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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~修行編~

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十二話 狩る者と狩られる者

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 月曜になりクラマ寺にやってきた。

 キイチ師匠はルアキラ殿から雷神眼について実験したことを文で知らされているらしく、土曜はお疲れ様でした。と憐憫の篭った眼差しを向けられた。


「さて、本日からは本格的な実戦訓練に入りたいと思います。狒々と戦う事に変わりはございませんが、今回の狒々は逃げ回りはしませんし山中に配置されている様々な武器を使いますぞ。どんな武器に相対しても対応できるような間合いの見切りや特徴を掴んでくだされ」

「はい!」

「某が知る限りの武器を配置しておりますのでツナ殿も色々と触って手に馴染むものを探してみてくだされ。≪来たりて望んだ形と為せ≫ -急急(キュウキュウ)如律令(ニョリツリョウ)-」


 何時もの如く師匠が形代を取り出して呪文を唱えると大鎧と言われる甲冑を身に着けた狒々(ヒヒ)が現れた。


「今回は一対一ですが、武器の配置役としてもう2匹呼び出しておりますのでそちらは攻撃する必要はございませぬ。大鎧を着けて居ないので見分けやすいかと」

「わかりました! ありがとうございます!」


 では、ご武運を。と開始の合図を告げると何時ぞやと同じように師匠は木々の上を跳んでいった。


 開始と同時に近場の武器を取りに走る鎧狒々を追いかける。鎧狒々が大太刀に手を伸ばそうとした瞬間、指先辺りで電撃を起こすと鎧狒々は一瞬怯んで手を払った。

 すかさず詰め寄ると、鎧狒々は大太刀を諦めて別の木に立て掛けてある木刀を掴んだ。


「まずは出鼻を挫いたかな。それにしても大太刀なんて俺にはデカすぎるよな」


 鎧狒々が諦めた大太刀を掴むものの、自分の背より40cmほど高いうえにその重量も中々のもので3歳児の体躯で扱うには取り回しが非常に厳しそうだ。

 とは言っても、既に木刀を掴んだ鎧狒々がこちらに迫っているので他の武器を取りに行く余裕は無い。

 大太刀を寝かせて両手で鞘から刀身を抜くと案の定その重さが厄介だった。


「一太刀だけ浴びせられれば牽制にはなるか?」

「キィ―!!」


 木刀を振り上げて迫る狒々に対し、両腕でなんとか抜刀した大太刀を全身を使い持ち上げて上段からの振り下ろしを仕掛ける。

 突撃中に相手から攻撃をされれば躱すか武器で受けるしか無いはずだ。


 重さのせいで思った以上に速度が乗った俺の振り下ろしを木刀で受けるも木刀に大太刀の刃が深く食い込む。

 真っ二つとはいかなかったが、これでも重畳。


 俺は大太刀から両手を離し、雷身と名付けた身体強化魔法で素早く動き、右手で足元の鞘を拾うと鎧狒々の顔面目掛けて突きを放つ。


「せいっ!」

「キィ!?」


 鎧狒々は咄嗟に身を捻り左肩の大袖で俺の突きを防いだ。

 ガンッ! と鈍い音とともに態勢を崩し転がる鎧狒々だったが、使えない木刀を捨て去ると次の武器を取りに走った。


 決定的だと思った一撃は防がれてしまったが、雷神眼と雷身を使ってここまではこちらのペースで対処が出来ている。


「今日中にケリがつけられるかも」


 ここで油断してしまったせいで奴が次に取る武器を妨害できず、その後3日間も苦戦を強いられることとなる。


 鎧狒々が次に手にした武器は長弓だった。


■ ■ ■


「クソ猿がぁ! 木の上から弓矢で攻撃なんて卑怯だろ!」

「キィ」


 どんな武器が相手でも何とかなると思った。

 弓相手でも矢を回避すれば番えるまでの間に間合いを詰めればいいと考えていた。

 あの大鎧で木の上に登る可能性があることを想像できなかったのだ。

 油断、慢心、想像力の欠如。

 まさに後悔先に立たず。


 矢が尽きれば降りてくると考えていたが、矢筒が配置される位置は木の上だったのだ。

 あの大鎧のまま枝から枝へと移動して矢を補充してはこちらを狙ってくる。

 狩る者と狩られる者になったワンサイドゲーム。


 この修行では盾は配置されておらず、木々を背にしても樹上を渡っていつの間にか回り込まれている。

 飛んでくる矢に対しては雷神眼はあまり意味が無く、飛んでくる矢の風切り音が聞こえた時には雷身で回避行動を取らなければ服に穴が開く。


 だが、この三日間で間合いや発射の間隔は掴んだし、失敗に終わったが配置されている別の長弓を手にして射られた矢でこちらから反撃できないかなども試した。

 俺自身は新たな魔法の試みもしている。


 今日は最終調整。

 勝負を仕掛ける本番は明日だ。


「ふーーーーーー。-雷捜(ライソウ)-」


 樹上に腰かけ、より深く集中するためにいつもより深く大きく呼吸する。

 意識を研ぎ澄ませ、まるで自分が精密機械になったような思考で両手に持った暗器の鉄串に意識を集中し電流を流す。


 想像するのは電気を流すことで起きる電界と磁界。電磁誘導、電磁波、電波。

 深く深く意識を想像の中に落としていく。

 極限まで集中していると無数の反応があることが分かってくる。

 そこから電気の流れている物だけに絞り込む。


 反応の大きい2つは武器を配置している狒々、小さな幾つかは野生動物。

 そして目的の鎧狒々の生体電流を捕捉したところで受信を止める。

 頭の中に大まかな距離と位置関係の二次元マップが想像される。


「ふぅ。これは今のところ30秒が限界だな」


 電波を用いて対象を探知する雷捜だが、意識を集中して深い瞑想状態に入るまでが5分以上掛かるので無防備を晒す余裕が無い限りは使えず、情報処理の過剰負荷から使った後の頭痛が酷いため、使用後10分はまともに戦えない。


 導入までの時間短縮を考えると簡易アンテナになりそうな道具でも作るのがいいだろう。

 頭痛も悩みの種だが、生物以外の除外処理を大きさで条件づけて最初から小さいものは探知しないならもう少しマシになるだろうか。


 まあそれらは追々として、今は鎧狒々がどの辺りで攻撃してくるのか位置を探れれば十分だ。


「さっきの位置ならもう少しで相手の射程圏内に入るな......移動しないと......」


 幹に手を回し勢いを殺しつつ、ずり落ちるようにして樹上から落下し、這う這うの体で木の裏に回り込む。

 これでまた5分は稼げるだろう。

 もし仮に鎧狒々が長弓を捨て接近戦に持ち込んできても、奥の手はまだ残しているので頭痛が治まるまでの時間稼ぎにはなるはずだ。


 そのまま頭痛が治まるまでズルズルと木の周りを這い廻り続けてその日は時を稼いだ。


■ ■ ■


 翌日、鐘の音と共に鎧狒々の矢が飛んできた。

 今日も飽きずに樹上弓術で戦う気らしい。おそらく奴は慢心している。

 安全な位置から一方的な攻撃を出来ると思い込んでいる。

 付け入る隙だらけだ。


 俺は追い込まれたフリをして昨日も背にしていた木に近寄った。

 鎧狒々はここから約200mの位置で狙撃してくる。

 長弓の射程は400mにも及ぶこともあるらしいが、奴にとってこの距離は矢の威力を殺さない状態を維持できるベストなポジショニングなのだろう。


 まずは一矢目を風切り音を頼りに雷身でギリギリ躱す。

 次の矢を番えて放つまで6秒弱の間がある。


 そのまま矢が飛んできた方向に全力で走り、70m程近付いたところで二矢目を雷神眼で視力を上げて目視で躱す。


 更に70m程近付くがこの距離だともう反射神経では躱せない。

 只管ジグザグに走って狙いを付けさせない。


 残り30m......前方の樹上に鎧狒々の姿を捉える。

 奴の弓が、弦が見える。


「射程内に入った」


 矢を構える鎧狒々の長弓の弦の一部に断続的な電撃を与えて弦を痛める。

 奴が弓を振り絞ったところで弦が切れた。


 突然のことに呆けた顔をしている鎧狒々を視線の先に捉えたまま更に間合いを詰める。

 木の幹を蹴って枝へと飛び乗り、奴の懐に潜り込むと、右手で腰に佩いてあった半分の長さに切断した大太刀の鞘を抜き、鞘口を鎧狒々の顔へと向ける。


「キ?」


 鎧狒々は俺が何をしているのか理解できていない顔だった。


「バン」


 銃声を真似ると同時に鞘に電流を流す。

 鞘に3か所程ぐるぐる巻きにしてあるのは先日試した時に千切った長弓の弦。それに鉄串を削った鉄粉を付着させてある。簡易の鉄線コイルだ。鞘の中には鉄串が装填してある。

 鉄線コイルは電流を流すことで電磁石となる。

 中学知識レベルで作ったなんちゃってコイルガン。

 3か所の簡易電磁石で加速され勢いよく飛び出した二本の鉄串が鎧狒々の左目と左頬に突き刺さる。


「ギィイイイ!!」


 痛みと驚きから態勢を崩し鎧狒々は枝から足を踏み外して落下した。

 3m程の高さからの落下なので恐らくまだ倒すに至っていない。

 俺はトドメを刺すために飛び降り、落下の勢いのままに鞘の石突で鎧狒々の喉を穿った。


「ギィイイイイイイイイイ!!!! ............ゲゥ......」


 鎧狒々は断末魔の叫びをあげると、ボンと煙になって形代に戻った。


「ふぅ......。師匠、次は一つの武器に固執しないように調整お願いしますね。様々な武器を使ってくるというよりはただの弓使いでしたよ」

「おや、居るのがバレておりましたか」

「毎回すぐ出てくるので先んじてカマを掛けてみただけです」


 いつの間にか俺の背後に現れていた師匠は「これは一本取られましたな」と笑って調整を約束してくれた。


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