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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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百八話 敗戦

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「サモリに浄化を掛けるのは間に合ったんだが、此方の動きが読まれていた。既にマサードが待ち構えてやがったんだ!」

「そんな! 密偵はコゲツが狩ってくれたはず! それにマサードがこちらに居たのですか!?」


 マサードがコウズケに居たとなると黒鉄の鎧が健在だった説明は付く。

 だが、逆にヒタチでキント兄を撃退した人物は誰だったのかという話になる。

 密偵にしてもそうだ。単にコゲツが討ち漏らした者が居たというだけだろうか。

 余程隠れるのが上手い密偵が居るのかと俺が思案しているとミチナ様はヒテンの鞍に括りつけていたものを見せてくれた。


「コイツだ。鷹の魔獣を使って監視してやがった」


 見せてくれたものは頭を矢で貫かれた魔鷹(マヨウ)だった。

 体長は1m程だろうか。

 魔鷹と言っても普通の鷹とそこまで大差が無いように見える。

 魔獣使いが魔鷹の目を通して監視していたのだそうだ。

 そんなのよく気付いたな。


「魔石の付いた足輪を付けていたからな。怪しいと思って射貫いたら魔鷹だった。後はお前たちが魔獣と一心同体の魔獣使いと戦ったという報告があったおかげだ。敵はコイツの目を通して監視しているのだと思い至った訳だ!」

「なるほど。それで他に魔鷹が居ないか探していたのですね。サモリ殿たちはご無事ですか?」

「サモリと側近は正気に戻ったが四百人全ては巫女一人で何とか出来るものでもなかったからな。正気に戻ったサモリからアタシも浄化を受けるべきだと言われた時はイラついて太刀を抜きそうになったぜ! ははは!」


 感情が増幅されるだけで操られたりしている訳ではないものな。

 冷静になって客観的に物事を見たサモリ殿も色々と気付いたのだろう。


「とりあえず遠距離攻撃を放ちながらウスイ峠まで撤退だな。アタシも最初に大技で騎馬数百を足止めはしたが果たして何人帰ってこれるか......」

「サモリ殿でさえ疲れと怒りに染まってしまっていましたからね......。恐怖や逃げ出したいという感情が増幅されてくれれば良いんですが」

「まあ、此度は負け戦だな。甘んじて敗北を受け入れるしかねえ」


 ミチナ様と共に峠の中腹に構えられた陣地に戻ると父上がやって来た。

 

「ミチナ様、ご無事で何より。ツナ、例の策の首尾はどうだ?」

「ヨリツ、よく術者を看破したな。本陣を此方に移したのも英断だ」

「只今戻りました。テミス家のお三方のおかげで三百五十騎ほどに仕掛けられました。数日繰り返せば効果が見えるかと」


 二人は三百五十という数を聞いて目を見開いた。

 もしこれが上手くいけばミチナ様が奇襲で吹き飛ばした人数に匹敵する程の鎧を無効化出来るからだ。


「アレで効果があるのか不明」

「母上様の命令だから従うのみ」

「効果が無ければツナは玩具」


 共に策を実行したはずの三姉妹から辛辣な評価を受ける。

 確かに即効性のある効果じゃないけども、信じてもらえないのは辛い。


「ははは! 散々な言われようだな! なら効果があればウチの娘の一人と縁談を組んでやろうか?」

「いえ、謹んで辞退いたします。お三方には常に揃っていて欲しいと思いますので三人で頂を目指してください」

「ぶはっ! あははは! こりゃ傑作だ! アタシより娘たちのことをよく見てるじゃねえか!」


 ミチナ様の揶揄いに三人全員を皇后に据えようと画策していることを知っていた俺が丁重に断ると吹き出すほど大笑いされた。


 そりゃ断るだろう。

 もし三姉妹の誰かと婚儀を結んだとして、残り二人が皇后になったりでもしたら神皇家とも縁戚になってしまう。

 しかも皇后と同じ顔を持つ妻が居るなんて厄介事に巻き込まれる可能性しかない。

 トール家や妻になる三姉妹の誰かにそんな迷惑を掛けたくもないし、一人だけ離されるのも可哀想だ。

 彼女らは三人一緒に居るのが一番だと俺は思う。


 ミチナ様も有力家にバラバラに嫁がせる計画がご破算になってから三姉妹の気持ちに改めて気づいたんだろうな。

 だから一緒に居れるように全員を皇后にしようなんてことを考え付いたのだと思う。


「はぁ~。笑った笑った。ツナのおかげで負け戦だってのに気落ちしなくて済みそうだ! ちなみに此度の敗戦の責はアタシにある。トール家は出陣していないので黒星は付いておらん。異論は認めん」

「お待ちを! それは——」

「異論は認めんと言ったぞヨリツ!」


 ミチナ様は敗北の責任を一人で被ると宣言した。

 恐らく味方の士気を下げ過ぎないようにするためだ。

 トール家が援軍に来ても勝てなかったという空気を出さないようにしたいのだろう。


 マサードがヒタチに居たという誤報? を伝えたのはキント兄たちだし、感情に流されたのはサモリ殿、術中に嵌っていることを見破れなかったのは我が家も同じ、しかもその原因は首級を持ち込んだ父上にあると捉えることも出来るというのに。

 父上とは違うがミチナ様のこれもまた一つの将器の形なのだろうなぁ。


 俺が感服しているとサモリ隊の伝令が駆けつけた。


「伝令! サモリ隊は本隊の百五十七名を残し潰走しました! 恐慌に陥った者や逃亡した者はかなりの数が居る模様ですが散り散りになっているため総数の把握などは困難です!」

「そうか......。ご苦労だった。浄化を受けてしっかりと休め」


 疲れ切った伝令が告げた悲惨な報告に先ほど笑い飛ばしていたミチナ様の顔色が曇る。

 一旦解散となり、俺は再びコゲツを労っていた。


「何度も連れ出してごめんな。お前は本当によくやってくれているよ。ありがとう」


 湯に浸けた布で足裏や毛の汚れを落とし、猪毛のブラシで撫でてやると気持ちよさそうに欠伸をした。

 翼についた汚れを手で払って付け根の部分を揉んでやると気持ち良かったのか寝息を立て始めた。


 眠っているコゲツの穏やかな寝顔を見ているとなんだか俺も睡魔に襲われてそのままコゲツの毛皮をベッドにして眠ってしまった。


 峠に吹く風の寒さに目を覚ますと辺りはすっかりと日が落ちていた。

 陣地のあちこちには篝火が焚かれており、風が強いので天幕は中央に纏まって配置されている。

 

 これは夕餉を食べ損ねたな......。


 腹の虫が煩いので干し肉だけでも分けてもらおうと食料を管理している天幕を目指すと周囲から啜り泣きや怒りの声が聞こえて来た。


 ああ、そうかサモリ殿の本隊が戻って来たのか。

 今朝まで五百居た兵が百六十程になったんだものな。

 知り合いや親類縁者を殺された者も多いのだろう。


 俺はいたたまれなくなって再びコゲツの傍に戻る。

 コゲツは近寄る気配に気付いたのか一瞬だけピクッと反応したが、俺だと認識したようで再び寝息を立て始めた。

 夜風で冷えるが天幕に戻る気にはなれず、今夜はここで明かそうと横になっているコゲツのモフモフのお腹側の毛に抱き着いて眠ると今回は風除けに翼を被せてくれた。

 頼りになるうえに気の利く子だ。

 コゲツの温もりを感じながら再び眠りについた。



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