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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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百五話 闇夜の斥候

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 遠くに見える篝火を頼りに川沿いを進む。

 今のところは夕闇に紛れたおかげかコゲツが近付いたことも気付いて無さそうだ。


 時折足元を取られながらも着実に進んでいく。

 多少汚れが増える分には全く構わない。

 不自然な綺麗さや汚さは怪しまれるからな。

 これはクラマの修行で山林に隠れた狒々を探した経験から気付いたことで、綺麗でも目立つが、汚し過ぎていても不自然さが浮くのだ。


 村の子供の服なので師走の寒さが身に沁みる。

 庶民たちはよくこんな服で寒さに耐えられるものだ。

 まさか全員が火の内功型で魔法で肉体を温めているというわけでもあるまいし……。


 この遠征で不便だと思っていた皇京での暮らしも田舎から見れば十分に恵まれた環境だったんだなとしみじみ思い知った。


 今後の寒さ対策の思案を浮かべつつ拠点の近くまで到着する。

 篝火に照らされるマサードの本陣は異様という他なく、かまくらのような半球型の建物で、大きな入口の他には所々に空気穴が空いているだけだった。

 外側には柵が二重に張り巡らされており、千頭は居るであろう馬たちは一角に集められている。


 これがバンドー武者の強さを支える馬たちか。

 この国の戦は未だにイゼイ以外では作法に則った一連の流れからの一騎打ちが主流だと聞いていたが、ミチナ様の話を聞く限りどうもマサード軍は集団での突撃などの戦術を得意としているようだ。

 ノブナガ軍の策を組み込んでいる奴が居るのかもしれない。

 もしくは実際に奴らが手を貸している可能性も?


 夜陰に乗じて巡回の兵を避けつつ、更に敵の拠点の周囲を探った。

 しかし思ったよりも人の姿が見えない。

 あの拠点の中には地下空間が広がっているのか?

 前回のミチナ様の奇襲が相当効いたのか、アリの巣のようなものにしたのかもしれないな。


 二千人も居るとは言えど、短期間でそんな土木工事を行えるのはやはり異常だ。

 出来る事なら内部構造がどうなっているのかを調べたいが、さすがにリスクが大き過ぎるな。


 俺は匍匐前進で可能な限り拠点に近付いて、雷神眼に神経を集中することで入口から内部の様子を探った。

 やはり中には大量の生体電流の反応がある。

 入口から少し奥に広い空間があるのか大勢居るのを感じた。

 体勢的に眠っているのだろう。

 それより奥は扉が閉じているのか感知できない。


 黒鉄の鎧はそこにあるのだろうか?

 それともマサードが居ない今はもっと別の場所で保管されているのだろうか。

 ふと気になってもう少し近付けないかと身を上げてしまった。


「おい! そこに居るのは誰だ!? 何をしている!」


 ヤバイ見つかったか! だが急に機敏に動くのは危険だな。

 反射的に斬られる可能性がある。


「み、水を、ください......」

「な、なんだガキの行き倒れか。脅かしやがって。水なら向こうに行けば川があるからそこで飲んで来い! ここはお前のようなガキが来ていい場所じゃない。とっとと失せろ!」


 見張りの兵は俺がただの行き倒れだと安堵して川を指差しながら怒声を飛ばした。

 まあ、親切に助けてもらって内部の情報を掴めるなんてラッキーがあるとは思ってはいなかったので見逃されただけで儲けものである。

 俺は腰に差していた木刀を杖にして指差された方向へ静かにフラフラと力無く歩いてその場から離れた。


 いやー。冷や汗を掻いた。

 棒きれで作った木刀があるとはいえ、ほぼ丸腰で敵に見つかるって心臓に悪いわ。

 ちょっと待て。今の兵は黒鉄の鎧を身に着けて居たな?

 マサードが居なくても普段使いしているということだろうか。

 鎧の強度がどうなっているのか確かめないと……。

 

 気づいた俺は再び身を伏せて周囲を探る。

 狙うならば巡回の兵か。

 まずは身に着けているかを確認しないとだが。


 松明を持って柵の周りを歩いている一人に狙いをつける。

 一定距離を保ったまま目を凝らすと、男が身に着けている鎧は灯りに照らされて漆黒に輝いていた。

 マサードの作る黒鉄の鎧で間違いなさそうだ。


 俺は巡回の兵がなるべく川の近くを通った際に襲撃する決意をした。

 川を流れる水音というのは割と大きく、多少の物音などは気にならないだろうと踏んだためだ。

 暫し待っていると再び巡回の兵がやってきた。

 松明に照らされる顔は10代半ばくらいだろうか、大人というにはまだ幼さが見える青年だ。

 着慣れていないのか大鎧に着られている感じがする。

 彼には悪いが俺が襲い掛かるには丁度良い相手だ。

 俺が伏せている茂みを通り掛かる時に青年の両眼を雷珠で目潰して襲い掛かった。


「うわっ! な————」


 驚いて声をあげようとした青年の口に右手を突っ込んで雷を流し、舌を麻痺させる。

 同時に押し倒して両腕を膝で押さえて馬乗りになると左手で兜の前立てを引っ張ることで忍緒で気管と頸動脈を絞める。

 抵抗出来なくするために舌から微弱な電流を両手両足の神経と筋肉へと流し完全に動きを封じる。

 暫し経っただろうか。

 俺にとってはかなり長い時間に感じられたが、数十秒も経っていないのかもしれない。

 眼下の青年は白目を剥いて気絶していた。

 呼吸も脈もある。

 やはり殺人には多少の迷いがあったので死ななかったことに少し安堵する。


 即座に両手を麻痺させたことで松明を落としてくれて助かった。

 あれで抵抗されて拘束出来なければ即座に殺す決断を下すしかなかっただろう。


 腰の短刀を拝借し、鎧を結んでいる緒を次々に切っていく。

 そして鎧や佩いている刀を外すと具足のみを付けた状態になった。


 正直なところ大袖の1枚でも剥がして持って帰れれば上々だったのだが思わぬ幸運で一式揃ってしまった。


 どうする? 体型も俺より少し大きいくらいだしこれを身に着けて内部を探索するか?

 いや、緒を切ってしまったし大鎧を一人で着るのも手間だな。

 それに拠点に入る為の合言葉なんかがあった場合はお手上げだ。

 青年を起こして聞き出すにしても時間が掛かるし尋問するための安全な場所も用意出来まい。


 鎧を頂いて撤退が吉だな。

 俺は大鎧の紐緒を一繋ぎにして運び易くすると、余った紐緒で青年の足と手を結び、その真ん中を口に噛ませて茂みに放置した。

 松明に土を掛けて消火し、青年を放置した茂みの前に目印として残す。

 これで明日の朝にでも見つかるだろう。


 今回は青年を生かしたが何も情けだけで生かしたわけではない。

 大鎧を盗まれたことから敵が内部に潜り込んだとでも考えて疑心暗鬼になってくれれば上出来だな。

 マサードの魔力供給が無かった場合、襲撃があったと警戒を強める頃には既にサモリ殿の部隊が攻勢を整えているだろう。


 俺は川音に紛れガチャガチャと大鎧を鳴らしながら足早にマサードの拠点周辺から走り去った。


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