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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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百十二話 敵将暗殺

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 俺の一声に野営地の兵が立ち上がりキョロキョロと辺りの様子を見ている。

 夜霧でいまいち何が起きているか把握できていないところに空から小さな土塊や微弱な雷を纏った丸太が降り注いだ。


「うわぁ!!」

「なんだ!? 敵!? どこだ!?」

「頭を守れ! 魔獣使いの嘘吐きめ!」

「何も見えん! 痛っ!」


 土塊はレヒラ嬢率いる土属性の使い手がなるべく広範囲になるよう小さな飛礫を放っている。

 丸太は特別部隊が伐採したものを力の有り余っていたキント兄が投げ込んでいる。

 微弱に雷を纏っているのは万が一俺に当たらないように配慮してくれているためで、それを考えついたのはエタケで付与しているのはサダ姉だ。


 野営地は混乱に包まれており、兵同士がぶつかって鎧がガチャガチャと鳴っている。


「静まれ!! 大した攻撃ではない! 狼狽えるな! 近くに敵は来ておらん! 味方に当たるので刀は抜くな!」


 混乱する中で一人大きな声で冷静に指示を出す男が居た。

 あれが俺の狙うべき将だろう。


 近くに降って地面に突き刺さった丸太に飛び乗ると、邪魔な鎧を脱ぎ去った。

 身に着ける装備は篭手と具足と短刀だけだ。

 土塊が痛いので頭には気休めに頭巾を巻いておく。


 雷神眼に集中し、瞳を閉じた。

 周囲の生物の生体電流だけが見えるが今はこれで十分だ。


「シンタウ流 -水切(ミズキリ)-」


 丸太から飛び降りて下に居る兵達の兜を水切りの石の様に跳び越えていく。

 指示を出している将の背後に飛び掛かるとその背に”起こり”を感じた。

 流石だ。この闇の中で迫る俺の気配に気付いたか。

 

「-(ゼロ)-」

「なっ!? かひゅっ!!」


 背後に魔法を発動し俺を仕留めようとしたようだが、俺の無効化魔法によって魔力の段階で霧散する。

 驚き振り向いた時にはもう遅く、背中に飛びついたと同時に右手の短刀で喉笛を切り裂いた。


「悪いね。こっちも必死なんだ」

「こふっ、がふ......」


 誰にも見られてはいけないとルアキラ殿に念を押されていた魔法だが、この暗闇の中、多少の灯りがあったところで俺の魔法に気付いた者は本人以外居ないだろう。

 男の背を蹴ってまた周囲の兵の足元へ潜り込む。


「ハルモ様!? クソッ!! 誰か不審者を捕らえよ!」

「大将が討たれた?」

「暗殺者はどこだ!」

「ハルモ様の仇!!」


 俺が敵将を暗殺したことが闇の中で広がり、あちこちで刀を抜く音が聞こえる。

 次に狙う所は既に目星がついているため、敵兵達の足元を掻い潜って目的の人物の下を目指す。

 いつの間にか飛来する土塊や丸太は収まっていたが、次はベタつく温い雨が降り始めていた。


「チ流-地走(ジバシリ)-、テン流-朧雲(オボログモ)-」


 皇京八流剣術の技を駆使して闇夜を走り続ける。

 チ流の普段よりもさらに身を低く構えて斬りつける技とテン流の集団の中に飛び込み敵を搔き乱す技を組み合わせることで敵には傍に居た味方に斬られたと勘違いする者が出始めた。


「はっ!? 血!? 斬られた!!」

「待て! 俺じゃねぇ!」

「テメェが暗殺者か!?」

「お前こそ!!」


 ぶつかり合ったことで周囲に漂う鉄臭さから温い雨を血飛沫だと勘違いしたのか剣戟の音が増々大きくなる。

 魔法を使っている者も出始めたようだ。


 そんな同士討ちの喧騒に乗じて目的の人物である魔獣使いに近寄った。

 怯えて蹲っている様子から恐らく天幕の中だろう。

 傍らにはあの時に見逃した小型の魔獣の姿もある。

 俺は目を開いて天幕の位置を把握し、布を切り裂いて中に転がり込んだ。


「女!? ジン流 -(ユラギ)-」

「ひっ! 誰っか......」


 ジン流は対魔獣の剣術だが止むを得ずに人と戦う場合もある。

 そんな時には人を斬らずに制圧する技を用いるのだ。

 揺は相手の顎を刀の頭や鞘の鐺で叩いて脳を揺らし脳震盪で気絶させる技である。


 さっきの武将の命は奪えたのに怯える女性は斬れなかった。

 術者が気を失ったからか、魔獣は天幕の外へと逃げ出す。

 俺は短刀と鞘を天幕の中に捨て、気絶した女を背負うと段々と薄くなっている夜霧の外へ向けて飛び出した。


 夜霧の外は月明りに照らされており、他にも抜け出せた何人かの兵達が湖で顔を洗ったり、霧内から仲間を引き摺り出したりしている。


 俺はそんな連中を無視して勢いよく湖に飛び込み、湖面に浮かんだ丸太を組んだ筏を目指す。

 本来であればひっそりと峠道を登るのが第一案だったが、峠を抑えられるなどでそれが出来なかった場合の第二案として湖に浮かべた筏からコゲツに回収してもらう案を用意していた。

 人を抱えたままでは山道を進めるとは思えず第二案を選択する。

 寒中水泳などやりたくは無かったが、自分の甘さが招いた事態なので仕方がない。

 飛び込んだ俺の様子を見ていた兵達は何が起きているのか分からないとこちらを見たまま動きが止まっていた。


 対岸から様子見していたコゲツが俺に気づくと急いで筏の上に着地する。

 そのまま咥えられ筏の上に引き揚げられた俺は魔獣使いをコゲツの背に乗せると本陣へと戻った。



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