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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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百十話 矜持無き殺戮

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 消火を終えて第二陣であろう四百人程が到着した。

 先行部隊と同じように馬に水をやったりして休んでいるが明らかに天幕が足りていない。

 それにまだマサードは来ていないので第三陣が本隊で残り四百と共に来るのだろうか?

 もしくは拠点から動かない可能性もあるか?

 だが、その場合は峠が今日1日で落とせないと攻撃部隊の黒鉄の鎧の付与が切れるぞ?


 もう少し観察していたかったが時間的に先行の二百がそろそろ防衛部隊と戦闘を開始しただろう。

 狭い峠道での防衛戦なのでそちらに加勢する必要はないとは思うが念のために戻ることにした。


 特別部隊の待機場所に戻ると眼下では敵の騎馬が馬防柵に阻まれてかなり侵攻が遅れているようだった。

 柵を破壊しようと下馬したところへ空中から飛来した雷の玉が直撃し武者が一人また一人と倒れ込んでいく。


 サダ姉の独壇場だな。

 雷対策をしていると思って濡れさせておいたのは余計なお世話だったかもしれない。


 そのうち面倒になったのか、騎乗したままの者にも命中するようになり、その場合は乗っていた馬が暴れて周囲の兵にも被害を出している。

 ただ暴れ馬は柵にぶつかり命と引き換えに柵を破壊することもあるようなので出来れば下馬した者を処理していく方が確実ではないだろうか。


 追加で20発ほどの雷の玉を使ったことで疲れたのか最後に敵列の真ん中辺りに真上から波状の雷を放って大量の暴れ馬を生み出して撤退した。

 活躍したサダ姉だが途中から魔力制御にムラが生じて荒くなっていた。

 最初と同じ量で使えば後数発分は撃てただろう。

 集中力の持続が改善点だな。


 サダ姉が敵に混乱を巻き起こしたのを皮切りに父上とキント兄やエタケが山の斜面を駆け下りて敵部隊の先頭に躍り出た。

 エタケは黒鉄の鎧の繋いでいる部分を短刀で切り離し、倒れている敵から黒鉄の鎧を剝いでいく。

 キント兄はそれを受け取ると身体強化を掛けた膂力で石合戦の様に全力で相手に向けて投げつけて敵兵を一人また一人と減らしていく。


 黒鉄の鎧には黒鉄の鎧を物理的にぶつけるという恐ろしい攻撃だ。

 兜に直撃したやつなんて首の骨が折れてたぞ。

 二人にこれ以上やらせまいと突っ込んで来た兵は父上によって鎧に守られていない部分を斬られて倒れ伏している。

 魔獣や対魔族、対人などこれまでの実戦経験で培われた凄まじい剣技だ。


 前列が瓦解し中列は未だ混乱の極みにある為に逃げられず、後列は何が起きたのか分からず待機するのみ。

 完全にこちらに流れが来ている。


 倒れ伏している者の中に偶に生きている者が居るがエタケは不意を突かれても全て冷静に対処できている。

 先ほどの者などはおそらく死んだふりでエタケを人質に取るつもりだったのだろうが、襲い掛かった瞬間に顔面に膝蹴りを喰らって意識を刈られていた。

 いやほんとあの子はどうしてああなった。


 敵の中列が落ち着きを取り戻し始めた所に上空から矢が降り注いだ。

 サダ姉と天馬を交代したミチナ様だ。

 反撃の届かない程の上空から一矢一殺で鎧で保護できない目などを正確に射貫いている。

 

 そろそろ異常性に気付いた後列が逃げ出すか。

 ここで俺はレヒラ嬢に指示を出し峠を塞ぐ壁を最後尾に生成してもらう。

 恐怖に駆られた敵は馬を捨て斜面を逃げようとするがそこにはいつの間にか回り込んでいたサモリ殿と八十程の部隊が展開していた。


 せっかくの最強の防御力を誇る鎧も斜面では重く邪魔な装備でしかなくなり転んだり倒れたりした者たちを次々に組討術で首に短刀を突き刺して仕留めているようだ。

 というか敵に倒れる者が多いと思ったら、よく見れば斜面の木々の間にロープを張ってるよ。

 えげつねぇ......。

 昨日の恨みが込められてるな。


 昼を向かえる頃には先行の二百名がほぼ全滅したか。

 数名は斜面を転がって逃げ延びた可能性はあるけれど。


 第二陣がこちらへ進んで居るのが見えた。

 その間もサモリ殿達は鎧を剝いでいく。

 

 青毛天馬のヒテンに乗るミチナ様に頼まれてリノブ嬢が同乗した。

 色々と察したのでコゲツに乗って急いで糧秣庫から秣、つまり馬の餌となる干し草を取って先ほどの敵兵の死体が並ぶ通りに撒いた。

 こちらの人数は馬も含めて昨日かなり減らされているからな。糧秣が余っているので利用しない手はない。

 ついでに丸太を作る時に出た生木の枝や葉っぱも撒く。


 敵の第二陣の四百名が到着すると先ほどと違い相手は進んでこない。

 レヒラ嬢が土魔法で作った壁に穴を空けて踏み込んだ先があまりにも異様だったことに気付いたのだ。

 草木の下の死体を見て先行部隊が本当にやられたことを察したのだろう。

 敵は罠を警戒して足を止めた。


「≪大いなる風よ 我が敵を捕らえて逃がすな≫ -風牢(フウロウ)-、-暴風之矢(ボウフウノヤ)-」

「-送火(ソウカ)-」


 ミチナ様が魔法を使うと峠道に風が舞った。

 そしてそこに上空から炎を纏った矢が放たれる。

 敵兵たちを囲うように舞う風は周囲の干し草を巻き上げ、巻き上がった干し草は次々に引火していく。

 するとあっと言う間に周囲は火の海になり生木や葉、周囲の死体をまとめて焼き始めたことで白煙と異臭に包まれる。


「げほっ! ごこを突破ずるぞ! 続げぇ!」

「前が見え˝な˝い!」

「何処に˝向かえば良い˝んだ!?」

「ごほっ! ごっほ!」


 白煙により視界が塞がれ、異臭で喉や鼻をやられる兵達。

 前世なら鉄則の火事の際は身を低くして鼻と口を塞ぐなんていう避難の知識を持っていないので馬上という高い位置で酸欠に陥り判断力が低下している筈だ。


 そのうちに煙の渦の中で一人また一人と落馬していく音がする。

 その誰もが一酸化炭素中毒や窒息によって絶命しているのではなかろうか。

 運良く斜面を転がり落ちた者は先ほど同様にサモリ殿達の手に掛かっていることだろう。

 先頭の数名は煙から抜け出したところでミチナ様の矢の的になって倒れた。

 これは技と技、力と力のぶつかり合いなどという綺麗事ではなく、生きるか死ぬかを掛けた殺し合いだ。


 そこには誇りも矜持も何もない。

 磨き上げた剣技も弓の腕前も意味をなさない。

 滅ぼされないために只管目の前の敵を狩るのみ。


 土壁より先に進んだ哀れな二百名程はほとんどが苦しみながら死に絶えたことだろう。

 後ろの二百は前方から聞こえる阿鼻叫喚と立ち昇る白煙に恐れをなして撤退した。

 こちらもこれ以上の連戦は厳しいので是非とも第三陣に恐怖を伝播してくれることを願う。

 

「戦なんてするもんじゃない」

「守るためには仕方ないこと」

「やらなければやられる」


 レヒラ嬢とネヨリ嬢の言い分は尤もだ。

 俺も家族を守るためにどうしても必要があるというのなら魔神とも組むかもしれないしな......。


 マサードが真皇を僭称してまで立ち上がった理由は未だに分かっていないが民を思うが故に。というのは動機として弱い気がする。

 人は少なからず自分の身近に何かが起きない限り行動には移せない生き物だ。

 異国の地で虐げられている人々の為に自分の命を投げ出してまで行動しようと思えるのはほんの一部の例外だけ。

 マサードがその例外という可能性もあることはある。


 まあ今更理由が分かった所でどうなのだという話ではあるのかもしれないが、少なくとも俺はマサード本人とは組めるならば組むべきだと思っているが。

 


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