を守るために時間稼ぎに使っていた結界の強化版。
対象を選択して守る事が出来る魔法のようだ。
それをマサードに使ったことで出る事の出来ない爆炎の牢獄となった。
「結界が保てるのは半刻だ。その間に焼け死んでくれれば御の字ってとこかね」
「いえ、おそらく生きていますよ。結界の中だからか減衰しているものの発せられている神威に大きな乱れがありません」
「ところであの黒い水は一体なんだったのだ? 何故あのような爆炎が起きた?」
「あれは草生水という液体で燃える水として朝廷に献上されたこともあるそうですよ。エチゴ国で採れるそうなのでミチナ様に主上へと採取の許可を得る書状を出してもらったのです」
草生水。つまりは原油だ。
ヒノ国にも自然と湧き出ている箇所があったらしく、俺が『アイデアノート』に書いた再現してみたい物一覧の中でガソリンの説明をした時にルアキラ殿からその存在を教えてもらった経緯がある。
エチゴ国は皇京からすれば遠いがミドノ寺のあるコウズケ国から天馬で行けば往復4日で帰って来れる場所らしい。
雪深い場所だと聞いたが今年は暖冬で雪が少なかったようでまだ冬開け前の如月でも余裕で行き来できたそうだ。
まさかその役目をサキ母様が受けるとは思っていなかったが。




