百七話 三姉妹とツナの策
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「ツナ、本当なのか? 術者の正体が彼の者だというのは」
複数名に陰魔法の影響下にあるような兆候が見られたことから、本陣周辺で術者を探させていた父上が俺に尋ねる。
「はい。恐らくですがヤツに違いないかと。それに父上も巳砦で覚えがありませんか?」
「確かに。あの時は首を飛ばした死体が動いたんだったな。ならば今回は討ち取った首級が陰魔法を掛けた元凶だということか」
「はい! 父上がお討ち取りになったネアキラ・タージが仕掛人かと思われます!」
首箱に納められているネアキラの首級を指差し父上に告げる。
既に物言わぬ犯人は静かにこちらの言葉を聞くのみだが。
そして術が掛けられたのはミチナ様に毒息の頭と共に献上されたあの時だろうと推測し、父上とサダ姉が術中に掛からなかったのは、あの後に掠り傷などを巫女たちに陽属性魔法で治癒してもらったからではないかと話した。
命素量が僅かな俺は治癒を受けても大した効果がないので、受けずに身を清めてさっさと寝てしまったからその違いが出たということか。
逆にそんな俺が何故陰魔法の影響を受けたのかは謎ではあるが今は答え合わせのしようがない。
一応術者の特定が終わり、あの時にあの場に居た者で陽属性の治癒を受けていなかった者たちが巫女たちから念のために浄化を受ける。
「これでこちらは問題ないだろう。そうだ! ミチナ様も浄化を受けて貰わねば!」
「下手すれば一緒になって拠点を攻めている可能性もありますね!?」
最悪の予想をした俺と父上はすぐさま部隊を纏めると、全軍でウスイ峠を越える決断を下した。
「ツナ、我らは峠の中腹で陣を張る。テミス家の三姉妹と共に例の部隊の指揮を取れ!」
「謹んで拝命致します! リノブ殿、レヒラ殿、ネヨリ殿。よろしくお願いいたします!」
「やっと出番!」
「体調は万全!」
「おねーさんたちが居れば大丈夫!」
父上から指揮権を一部移譲されて、特別部隊としてテミス家の三つ子姉妹と共に前線を目指す。
こちらに移動してからも治癒魔法を受けたことで三姉妹の怪我もすっかり治っているようだ。そのおかげで彼女たちも陰魔法の影響を受けなかったのかもしれない。怪我の功名というやつか。
天馬にはリノブ嬢、ネヨリ嬢が乗り、コゲツには俺とレヒラ嬢が同乗した。
コゲツには負担を掛けるが今は頑張ってもらうしかない。
俺たちの外には十五人ほど部隊員が居るが、そちらは陸路で峠越えをしてもらわねばならないために別動隊として父上たちと共に進軍するように命じた。
彼らの引く荷車一杯には中身を詰めた麻袋と魔石が積んであり、その中には昨日倒した毒息の魔石も含まれている。
騎獣の四人で先行して前線へ向かうと、まだ遠いが前方から大声や金属のぶつかる音などが聞こえて来た。
「ミチナ様は間に合わなかったか!」
「「「母上様、父上様......」」」
三人が両親を心配した声を漏らす。
その気持ちはとても分かる。
だが戦場で別のことに意識を取られ過ぎないように部隊長として声を掛けた。
「お三方! ご両親が心配な気持ちはよく分かります! ですが此度はこの部隊での活動が主です! 策の実行に集中してください!」
三人同時に一瞬だけむっとした表情を浮かべるが、納得して頷いた。
「これで効果が無かったら」
「ツナは一生私たちの玩具」
「遊んであげるから覚悟して」
怖いことを言わないでほしい。
効果が出るとは思っているが、即効性のあるものでもないし。
というか三人とももう嫁ぎ先が決まってたはずだけど?
そう思って聞いてみると思わぬ答えが返って来た。
「援軍を求めたら断ったので破談にした」
「マサード軍の最初の攻勢で相手が死んだ」
「敵方に与しているから恐らくこの戦の後に家が取り潰される」
なんだそれ!? 切って正解な薄情な家だったり、どこかで聞いたような話もあれば、てかネヨリ嬢は敵方にお相手が居るの!? 戦えるのかそれ......。
「戦で活躍すれば平気平気」
「母上様は私たちを皇后にするつもり」
「夢の一家に三后」
ミチナ様はこの戦で三姉妹に戦果を挙げさせて全員を帝に売り込むつもりなのか!?
一人じゃ大した戦果にならずとも、三人合わせて良いなら英雄のような戦果になるかもしれないけども!
そんなのありなのか?
てか、めっちゃ乗り気だな。
やっぱりバラバラに嫁ぐよりも三人で一緒に居たいんだろうな。
さっきの話を聞いた限りでは皇京の有力な家とかイラ家とかに売り込んで縁談を進めていたんだろう。
今回の件で色々とご破算になったから、この騒乱を利用していっそこの国で一番上を狙おうって魂胆か。
ヤススの件もそうだけどミチナ様は権力欲が逞しいな。
三姉妹もミチナ様の意向には素直に従う方ばかりみたいだし。
ウチの姉妹とは全然違うな。
一番若いのなんてまだ7歳だってのに既に自分は誰とも婚儀を結ぶ気はないとか言ってるんですよ......。
マジでなんでなの。
っといけない。三姉妹に注意した癖に自分が余計なことに気を割いていた。
前線が見えて来たことで気を引き締め直す。
眼下では黒鉄の鎧の兵が東正鎮守府勢の遠距離攻撃をものともせずに騎馬で突き進んでいる。
「では、作戦通りに!」
「「「任せて!!」」」
まずはコゲツが地面スレスレまで降下する。
俺の後に乗っているレヒラ嬢が土魔法を使いやすくするためだ。
魔法は魔力で土塊を生成する事も可能だが、それよりも既にある同じ素材を利用するほうが命素の節約になる。
地面の土を使うことが出来る土魔法が大規模な魔法を使いやすいのにはこういった理由があるのだ。
「-石礫-、-風送-」
突撃に向かう黒鉄の騎馬軍団の横っ腹に周囲の土を無数の小さな礫に変えて風魔法で勢いを増して射出する。
「うお! なんだ!?」
「顔だけ守れ! 鎧がありゃ喰らわん!」
「右手側に孤立した敵がいるぞ!」
「本陣に奇襲を掛けて来た虎のバケモンだ! 絶対に逃がすな! 囲め! 囲め!」
小さなものを範囲を広げて発射したので二百程度の騎馬の向きがこちらに向いたようだ。
カンカンと石が黒鉄の鎧に当たる音が段々と近付いているが、ギリギリまで石飛礫を続ける。
「レヒラ殿、攻撃の手を徐々に緩めてください。コゲツ、川辺まで引き寄せて!」
コゲツは騎馬を引き付けたままウスイ川の川辺まで低空を走る。
あくまで追わせるのが目的だ。
騎馬弓兵が矢を射掛けてくるが雷神眼による視力強化で矢の軌道を見切っている俺の指示で左右へと的確に回避している。
見えている限りでは鏃には黒鉄を使っていないようだ。
昨日奪った太刀も普通だったしな。
そうこうしているうちに川辺に誘い込めた。
相手は此方を追い詰めたと思っているようだが。
確かに一対二百は普通に考えれば分が悪い。
そこに葦毛の天馬のヒユウに乗ったネヨリ嬢とリノブ嬢が現れた。
「大漁だ -水球-」
「これ混ぜちゃうね -竈火-」
ネヨリ嬢が川の水で作った大きな水の塊に、リノブ嬢がヒテンの鞍に積んでいた麻袋の中身をぶち込んで火の魔法で加熱する。
「じゃあ、やっちゃおう -小雨-」
ネヨリ嬢が天高く両手を掲げると水の塊が空へと昇り、俺たちを半包囲していた騎馬兵に温水の雨が降った。
「なんだ? こんなもの痛くも痒くもないぞ!」
「なんだこれは? あったけぇがベタ付く雨だ」
「ぶぇっ! しょっぺぇ!」
「あ! 逃げたぞ!」
俺たちは兵達が不思議な雨に困惑している隙に川を飛び越えて空へと逃げる。
第1回目としては二百も釣れたので上々ではないだろうか。
未だにこの行動に何の意味があるのかと疑問を持っている様子の三姉妹を無視して次は逆のツクモ川沿いで同じ行動を仕掛ける。
こちらも初見ということで百五十程の騎馬が釣れた。
女性とはいえ二人も乗せている天馬に積める麻袋は2袋が限界のようなので一旦ウスイ峠へと引き返す。
騎獣たちの休息も必要だ。
特にずっと頑張ってくれているコゲツには疲労の色が見える。
帰る途中でミチナ様を乗せた青毛天馬のヒテンが合流して俺たちは何があったかを聞かされた。




