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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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百十六話 使い手の見えぬ氷槍

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「さっきの兵もそうじゃが、いきなり大声を出すでない! やや子に響いたらどうする!」

「それは申し訳ありません。が、今の話は真ですか!?」

「うむ。マサード様が戦を起こす前に医者から聞いたぞ。春頃には産まれるかもしれんと言うておった」


 マジかよ。身籠ってんのかよ。

 しかも春ごろ産まれるって十月十日で考えて妊娠中~後期くらい?

 そんなので戦場に出て来るなよ!


 マジであの時に斬らなくてよかった~。

 殺した相手が後から妊婦だと分かるみたいなのは多分まだ俺の精神がもたないよ。

 咄嗟にジン流で使った技が腹じゃなくて顎を狙う方だったのもグッジョブ俺!


「さ、左様ですか......。ちょっとミチナ様に報——っと!」

「きゃっ! なんじゃっ!?」


 天幕の中に”起こり”を感じて咄嗟にキキョウを抱き寄せて地に伏せる。

 1秒後にはついさっきまで彼女が居た場所を氷の槍が貫いていた。


「敵襲ー!!」


 俺は伏せたままそう叫ぶとキキョウが捕まった時の着物が入った籠を掴んで”起こり”が起きた場所へと中身を撒き散らした。

 バサッと着物や帯が飛び出したがそこには誰も居らず、飛び出した着物類が床に散乱した。


 よし。相手の能力は透明化ではないな。

 雷神眼で生体電流を補足出来ないような特殊な擬態をした暗殺者ではないようだ。

 ”起こり”から氷の槍が現れたなら、転移系の何かを使ったと見て良いだろう。


 転移も結界と同じく魔術具による補助や出来る事の制約が大きい。

 更に使用する魔力が膨大なため、自前の結界内などではない限り無闇に乱発出来るものでは無いはずだ。


 しかし転移もそうだが氷とは珍しい。

 水と火、相剋関係にある2属性を上手に融合しないと作れない高度な魔法だと聞いた覚えがある。


 さて、問題はこれからどうするかだが”起こり”を消してしまうと相手や周囲に俺の能力が露見する可能性がある。

 出て来る直前に回避に入って直感で避けているように偽装するしかないか。


 それよりも今探るべきは敵の位置と敵がどうやってこちらの位置を把握しているかだ。

 この天幕内にキキョウの場所を特定する何かがあるはず。 


 俺は雷神眼に集中して天幕内をくまなく探る。

 しかし天幕内には虫一匹とて見つからない。


 そうしていると俺の叫びを聞いて先ほど出て行った女性兵が戻って来た。

 俺が女性兵の表情を備に観察すると、目を見開いて突き刺さっている氷や俺たちそして天幕内を見回す。

 何が起きたのか分からないといった顔をしている。


 恐らく白かな?

 先ほどの恨みで殺そうとしたというわけではないようだ。


「ミチナ様の元まで避難します! 周囲の警戒を頼みます!」

「はっ、はい!!」


 俺は女性兵に護衛を頼み、床に散らばったキキョウ様の着物から単衣を二枚掴むと一枚をキキョウに羽織らせ、もう一枚を自分で羽織って狙いがどうなるかを調べる。

 俺と彼女を二人同時に狙う場合は遠視の手段を持っている可能性が高くなる。

 相手の術が分からない以上、可能性があるものをいくつも潰していくしかない。


 そうしてキキョウの肩を抱いて天幕から移動を開始すると、彼女の数歩先に”起こり”が生じた。

 グッと肩を引き寄せて俺が下敷きになる形で倒れる。


「ひゃっ!」


 俺としてはお腹には最小限の衝撃で済む様に庇ったがキキョウも自分で腹を抱える様にして守ったので大丈夫だったと信じたい。

 

 先ほどまで彼女が居た場所を目掛け、地面から丸太のような氷柱が斜めに生えていた。

 あのまま躱さなければ腹の赤子もろとも串刺しになっていただろう。

 しかしこれで分かったことが一つある。

 恐らく相手の探知手段は遠視ではないことだ。

 遠くから見ていたのでは単衣を羽織って並んで歩く俺とキキョウの区別は付かないだろう。

 勿論、顔の見分けが出来るほどのとんでもない遠視なら別だが。


 彼女自身が何か居場所の特定に繋がる物を持っているか、呪詛的なもので位置を割り出されているかだが、羽織らせる際に素肌の見えている部分には特に呪印などは浮かんでいなかった。


 彼女に繋がるような何か......。

 俺は暗殺の際に逃げ出した小型魔獣が居たことを思い出した。


「キキョウ様! 何か魔獣と意思を疎通する際に身に付けるものなどはありますか!?」

「え、ああ、この魔石のついた腕輪が——」

「ご無礼お許しを!」


 腕輪を見せられた瞬間にそれを外すと誰も居ない地面へと放り投げた。


「な、何をするのじゃ! あ!!」


 キキョウが俺に怒りをぶつけると同時に放り投げた腕輪の下に”起こり”が生じ、そこから現れた氷柱が腕輪を砕いた。


「キキョウ様、魔獣と同化できる最大距離は!?」

「ま、魔鷹が30町、魔兎が20町じゃが......」


 遠視が3.3㎞で盗聴が2.2㎞か。

 改めてヤベェ能力だな。


 本陣からウスイ湖まで大体で約1.7㎞はある。

 盗聴のためにキキョウ様がわざわざウスイ湖まで来る必要があったのは分かった。

 恐らく逃げた小型魔獣を捕まえて繋がっている魔石から腕輪の魔石の位置を逆探知したのだろう。


 よほど盗聴や遠視なんかに精通していないと無理だろそんなこと。

 相手も魔獣使いか? もしくは耳目のような暗部?


 逃げた魔獣は盗聴用だから賊は2.2㎞圏内に居るか。

 暗殺に成功したと思って逃げ出したとしても、転移魔法+攻撃魔法を3発も撃ったんだ。

 そんなすぐには遠くまで移動できんだろう。


「コゲツ!! この山周辺に怪しい奴が居ないか確認してくれ! 危険な相手だ! 手は出さなくていい! 見つけたら報せに戻って!」

「ガァア!」


 今日の作戦には参加していないコゲツに大声で指示を出すとコゲツは吠えて答えてくれた。

 本当に頼もしい家族だ。


 確認すると腕輪ごと魔石は砕けていたが、念のためしばらくキキョウに付いておく。

 本当に暗殺に成功したか確認しに来るような相手だったら”起こり”の見える俺が回避させないといけない。


 騒ぎを聞いて駆けつけたミチナ様に事の次第を報告すると、まず妊娠していたことに驚いていた。

 濡れた服を着替えさせたときはただ太り気味なだけだと思ったそうだ。

 実際に脱がせた女性兵も運動をしない貴族の姫によくある肥満体型だと思ったそうで気付かなかったという。


 隣で聞いていたキキョウは恥ずかしさと怒りから顔を赤くして俯いていた。

 喚き散らさないだけ従順になったということかな。


 装備を整えてから30分程経った頃、少し離れた山林からコゲツの吼声が響いた。



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