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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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百四話 拭えぬ不安

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「ミチナ様! サモリ殿の先行は危険ではないでしょうか?」


 俺は本陣の奥でミチナ様の前に跪いて質問した。


「ほう? ツナは何故そう思う? マサードの供給がないのであればあの黒鉄の鎧は普通の鎧とさして変わらぬと言ったのはお前だぞ?」


 その通りだ。空を飛びでもしない限りヒタチまで丸一日は移動に時間が掛かる。

 野鳥程度ならそこかしこに居るが空を飛べる騎獣を見たという報告は無い。

 出発寸前にマサードが供給していたとしても明日の早朝には間違いなく切れているだろう。


「マサードが居ないと仮定しても敵の数は二千。それに作りかけとはいえ敵拠点は前回のミチナ様の本気の奇襲を想定した造りをしていると聞き及んでいます。皇京からの援軍か周辺国が足並みを揃えるまで待つべきではないでしょうか?」

「サモリはヨリツには劣るが内功型の強者だ。なんせアタシが見染めた男だからな? 5倍の兵力差だろうとあの黒鉄の鎧が無いならば恐るるに足らん。それに言うではないか『兵は神速を尊ぶ』や『兵は拙速を聞く』と」


 ぐ。こうもサモリ殿に実力があると言い切られると、これ以上力不足だと言ってはミチナ様の実力を疑っているように見られるか。

 それにこっちの世界にはこないだの『兵は詭道なり』以外にもまるきり同じ諺があるんだな。

 戦争で速さが大事なのは道理だ。

 師匠から借りた『六袋(りくたい)』にも書いてあった。

 

「ならばせめて全軍で向かいませんか!? ただでさえ少ない戦力を分けるのは兵法の定石からは外れているのでは?」

「ふっ。お前が先ほど述べたではないか。敵の数や堅牢な拠点の危険性を。万が一に全員で向かって全滅するよりもここに百の精兵を残しておけばウスイ峠を抑えるだけでやつらをコウズケ内に押し留めることが出来るのだぞ?」


 むう。ダメだ。

 悉くミチナ様に言い負かされている。

 かくなる上は俺だけでも良いから敵の最新情報を掴んでおきたい。


「ならば、私にコゲツと共に偵察をお命じ頂けませんか!」

「子供一人で何が出来るというのだ。お前との問答は楽しいがアタシたちに貴重な戦力を遊ばせる余裕は無いぞ。ただでさえ戦力が少ないのだからな?」


 ミチナ様は悉く俺の言葉を使って論破してくる。

 東正鎮守府を纏める長にコミュ障の元ニートが口論で勝てる道理など無かった。


「ははは! すまんすまん。つい楽しくなってな。それで? ツナよ。お前は先ほどから何をそんなに気にしているのだ? お前の腹の内で抱えている恐れを聞かせてみよ」


 ミチナ様は大きく笑うと急に真剣な眼で俺を見据えて話を聞く態度をとった。

 その変貌に驚いたがすぐさま俺も姿勢を正して懸念していることを訴えた。


「これが罠である可能性です。敵は我らが周辺国に空から討滅の書状を配っている事は知っているでしょう。次にヒタチに向かうと予想してわざと民衆の前でクニカ殿を処刑したのだとしたら、これがサモリ殿を誘う罠に思えてならないのです」

「なるほどな。粗だらけだがそんな可能性もあるかもしれないってことは分かった。アタシも義父が殺されたわけだからな。冷静さを欠いていた部分があったかもしれねえ」


 そうか。処刑されたクニカ殿はミチナ様にとっても義父になるんだ。

 出撃に寛容だったのは同情心もあったのかもしれない。

 気持ちは痛いほど分かる。が、本当に今攻めるべきかは情報が足りないと思う。


「俺とコゲツを偵察に向かわせてください! 万が一の場合は俺が囮になってでも貴重な戦力であるコゲツを逃がします!」

「ふざけて言ってる訳じゃねぇんだな......。よし良いだろう。サモリには俺から伝えておく。ツナが危険だと判断したものを見た場合は撤退しろってな。バカな旦那だが無駄死になんて愚は犯さないよう躾けてある。遠慮なく進言しろ」

「はい! ありがとうございます!」

「サモリの事、よろしく頼む」


 ミチナ様の言葉に大きく頷き、俺は本陣から立ち去った。

 なんとか俺が偵察に出ることは認めてもらえた。

 どこまでやれるかは不明だがやれることをやろう。

 その前に皆に報告しないとな......。

 

「このバカ者が!」


 脳天に父上の拳骨を食らい ゴン! という鈍い音が頭に響いた。

 皇京出立前に怒鳴られた時よりも声量はそこまで大きなものではなかったが、父上に手をあげられたのは初めてだな。


 まあ独断で偵察任務を受けたうえに勝手にコゲツまで連れ出すことを決めたのだから自業自得である。

 横っ面をブン殴られなかっただけマシだろう。

 兄からは指を差して笑われ、姉妹からは心配されつつもジト目で睨まれた。

 本当に良い家族だ。

 この人たちの下へ絶対に帰ってくる。


 俺は近くの村人から子供の古着を借りて着替えるとコゲツに跨った。

 コゲツの鞍に鉄棍は結びつけてあるが、単独で情報収集中はその辺の枝で作った粗雑な木刀だけしか身に着けていない。石蕗(つわぶき)もサダ姉に預けている。

 もし見つかったとしても怪しまれぬように自分の中では兵士に憧れる村の子供という設定だ。

 普段天馬で偵察に向かうウスイ峠の方面ではなく南東にある山々の間をなるべく低空で駆け抜けて、コウズケのマサード軍が築いていた拠点から2㎞程離れたウスイ川の川幅が狭い地点に降り立った。


 コゲツにはウスイ峠の方に戻り山林に隠れたマサード軍の密偵を排除するようにと頼んだ。

 迎えは夜が明けるまで来ない。

 さあ、情報収集開始だ。



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