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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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百三十九話 大敗走

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「バンドー各地の国府軍、魔神鬼、複数のマサード、そして謎の肉塊......。ったく! 一度に幾つ面倒事が起きてやがるんだ。今は撤退してコウズケの本陣に居るキキョウに詳しく話を聞く必要があるな」


 俺たちの報告を聞いたミチナ様が苦々しい表情をしている。

 最初に魔神鬼によって出鼻を挫かれたのは大きな痛手だ。

 お飾りだったとはいえ総大将が討ち取られ、とてつもない殺気を浴びたことによる恐慌は兵達に甚大な被害と混乱を齎していた。


 なんとか体勢を立て直しマサードを討ち取ったところに、新たな敵軍と討ち取ったはずのマサードと思わしき人物が再び現れたのだから士気の低下は計り知れないものになっている。

 ここまで立て直せたのは兵の練度もあるだろうが、大部分はサモリ殿とミチナ様の手腕のおかげだろう。

 ほとんどは生粋の兵士ではなく半農半兵なのだから、二人が居なければ今頃は潰走していてもおかしくはなかったはずだ。


 俺個人としては最後に遭遇した謎の肉塊が一番恐ろしい相手という印象がある。

 一瞬とはいえ魔神鬼を超える威圧もそうだが、ヤシャですら詠唱を必要とした転移を僅かな時間で発動することが出来てしまうのだ。

 身体に憑りつかれた状態で使われると残された死体のように部位ごと切断される可能性もある。まあ、俺がそれで狙われなかったのであくまで可能性の話ではあるが。


 危険性は伝えたが目撃者が俺だけということもあり、余計な混乱を避けるため今はこの場にいる者が頭の片隅に留めておくことしか出来ないと言われてしまった。


「それが良いかと思われます。後方から迫っている敵軍に追い付かれると完全に瓦解してしまうかと。私が聞いた肉塊の話もどこまでが真実なのか疑わしいですし」

「うむ。ムサシ、サガミの国府軍をアタシの大魔法で足止めして一気に撤退だな。デカイのを使うからアタシは反動でしばらく動けなくなるだろう。サモリを前線から戻してまた指揮権を譲っておいた方が良さそうだな」


 現在サモリ殿は前線でマサードと思われる人物と一騎打ちを行っている。

 入り婿の彼は放出型しか産まれぬテミス家にとって唯一の内功型だ。

 うちの父上と同じように近接戦闘で真価を発揮する人物らしい。


 俺はミチナ様に太刀を返し、キント兄とサダ姉を乗せた荷車を本隊に保管されていた積荷用の縄でシラカシへと繋いだ。

 シラカシには俺とエタケが同乗する。


 ここまで荷車と繋がなかったのはシラカシの体力を考えてのことだ。

 もうこの馬は今日だけで何度も活躍してくれている。

 無理をさせている気はするが、葦毛の天馬のヒユウはミチナ様を乗せている為、他にコイツほど頼りになる馬は居ないのだ。


 もう一頭の青毛の天馬であるヒテンは魔神鬼の威圧による墜落の際に前脚と首を骨折し瀕死の状態となっており、手の施しようがないと判断されその場で安楽死させられたと聞いている。


 せっかくミナ殿が無茶を言ってまで天馬を貸して頂いたのに死なせてしまうなんて最悪だ。

 皇京に帰ったらミナ殿に謝らないとな。

 帝に謝罪するのはミチナ様や父上に任せる他ないが。

 口先の得意な貴族たちからは恰好の攻撃材料になるのが腹立たしくも痛いところだ。


「フトイ川まで押し返せ! 征伐軍の底力を見せよ!」

「「「応!!」」」


 最前線でサモリ殿が号令を出している。

 相手のマサードと思われる人物はミチナ様によって馬を潰されたようで替えの馬を用意していた。


「第一遠距離攻撃部隊! 魔石を使って詠唱開始! 第二、第三は魔法と矢をバラ撒いて第一を援護せよ!」

「「「はっ!」」」


 数百の矢と魔法が敵兵を襲う。

 即座に応射する敵の魔法と相殺し、戦場の空には幾つもの魔法の残滓が散った。

 衝突を逃れた魔法と矢は弓なりの軌道を描いて敵陣に降り注ぐ。

 ミチナ様は後方から遠距離部隊に指示を出すと自分も大魔法の詠唱に入っていた。

 

「≪彼岸と此岸の境を分けよ 内は極楽 外は地獄 大いなる風の力で以て我が敵を封じ給え!≫ -大風結界(タイフウケッカイ)-」

 

 ミチナ様が両掌を合わせ大魔法を発動すると戦場に暴風が巻き起こる。

 その強風は渦を巻き、敵軍を包み込んだ。

 敵味方の間に暴風の境界が生まれ、抜け出そうとすることも外から近付こうとすることも出来ない風の壁となる。

 台風の目のように中心は安全圏なので外側で強風に煽られた兵達が自然と安全な内側へと集まってしまうらしい。

 魔神鬼を相手に散々魔法を放ったせいで大した魔法は出せないと言っていたがこれは足止めには十分だろう。


「今だ! 第一魔法部隊! 川に魔法を放て!」


 先ほどまで詠唱をしたまま魔力を溜めていた第一部隊が魔法をフトイ川に放つと土や風など様々な属性の魔法の壁によって一時的にではあるが川の水が堰き止められ、流れを気にせず渡れるようになった。


「川を渡れ! コウズケまで全速力で撤退だ!」


 サモリ殿の号令と共に征伐軍は撤退を開始した。

 魔法隊が戦っているうちに他の兵は荷車の荷を捨てさせ、負傷者を乗せるなどの撤退準備を整えていたようだ。

 行軍速度を優先するため馬の無い者は鎧を脱ぎ捨て卯月の寒空の下だというのに鎧直垂や褌、襦袢姿で走っている。

 完全な敗走だ。


「どうよ。アタシの大魔法は。つっても殺傷力もねぇし、そんなに長くは持続も出来ないんだが」

「いえ、お見事です。おかげで追撃されながらの撤退という最悪は免れました。それに撤退経路もムサシ国内を突っ切るなんて思いもしませんでしたよ」


 低空飛行のヒユウの馬上で合掌状態を維持したままぐったりとしているミチナ様がこちらに自慢気な顔を向けている。

 魔神鬼と戦った後にしばらく休んでいたとはいえ、一人であの規模の魔法が使え、今もまだ維持しているというのだからとんでもない命素量の持ち主だ。

 撤退の逃走経路もマサード軍はともかく、ムサシ国府軍からすればまさか自領内を強引に通り抜けるなんて想定しなかっただろう。


 頭で美辞麗句を考える前に自然と口から称賛の言葉が零れていた。


「へへっ。やっぱツナは顔に出やすいな。ここだけの話だが命素量が多いのはテミス家当主にのみ伝えられる秘伝の技ってやつのおかげだ」

「秘伝ですか......」


 なるほど。秘伝の技。

 命素量を増やしているのか? いや、回復が速い?


 技の内容については他にも幾つか可能性が考えられた。

 しかし凄い技とはいえ、初日に見たミチナ様の本気の魔法を使った後の反動や今の疲労具合から見ても肉体への負荷が相当あるものなのだろう。

 当主にしか教えないというのも単なる優位性を保つための機密保持よりも他者が気軽に使うと危険だとかそんな理由もありそうだ。


 こういう秘伝の技って家ごとにあるものなのかな?

 うちにもそういう当主だけが受け継ぐような秘伝があったりするんだろうか。


 俺たちは馬上でこれまでのことを議論したり考えを纏めながらも、行きと違いムサシ国内を無理やり真っ直ぐ突っ切って撤退を続け、間に何度か休憩を挟むことで2日掛けて進軍して来た道を僅か20時間ほどでコウズケのミドノ寺まで引き返すことに成功した。



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