百五十四話 首魁登場
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「本隊が背後を突かれた!? それで被害は?」
「正面より迫る敵軍と戦闘中でしたので後衛ばかりのところへ攻め込まれ、陣形は崩壊しました。総大将様が防御の魔法で刻を稼いでおられます!」
危機的な状況じゃないか。
それにしてもいくらマサードの本拠地だからといって簡単に背後が取られ過ぎている。
事前に追い詰められた時はこの地を戦場にすると決めてしっかりと準備していたのだろう。
「ち、兵部権大輔殿にはもう伝えたのか?」
「はい。権大輔様はすぐにこちらを片付ける。ヨシツナ殿には先に救援に向かって欲しいと仰せでした!」
やはり父上はこちらを片付けてから向かうか。
少数とはいえ放置すれば背後を狙われるからな。
「承知した! ただちに救援に向かう! かなり飛ばすが火と水の使い手は俺の馬を見失わぬよう死に物狂いで付いて来い。 土と風の使い手も疲労はあるだろうが本隊の危機だ。急げよ!」
「「「はっ!」」」
俺はシラカシに鞭を入れるとミチナ様の下へと急いだ。
今回も手綱は鎖にしてあるのでシラカシの筋力強化を行っている。
人馬一体は父上にもやり方を説明したが、鎖に電気を通した後の馬の体内での細かい操作までは無理だと言っていた。
昔サキ母様たちに教えた電気治療と同様に両型だからこそ出来るのだろうと教えられたが、それを明らかにすると色々と厄介な事になるため、内功型の高度な技術で行っていることにしている。
数分で後続が見えなくなってしまったが、事は一刻を争うので蹄跡を辿ってくれることを祈るほかない。
更に数分後、前方に風の壁に覆われた本隊の姿が見えた。
その周囲を黒鉄鎧を身に着けた数百の敵兵が包囲している。
魔法が切れた瞬間に襲い掛かる気のようだ。
速さを重視して単騎で駆けつけたものの、一人であの中に突っ込むのは少々荷が重いか。
だからといってこのまま自分の部隊の到着を待っていても徒歩なので10分以上掛かるだろう。
やはり単騎特攻しかない。
そう結論付けるとシラカシの鞍に結び付けていた薙刀を右手に持って覚悟を決めた。
気持ちが揺らいで尻込みしてしまう前に大きく息を吸って、腹の底から声を出す。
「我こそは征伐軍右翼部隊副将のヨシツナなり! ありがたく思えよ臆病者どもめ! わざわざ首の方から来てやったぞ! 無論タダではやらん! 代金は貴様らの命だ! 散々毟り取った後は踏み倒させてもらうがな!」
薙刀を掲げて大見得を切ると、風の結界を包囲していた敵兵が一斉に此方を向いた。
「ヨシツナ? どこかで聞いた名だな?」
「あ、あれは! 八騎跳びのヨシツナだ!!」
「騎馬から騎馬へと飛び移っては武者を斬り殺したっていうあの化け物か!?」
「お、おれは飛び移った馬の首を喰い千切ってまわったって聞いたぞ!」
「俺は刀から毒を撒き散らすって聞いた!!」
八騎跳び......兄妹を逃がす殿を引き受けた時に討ち漏らした敵兵がそんなことを言っていたな。
あの時の生き残りが吹聴したのか変な綽名が付いてしまっているようだ。
......ちょっと噂に尾鰭が付き過ぎてるんじゃないか?
毒刀を使ってたのはヤシャだし。
しかし今はそれが追い風になっている。
その恐怖心を利用させてもらおう。
「その通り! 俺こそが八騎跳びのヨシツナ様よ! この薙刀には触れた者を苦しめて殺す猛毒が塗ってある! 死にたくないやつはさっさと逃げ出すことだ!」
俺は勝手に付いた綽名を利用し、薙刀の刃に竹筒から水を掛けてもう一度大きく掲げて名乗り上げた。
「ひっ!」
「い、いやだ、毒なんかで死にたくねえ!!」
俺の声が聞こえた敵が怯え、どよめきが敵陣に伝播する。
数名が逃げ出そうと包囲部隊に背を向けた瞬間。
好機と見た俺は雄叫びをあげながら人馬一体となって突っ込んだ。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
「う、うわぁあああ!!」
「き、きた! 逃げろ! 毒薙刀が来る!」
「待て! 逃げるな! 誰かアイツを止めろ!!」
気勢はこちらにあるとはいえ、一対数百。多勢に無勢。
闇雲に動き回っても疲弊して数に潰されるのは火を見るよりも明らかだ。
なので狙うは騎馬で指揮を取る武将のみ。
馬上にて右手に持った薙刀を槍のように脇に挟んで身を屈め、電光の如き速さで距離を詰めることで狼狽する敵将の首へと薙刀の刃を突き入れるようにして滑らせる。
両手に付けた黒鉄手甲で防がれれば止められたかもしれないが、俺の突きはその暇を与えずに頸動脈を切り裂いていた。
「くおっ!」
立ち止まるのは危険しかない。
シラカシを反転させ両後ろ脚を上げて蹴りを放つと、鈍い音をあげて敵将は首と口から血を吐きながら馬上から吹き飛んだ。
即座にその場から離脱する。
あまりの早業に敵兵の理解が追い付いておらず、地面に落ちた敵将が三度ほど痙攣して絶命すると、やっと理解が追い付いたのか蜘蛛の子を散らすかのように我先にと俺の周囲から逃げ出した。
残されたのは忠義に厚い兵と武将。
やはり黒鉄鎧を身に纏っていても数合わせの兵はかなりの数が居たようで、大体3分の1が走り去った。
それでもまだ百を超える敵が居る。
再び武将に狙いを澄ませて突っ込むと、黒い影が間に入ってその突撃を受け止めた。
「なにっ!?」
「散々荒らしまわってくれたようだな。小童め。此度の戦はどうもお主らのような小童どもに邪魔をされてばかりだ」
俺とシラカシの突撃を受け止めたのは、馬ごと全身に黒鉄を纏った男だった。
馬上で戦うためか隆々とした上半身とそれに比べるとやや細身な下半身という少々不均衡な体型。
黒鉄鎧に描かれた金色の九曜紋が眩しいが、そこには父上が付けたであろう大きな刀傷が斜めに残っている。
そう。この男こそ今回の反乱の首魁。
土の両型使い。バンドーの虎こと本物のマサード・イラだった。




